今日は2015年4月ドイツ・ベルリンからです。
今日のベルリンフィルは、ベルリオーズ「ファウストの劫罰」(Hector Berlioz: La Damnation de Faust op.24)。2時間以上の大曲です。
「ファウスト」はドイツを代表する文豪ゲーテが書いた長編戯曲で、老学者ファウストと悪魔メフィストフェレスが出てくるお話。ファウストとかメフィストフェレスと言った名前を聞くだけで、なにやらワクワクしてしまうのは私だけではないようです。ベルリオーズも、若いころジェラール・ド・ネルヴァル(Gérard de Nerval)が訳したフランス語版の「ファウスト」を読んで、すっかり夢中になってしまいます。その勢いで「ファウストからの8つの情景」という曲を作曲し、なんとゲーテに送りつけるのです。しかしゲーテは、あまりこの曲に興味を持たなかったのか、ベルリオーズに楽譜を送り返しています。ベルリオーズという人、女優のハリエット・スミスソンにいきなり求婚したり、婚約相手が自分の留学中に別の男性と結婚することになり、ピストルもって押しかけようとしたり、なかなか危ない人ですが、スミスソンに振られた時は、その勢いで代表作の「幻想交響曲」を書いてるんですよね。今回の「ファウストの劫罰」もハンガリーへ旅行しているときにまた「ファウスト」熱が出てきて、書き上げた曲のようです。1845年から1846年にかけて作られたこの曲、1846年12月6日のパリのコミック=オペラ座で作曲者自身の指揮で初演されました。しかし、大失敗に終わり、ベルリオーズは破産してしまいます。結局、この曲の人気が出るのは、本人が亡くなってからのことです。ベルリンフィルでの初演は、1890年11月28日、カール・クリントヴォルト(Karl Klindworth) の指揮で行われています。
「ファウストの劫罰」はジェラール・ド・ネルヴァルによる翻訳本を下敷きに、ベルリオーズ自身とアルミール・ガンドニエール(Almire Gandonnière)による台本に従って話が進行していきます。絶望のために自殺を考える老学者ファウスト、それに付け入る悪魔メフィストフェレス、マルグリートとの愛、彼女を救うために魂を明け渡せとファウストに迫るメフィストフェレス、ファウストは地獄に、そしてマルグリートの魂は救済され天国へ、ってな感じでストーリは進んでいきます。プログラムを書き出してみました。日本語訳は手持ちのCDとオペラ対訳プロジェクトを参考にさせてもらっています。
第1部
第1場
ハンガリーの平原にて
過ぎゆく冬は春に道をゆずり[ファウスト]
第2場
農民たちの踊り
羊飼いが羊の群れをおいてきた[合唱、ファウスト]
第3場
平原の他の場所
だがこの静かな田舎も、戦争の叫び声で満たされてしまう[ファウスト]
ハンガリー行進曲
第2部
第4場
ドイツの北部にて
なんの思い残すこともなく、微笑みをうかべている田舎を離れた[ファウスト]
復活祭の歌
キリストはよみがえりたまいぬ![合唱、ファウスト]
甘美な天井の歌よ[ファウスト]
第5場
おお、けがれなき心!聖なる天の子![メフィストフェレス、ファウスト]
第6場
ライプツィヒのアウエルバッハの酒場
さあ、もう一杯だ![酒飲みの合唱、メフィストフェレス]
酔っぱらいたちの合唱
ああ!なんてすばらしい! [酒のみの合唱、ブランデル]
ブランデルの歌
台所に一匹ねずみが住んでいた[ブランデル]
アーメンのためのフーガを![ブランデル、メフィストフェレス]
ブランデルの歌を主題にしたフーガ
アーメン[ブランデル、合唱]
これはこれは みなさん フーガはとても美しく[メフィストフェレス]
おい こいつは俺たちを小馬鹿にしとるんか? [合唱]
メフィストフェレスの歌(蚤の歌)
あるとき陽気な蚤が王様の家に住みついた[メフィストフェレス、合唱]
