自分はファンとしては失格だと思う今日この頃のわたくしなのですが | 或る獣の太陽への咆哮

或る獣の太陽への咆哮

エトバカ三兄弟、長男のブログです。ちょっと滞りがちですが、まぁ許してくだされ。

でもとっても指が弾みました。ところで最近入力しすぎなので、キーボード胼胝(って言うのか?)が出来てしまってちょっとブルー。というか、これはイフな話ですからね。これが終われば、ちゃんと元気になって出てきますからね。


痛いの嫌な人にはちときついかも。


エトの両手が二本の柱のように、まっすぐ天へ突き出されている。詠唱を続ける彼の周囲には、言い得ぬ金色の光が漂い、違和感から彼を包むように時折踊っている。
 もしかしたら、あれもファーン陛下かもな。
 不安を言い出せばきりがないほど、パーンの心には暗雲が立ち込めていた。だが、それを言い出せずにいる。きっとみな、同じだろう。しかし、どこかで確信してもいるから、あえて動こうとはしない。
 エトならば、きっと戻ってくる。元気な笑顔を見せて。
 パーンも、もちろん信じている。心から。誰よりも。
 けれど、それでも拭いきれない、この不安は、エトのものなのだろうか。自分が何かを予期しているからだろうか。
 俺たちが思うほど、事は簡単には片付かない、と。
 それでも、大丈夫だ、と言い聞かせる。何を言ってるんだ。エトはファリスのお気に入りだ。ファラリスになんて負けない。絶対にだ。
 なぁ、そうだろ?エト…。
 エトの口から最後の詠唱の言葉が紡ぎだされた。
「ファリスよ、御身が魂、迎えまつる!」
 言葉とすぐに、荘厳な違和感を持つものが、エトを目がけて降りてきた。エトはカッと目を開き、天を見ている。天井すらも突き抜けそうな強さで。
「これで、もう安心ね…」
 リアがため息をつく。ファリスが降りてきて、どんな方法かは分からないが、ファラリスを撃退すれば、もう大丈夫だ。フェネアも聖印を切り、まだ祈りながらも、涙を零して王を仰ぎ見ている。
 だが、降臨の瞬間でも、パーンの動悸は治まらなかった。叫びだし、エトを強引に引き戻したい。そんな衝動に駆られるほどだ。
 いやだ。エト。お前、何か、隠してる。ずっと、言えないことがある。俺には、分かる。
 帰ってこい。来るんだ。絶対に。絶対に!
「エ…」
 呼びかけと同時に黒い違和感が襲い、そしてエトの声がした。
『目を閉じて』
 反射的に目を閉じてしまった。


 だから、何が起こったのか、パーンには分からない。
 気付くと、そこにあったはずの神殿が全て瓦礫になっていて、近くにカシュー王が倒れていた。ディードリットの姿も見当たらない。
「エト…ディード…」
 カシュー王を起こすより前に、これも本能だろうか、親友と恋人を探した。
 一番に、親友を。
 何だろう。何があったんだろう。俺達は勝ったのか?負けたのか?それとも…。
「あ…」
 首を巡らせていた時だった。首の向きなら左斜め前方。方角なら北北東。
 エトがいた。一人、ぽつねんと立っている。その”左手”には、見たこともない剣。
 駆け寄ろうとして、雰囲気が違うことに気付いた。
 目の色が、違う。青ではなく、黄金色に輝いているのだ。
 そして、何の感情もない。鏡像魔神がいたときの方がもう少し人間味があるくらいだ。
「エト…」
 震えた声で呼びかけると、彼はついと顔を上げ、焦点を最初からなくしたような瞳で、パーンを見据え、そして、
 剣を、構えた。正眼の構えだ。俺を、殺す気でいる。
 また、何かがエトの中に宿ったのだろうか。だが、彼に感じるのは、空虚。何もない。真っ黒でもなく、真っ白でもなかった。
「どうしたんだよ?」
 エトには殺意すらなかった。戦意も、憐憫も、憤怒もない。だがその左手に握られた剣は、パーンの喉元を確かに狙いすましている。
「俺を…殺すのか?」
 エトになら、殺されても、何をされてもいいと思っていた。エトの望みなら、何でもできる、と。
 だが、今のエトに殺されることは、恐怖を感じた。命が惜しい。そんなことではない。何か別の存在に殺される気がするのだ。
 もう一度、呼びかけよう。例え、心が通じなくても…。
『聞こえてるよ』
 エトの声は、頭の奥の方で聞こえた。
『ごめんね。こうするしかなかったんだ』
『エト…どうしたん、だよ?』
 エトは一瞬黙り、また重々しく口を開く。
『僕は、もうほとんど死んだようなものさ。それでも、これで救えた』
 死んだ…?
『嘘だろ…?』
『僕が嘘をつくとでも?』
 くすっと笑う。そうして、聖王宮で怒られたっけな。
『だって…』
 あそこにいるじゃないか。それに、お前、答えてくれてる。


