私のネタ庫は笊か漏斗か | 或る獣の太陽への咆哮

或る獣の太陽への咆哮

エトバカ三兄弟、長男のブログです。ちょっと滞りがちですが、まぁ許してくだされ。

というくらい、ちっとも貯蔵できない我が脳に怒りながら、何のかんのとじたばたして、もう一週間。最近本当に遅くてすみませんの一言しかございませんという心境でございますが、皆様は如何お過ごしでしょうか。

丁寧語の多用は阿呆のすることですが、しょうがないです。阿呆ですから。

ようやく貯まりましたので、どうぞご一読下さい。



 空間に映ったのは、どんよりとした曇り空の下、半分破壊されたファラリス神殿の姿だった。音は聞こえないが、そこが不気味な静寂に包まれているのは全員に伝わっている。
 スレインの視点が徐々に神殿に近付いていく。辺りには様々な死体が転がっている。人間、ゴブリン、オーガなど、種族の別はない。
 やがて、視点が神殿の階段へと辿り着いた。そこで、パーンとリアが声を合わせる。
「エト…!!」
 遅れて、ロエルたちも声をあげた。
「陛下!!」
 エトは、屍の中心に佇んでいた。地上の死体と違い、おそらく今殺されたばかりの死体なのだろう。彼の周りに積み重ねられた死体は男女の区別もない。全員正確無比に斬り殺されている。中には鎧に亀裂だけが走って、死んでいる者もいる。
 視点の右端に、人影が映った。その頭上に斧がある。振りかぶっているのだろう。
 斧はエトめがけて振り下ろされる。だが、その切っ先が及ぶ前に、斧は虚空に弾かれた。そして、振りかぶっていた司祭らしき男も、エトの剣により、地面に倒れていく。
 エトは冷たい笑みを唇に貼り付け、今殺した男を見下ろす。純白の王衣は血に塗れ、神殿近辺は雨が降っているのだろう、黒髪は頬に張り付き、金の王冠にも幾筋か絡まっている。右手には誰かから奪ったのだろう、小剣を手にしている。小剣の刃は鮮血に染まり、右手にまで伝っている。
 エトは左手を懐に忍ばせ、腰から短剣を取り出した。その剣をじっくり眺め、そして柄の紋章にそっと唇を寄せた。その時だけ、彼の顔に、いつものエトが戻った。
 だが、それは一瞬だった。エトは再び短剣を仕舞い、悠然たる足取りで神殿へと入っていった。
 そこで、映像は途切れた。詠唱を終えたスレインはふぅ…とため息をひとつつき、目を開ける。
「…中は、現場に行かないと分からないので、ここまでです。とりあえず、今からすぐ出発すれば、間に合うでしょう」
「そうね。さ、出発するわよ。あの勢いなら、信者全員殺しかねないわ」
 リアの号令一下、エトを説得するための隊が結成された。
 当然ながら、そこに入ったパーンは、ずっと考え続けていた。
「…あの、短剣」
 エトがキスをした、短剣のことだ。
 あれは、誰かのものなのだろうか。
 だが、今の状況では、全く分からない。とりあえず、早く追いつこう。パーンは気持ちを切り替え、広間を出て行った。