たくさんだ!ここから逃れよう おしゃべりは下劣だし[ファウスト、メフィストフェレス]
第7場 エルベの河岸の森と牧場
メフィストフェレスのアリア
こよい花ひらく[メフィストフェレス]
ファウストの夢
おやすみ!幸せなファウスト![大地の精霊と空気の精霊たちの合唱、メフィストフェレス、ファウスト]
空気の精霊たちの踊り
マグリート!私は何を見たのか? [ファウスト、メフィストフェレス]
第8場 終曲
兵士たちの合唱
城壁にかこまれた街[兵士の合唱]
学生たちの唄
今や星のきらめく夜がひろがり[学生の合唱]
兵士たちの合唱と学生たちの唄のアンサンブル [兵士と学生の合唱、ファウスト、メフィストフェレス]
第3部
舞台裏:太鼓とラッパによる帰営の合図
第9場
ファウストのアリア
ああ、このほのかな夕ぐれの甘美さよ![ファウスト]
第10場
マルグリートが来ますよ!![メフィストフェレス、ファウスト]
第11場
むし暑くて、息ぐるしいこと![マルグリート]
トゥーレの王(中世の歌)
むかしトゥーレに王ありて[マルグリート]
第12場
呪文
ゆらゆらする火の精たちよ[メフィストフェレス]
鬼火たちのメヌエット
ではここで、道徳的な美しい歌を歌おう[メフィストフェレス]
メフィストフェレスのセレナーデと鬼火たちの合唱
夜の明けかかる今時分 [メフィストフェレス、鬼火たちの合唱]
第13場 終曲
二重唱
ああ神様!私はいったい何を見ているのでしょう?[マルグリート、ファウスト]
第14場
三重唱と合唱
さあ、もうだいぶおそいですよ![メフィストフェレス、マルグリート、ファウスト、合唱]
第4部
第15場
ロマンス
激しい炎のような愛は[マルグリート、舞台裏の兵士の合唱、遠くの学生の合唱]
第16場
自然への祈願
広大で奥知れぬ崇高な自然よ[ファウスト]
第17場
レチタティーヴォと狩り
あなたには、蒼穹にきらめく[メフィストフェレス、ファウスト]
第18場
地獄への騎行
私の心にあの娘の絶望的な声が響く[ファウスト、農民の合唱、メフィストフェレス]
第19場
悪魔たちの巣窟
アー!イリミルカラブラオ![地獄に落ちたものと悪魔の合唱、メフィストフェレス]
エピローグ
地上にて
やがて地獄は静まり[6人のバス、小コーラス]
天国にて
ほめたたえよ!ほめたたえよ!ホザンナ!ホザンナ![天使の合唱、ソプラノソロ]
マルグリートの昇天
天に再び戻りたまえ[天使の合唱、児童合唱団、ソプラノソロ]
今回の演奏は、オーケストラに加え、テノール(ファウスト)、メゾソプラノ(マルグリート)、バス(メフィストフェレス)、バス(ブランデル)、そして合唱まで入り、大迫力です。個人的にはドミニク・ヴォレンヴェーバー(Dominik Wollenweber)のイングリッシュホルンに聞き惚れてしまいました。この人の音がすごくきれいなんですよね。ベルリオーズの「ファウストの劫罰」、やはり人間のどろどろの心理を音楽にさせたらベルリオーズの右に出る人はいない気がします。ファウストで描かれている人間の弱さ、愛情、それが悪魔に悪用されて行く様、それをここまで盛大に描き切っていくところは、さすがです。
今回のキャストは、
テノール(ファウスト役)、チャールズ・カストロノボ(Charles Castronovo)。
メゾソプラノ(マルグリート役)、ジョイス・ディ・ドナート(Joyce DiDonato)。
バス(メフィストフェレス役)、リュドヴィク・テジエ(Ludovic Tézier)。
バス(ブランデル役)、フローリアン・ベッシュ(Florian Boesch)。
合唱はベルリン放送合唱団(Rundfunkchor Berlin)。
指揮は、サイモン・ラトルでした。
たまには、こういったオペラ仕立てのコンサートもいいものですね。
今日もよいものが聞けました。
これからハンブルクへ戻ります。