ずいぶんとご無沙汰ですいません。 | 或る獣の太陽への咆哮

或る獣の太陽への咆哮

エトバカ三兄弟、長男のブログです。ちょっと滞りがちですが、まぁ許してくだされ。

最近朝が早いため、なかなか先が進まず…。決して、PCがコタツから離れているため、寒いから出れない、というわけではなく、必然的にこたつむり(byあしゃたなーたさん)になったため、読書が異様にはかどり、PC触る暇がなくなった、という訳でもございません。色々な要因の重なりです。本当ですって。


そんなふざけた筆者の小説、ようやく貯まりましたので、ご一読下さい。

ご注意:これからの話は、小説『英雄』を既読の片でないと、少々分かりにくいかと思います。もし意味が分からない場合は、気軽にお問い合わせ下さいまし。


 三分以上、彼の問いに答える者はいなかった。再び重苦しい沈黙が広間を支配する。
「…陛下、お許し下さい…」
 それを打ち破ったのは、ロエルの小さな呟きだった。聖印を切り、少し瞑目し、決意したように顔を上げる。
「パーン卿…これは憶測なのですが…」
「ロエル様?」
「ロエル…それは…」
 ハッとしたレーベンスが止めようとする。だが、ロエルは同僚の制止に首を横に振り、また顔を上げる。
「陛下が死に急がれる理由について、心当たりがございます」
「なんだって!」
「何、それ…!」
 ボルテージの上がる人々と対照的に、努めて冷静を保つロエルは淡々とこう告げた。


「陛下は…先王ファーン陛下の御許へと行かれたがっているのです、おそらく…」


 これもまた、パーンには初耳のことだったのだろう。唖然と家臣たちを見ていく。
「これを話すことは、躊躇いました。陛下が決してお口に出されなかったことです。そして、決してよい思い出ではなかったことと察しておりましたので…。ですが、事は急を要します。早く疑問を解消させて、ファラリス神殿へ向かいたい…その為にも、敢えて真実をお伝えしましょう」
 隣でうろたえるフェネアに、少し酷薄そうな笑みを投げかける。
「辛くても、全部聞きなさい、フェネア。聞けないのなら、君はファラリス神殿に行ってはいけない…いいね」
 フェネアは頷くしかない。
「何故、ファーン陛下の下へ行かれたがっていらっしゃるか…その理由は、たった一つです。陛下は…ファーン陛下のご寵愛を受けておられたからです」
 ピンと来ていないのは、ディードリットだ。
「それなら、あたしたちだって、見て…」