『あれは、僕じゃない』


 きっぱりと言い切ってしまった。
『お前じゃないって…』
『あれはエトであって、エトじゃない。君を殺そうとしているのは、古の盟約に従っているから。それが最善であり、最良であると生まれながらに教え込まれてきたから』
『なぁ、エト…!』
『だから、分かって。あれは僕じゃない。僕の意志じゃなく、体が勝手にそうしている。例え盟約であれ、神であれ、絶対に君を殺させない。僕はね、その為の用意をしていたんだ。ファラリスはずっと僕を狙っていた。そして今も、狙っている。ファリスも止めようとして下さっているけれど、それは結果的に君を殺すことになる』
 さっぱり分からない。全くもって、混乱している。
『いいから、最後まで聞いて。僕は君を生かしたい。絶対に。だから、二神にご退場いただくことにするよ。僕の最後のワガママだ。聞いてくれるね?』
『いやだ…』
 いやな予感は、これだったんだ。
 もう、分かる。分かったから、言うな。言わないで。
 エトは非情なほどの速さで、言い切った。
『僕を、殺して』
 どんな危機に直面した時よりも、一番目の前が真っ暗になった。
 鏡像魔神の中から聞こえてきたエトの声。あの言葉は、やっぱり真実だったんだ。
 エトの、意志なんだ。
『お願い。もうあれは、僕じゃない。この世を戦場として戦いを挑む、人形だ。君を殺して、完全な覚醒を遂げる。だから、お願い。僕を殺して。君の手で、葬って。悪いけど、フィアンナに謝っておいて。子供が見たかったと、伝えて』
『いやだぁぁぁ!』
『お願いだよ。この世界の、ヴァリスの、君のための選択なんだ。ね、頼んだよ。僕を、殺して』
 心の声が切れ、自動的に両手が剣を構え、エトの心臓を狙った。
 薄い胸のちょっと下。いつでも柔らかい鼓動で、俺を包んでくれた。
「いやだ…」
 べそをかくくらいに、怖い。エトを殺すなんて、絶対にいやだ。
 この世界なんて、どうだっていい!
『そんなに泣かなくてもいいよ。これは僕のお願いなんだから。ね、僕のパーン。上でなら、誰に気兼ねすることもないよ。ゆっくり本でも読んで待ってるさ。なるべくゆっくり、おいで』
 笑顔が見えるようだ。それと裏腹に、エトの体はゆっくりと、助走をつけ始めた。
 そうか。そうだな。
 上なら、こそこそ隠れなくても、いいもんな。
 でも、俺はこのお陰で。
 パーンはぐっと唇を噛み締め、親友だった体の心臓に、狙いをすました。
「…いいよ。聞くよ」
 王を殺した、謀反人になっちまうんだぜ?
『ごめんね…ありがとう』
 気を遣ってか、エトの声が去った。
 いつだって、お前はそうだったよ。
 どこか、遠慮がちでさ。
 俺達、親友だろ?そう言っても、うんと頷くだけでさ。
 そういうところが、俺はとっても、


 居合いの声を上げ、走り出した。
 涙を空に飛ばし、想い出を投げ捨て。


 大好きだったよ。


 パーンは、今日ほど、自分の腕前を呪ったことはない。
 手合わせではかわされっぱなしだった突きが、こんなところで、成功するなんて、な。
「辛かったろ…」
 そっと、血に濡れた手で、頬を撫でる。ファーン陛下がそうしたように。この血は、パーンの血だ。エトの不思議な剣が、右肩に深々と刺さっているためだ。治癒をかければ、まだ治る。
 でも、もう必要ないさ。
心臓を一気に貫かれたエトは、目を伏せ、眠るように息絶えている。
エトは、死んだ。俺が、殺したんだ。
俺が、この手で、エトの心臓を突き破ったんだ。
もう、微笑んでくれることもない。そっと囁いて、悪戯っぽく笑い転げることもない。
やっぱり、エトとの想い出は、笑顔ばっかり、だな。
「エト…」
 俺を死なせないために、殺して。そう、言ってたな。だけど、それはお前の意志だ。俺の、意志じゃない、よな?
「やっぱり、無理だよ」
 エトの腰から、ファーン王の短剣を抜き、エトの両手を取り、一緒に握り締めて、そっと首筋に当てた。
「お前のいない世界じゃ、俺は生きれないよ…」
 お前がヴァリスにいてくれたから、俺はロードス中を飛び回っていられた。帰るところがあったから。
 一瞬左手を離し、胸に踊る聖王宮のマスターキーを首から外した。
 それも握り締め、微笑んで、短剣をゆっくり右へずらした。
 ごめんな。俺、堪え性、ないからさ。
 意識が遠のく寸前、パーンはエトの、お決まりの言葉を思い出していた。それも、かなり生々しい声での、リフレイン。


 しょうがない子だね。


 そうだろ?


 向こう行ったら、頭でも叩いてくれよな。


 ありがとう、ごめんな。みんな。ディード。
 そして、これからもよろしくな、エト…。


 あとは締めて、明日上げます。昨日はちょっと羽目を外しすぎました。はい、激眠いです。おやすみなさいませませませ。