 もう少し。
 そう、もう少しで、お前の願いを成就してやれるよ、エト。
 ああ、叫んでいるね。もう、無駄だよ。歯車は回り始めてしまった。
 お願い、その手で誰も殺さないで。そうかい?なかなか、清々しいものだと思うけど?
 今さら、戻れないことは、分かっているだろう?お前はその本性を連合軍全体に見せてしまったようなものだ。恨むなら、ファラリスを恨めばいい。
 憎まない。恨まない。ああ、そう。それが、母上の教えだものね。
 確かに、お前はよくやったよ。よく頑張った。これだけの重い現実にも、勝った。けれどね、神はみな、心を見る。だから、ファラリスもお前の心を見た。心の中に燻る、払拭しきれない憎悪を見て取った。というよりは、僕を見つけた。両親を、最愛の人を奪っていったマーモへの、絶対に消せない、憤怒の炎。
 お前は、ファリスの力を得るために、『利き手を変える』ことまでしてみせた。だから、お前は『両手で』剣を持てる。どちらでも、振るえる。それが、とてもお前を苦しめている。僕には、その感情も愉悦でしかないけれどね。
 ああ、また愚かな奴が来たよ。こんな奴でも、血はきれいだね。
 お前と僕はファラリスを憎い。その感情は一致している。つまり、妥協点があるということだ。だから、祈るんだ。別に、この世を滅ぼそうという訳じゃない。僕はそんなこと、何の興味もない。僕が、断ち切ってあげるんだよ。憎き者を倒し、一番会いたがっている人に、会わせてあげる。それには、どうしてもお前の力が必要なのさ。
 おや、黙ったね。納得してくれたかな?
 なに?パーンたちを傷つけないで?さあ、どうかな。彼らが体を張って止めようとしたら、保証できないね。こっちから攻撃はしないよ。反撃はするけれどね。必ず。
 さあ、早く終わらせて、会いに行こうよ。あの人に。それが、お前の目標だろう?
 もう少しさ。頑張ろうよ、エト。


 一刻後、ファラリス神殿の前には、パーンたちの姿があった。パーンとフェグルス、レーベンス、そしてリアが先頭に立ち、陣形を組んでいく。
「エトは、どこに行くと思います?」
 そう尋ねられたのは、ロエルだ。先ほどから重苦しく黙ったままの彼は、やはり重く口を開く。
「おそらくは、神殿の大広間でしょう。我々が、ショーデルと対決した場所です。そこには、ファラリスの祭壇が置いてありますので…ん?」
 神殿を見据えたままのロエルが、ふと目を雨降りの曇り空にあげた。そこに、黒い天を確認したからだ。
 もっとも、戦が起こってからというもの、逃げ惑う鴉や野鳥の姿を目にするのは、さほど珍しいことではない。だが、ロエルはその空中の点に神聖力を感じた。そのため、注視したのだ。
 はたして、現れたのは、明らかに訓練された鷹だった。相当の距離を飛んできたのだろう。かなり疲弊はしているようだが、それでも命令通りに、目標物に向かって飛んでくる。
「あれは、神殿の…」
 ロエルが右腕を掲げる。鷹は二度羽ばたいてから、ロエルの腕に止まった。ちょいと嘴を触ってやると、目を細める。
 鷹の左脚には、書簡が括りつけられていた。ロエルは素早くそれを取り、広げる。
 目を通しながら、彼の顔色は劇的に変化していた。今まで死人のように真っ白だったその頬に、赤みが差したのである。
「…絶対に、陛下に、お戻り頂かなければ…」
 低く、震えた声でそう囁き、鷹に神聖語で何事か命じた。鷹は一啼きすると、大きな翼をはためかせ、ウィンディスの方へと戻っていった。
「ロエル、それは…」
「いや…あとで説明するよ。諸卿、とりあえず大広間へと急ぎましょう。私は、死しても果たさねばならぬ使命が、できました。一刻も早く」
 言い切り、ロエルは踵を返して、先に走り出した。慌ててフェネアが後を追いかける。
「なんだろうな?」
「さあ。でも、急ぐことには同意ね。行きましょ」
 パーンたちも、急ぎ彼の後を追っていった。
 総勢二十名全員が入った直後に、神殿の外は雷雨となった。

どんどんどん底(ふざけてるわけじゃない…です…はい…へい…自信ねぇ)へと落ちていきます。まさに畜生道。いや、これは近親相姦などに使う言葉でした。失礼。

ずるずるとダークサイドへと引きずり込まれる神官王と、その彼に告げられる、衝撃の真実。次週!…と、予告っぽくシメて、また更新のときをお待ちくださいませ。



しかし、今年の風邪は腹に来ます。いてぇー。先週ずっと何のかんのとグロッキーでした。体調管理にはご留意を。