「いえ、ディードリット殿。そのような表面上のものではございません。ファーン先王陛下とエト陛下は、恋人同士であられたのです」
 これは、特にパーンとフェネアにとって衝撃だった。
「何で…エト…ファーン陛下と…そんな…」
「そんな…陛下は、殿方…ファーン陛下も…」
 引きずられまいと、ロエルが言の穂を継ぐ。
「このことは、英雄戦争当時貴賓棟に従事しているものでしたら、誰もが知っていた事実でした。ファーン陛下は、それはエト陛下をご寵愛になり、またエト陛下もそれにお答えになっていらっしゃいました。ですから…私のように事実の知る者から致しましたら、英雄戦争後のエト陛下のご様子は大変痛々しいものだったのです。決してどなたにも弱音をお見せにならず、ファーン陛下のご遺志を継いで、ヴァリスのために東奔西走なさる日々…。ですが、その心中だけは隠しようもございませんでした。たとえどなたに労をねぎらわれ、どのようなお席にいても、陛下はとてもお辛そうな顔をしていらっしゃいました。ご逝去から半年の間は、泣き腫らした目でお出ましになることも頻繁でした。そんなお方ですから…誰よりも生き急ぎ、早くファーン陛下の御許へ召されたかったのだと思います。そして、今まで抑え続けてこられた願望が、ファラリスの禁呪によって現れてしまった…」
「ちょ、ちょっと待って!」
 リアが唖然として尋ねる。
「エトの奥さんって、フィアンナ姫、よね?」
 ロエルは頷くことでそれに答える。
「フィアンナ姫は、ファーン陛下の娘…って、え!?それって…?」
「…陛下は、易々と他人にご真意を口に出される方ではございません。ですから、どのようなお気持ちでフィアンナ殿下を妃として迎えられたのか…それについては、私にも分からないのです。ですが、陛下はご結婚の前から真実フィアンナ殿下を愛しておられます。それは揺るぎようのない真実です」
 次に口火を切ったのは、スレインだった。今まで黙りこくっていた彼は、堰が切ったように語り始める。
「偉大なりし天座の大神、秩序と法を守りし、善き哉、気高き哉、ファリスの御名は、御身の天座より降りし一振りの剣は、うなじをかかげて、至高神の名を呼ぼう。天また昏く、水は涸れ、この身は地に伏し、わななけり。我が胸底のふる歌は、砕けし魂のためにあがないしなき歌、えしやよし、耳かす人はあらずとも、そのひとふしのあわれに愛でてかえりたまえ。愛児エト、御身が魂迎えまつる」
 それは、降臨の呪文だった。何故、魔術師が?と疑問に思っていると、
「これは、十四年前に実際にエト王が唱えた呪文です。彼はファーン王が倒れたその時にこの呪文を唱え、自らの身に至高神(ファリス)をさせようとしたのです。ですが、その本願はあと一歩、迎えまつるのところで切れました。私が止めたからです」
「お父様が…?」
 娘に頷きかけ、さらに話し続ける。
「そう、ファーン王よりご下命を受けていたからです。エト王を…止めて欲しい、と」
 また、重苦しい静寂が一分ほど支配し、やがてエルモアが呻くような声をあげた。
「貴殿にそのようなことを…陛下が…」
「ご出陣の一週間ほど前のことです。私たちはファーン王の昼食会に招かれました。その後、私とウッド、ギムの三人を沈黙の間にお連れになりました。そして、こう仰いました。『あの子は、神に愛されておる。それこそ、魂まで全てを。ジェナート殿もそう仰っていた。日に日に、神へ近付いていくと。しかし、わしはまだ、至高神にあの子をやりたくない。だが、エトは自ら進んで、その身を投じるかもしれんのだ。それを、どうか止めて欲しい。これは、王としてではなく、個人として、エトの友人であるそなたに頼みたい。わしが倒れ、ベルドが生きておれば、願うだろう。わしの復活と、ベルドの浄化を。そして、至高神はそれを叶えるだろう。それだけ、エトは愛されておる、神に。万が一、ニースと同じ奇跡を起こせたら、再びこの地に戻ってくるかも知れぬ。だが、それはあまりに危険すぎる賭けだ。だから、スレイン殿。どうか、止めてもらえぬだろうか。エトはまだ若い。そして、溢れる才能には、底知れぬものがある。賭けるのならば、命ではなく、才能に賭けたい』そう仰った後、ファーン王は深々と頭をお垂れになったのです。あのような貴人に頭頂部を見せられて乞われた願いを、叶えないわけにはいきません。ですから、私は彼を止めるために戦場に赴きました。彼はファーン陛下のご推測の通り、降臨を願いました。私は必死で、ファーン陛下のご命令です!そう叫び、彼を現世に留めさせることに成功しました」
「スレイン…そんなこと…誰にも…」
「言えると思います?ヴァリスの王が全軍のことよりも、身近な宮廷付司祭の安全を願ったのですよ。閣議で真剣に討議に耳を傾ける英雄王が、片やではご自身の恋人のことを第一に思っているのです。まして、私はヴァリスの人間でもない。言えるはずがないですよね。それに、エト王が頑として口を開かれないのです。彼は心の中でずっと決意を固めていたのだと思います。出撃のとき、寂しそうな笑顔で、私に微笑みかけてきたことを覚えています。たとえ全軍が勝っても、自分は生きていないこと、それをもう分かっていたのだと思います。私は、とても納得できませんでしたがね…」
「俺、何にもそんなの…」
「あなたには言えないでしょう、パーン。もし、あなたが事前に、エト王が死ぬ決意を秘めて、それでも戦に赴こうとしたことを知ったら、如何なさいます?あなたなら、体を張ってでも止めたがったでしょう。それを分かっていたから、エト王は敢えて我々と距離を置きたがったんだと思います。ルノアナに到着する前日、エト王がポツリと話したことがあります。『僕は、パーンのことだけが心配だった。僕はずっと、彼のことを子供だと思っていたから。僕が死んだら、どうするのだろう。戦の前、そんなことをずっと思っていた。でも、彼にはもう仲間がいる。だから、気にするな。お前はいつだって、自分で決めたことを覆さない。いや、覆せない性格だろう?そう結論づけて、戦に向かった。そして、彼は生き延びた。もう、僕の知ってる子供じゃない。半月の間に、彼は成長した。だから、僕はもう何も心配しない。安心して、ロイドに戻るよ。もう僕は旅には出ない。そう決めたから。あの方の夢を、叶えるためにも』これは、本音なんだろうな。そう思った私に、少し悪戯っぽくこう囁きました。『これは、パーンには言わないでおいて。スレインの心にしまっておいてね。僕も、君の願いを叶えるから』つまり、等価交換というわけです」
「お父様の願い…?」
「ギムの魂を、送ってもらうことですよ」
 レイリアが声にならない叫びをあげる。
「あなたを攫ったカーラの実力を、ギムはよく知っていました。彼もまた、死ぬ覚悟でルノアナに向かっていったのです。彼の真意を知っていた私は、敢えてエトに助命を願いませんでした。彼は自分の役目を見出していましたから。それを邪魔することは、彼の恥に当たります。エトは約束通り、ギムを天界へと送りました。私も、彼の本音を誰にも告げませんでした。でも、言ってしまっては、仕方がありませんかね」
 スレインは喉を一度鳴らし、今度は幾分低い声で話を続ける。
「私は、エトとファーン王の愛がどんなものであったのかは知りません。ですが、ファーン王が国よりも深く想った彼が、このような形で天に召されたがっていることを、はたして望むのでしょうか…それを、ずっと考えていました。彼がしていることは、今までの彼を全て否定することです。平和を愛し、至高神を深く信仰し、愛のために生きてきた…今の彼は、己の願望のままに生きているだけです。そんな彼を見て、ファーン王は天界で痛ましく思っているのではないか…。ですから、私はファラリス神殿に赴き、彼にそれを問いかけたいと思います。あなたが愛する人の玉座に掛け、彼の遺した国を治めてきた…それすらも、今のあなたは無駄にしているのではないか…。私は聞いてみたいと思います。彼の本当の思いを。そして、答えを」
 スレインは静かに言い終え、やがて何かの古代語を唱え始めた。
 パーンは、その言葉に納得したように、静かに頷いた。そして、口を開く。
「…本当に、エトの言った通りだ。俺は何もあいつの力になれなかった。あいつの本音も、本心も、何も知らなかった。ようやく、即位直後のエトが、あんなに辛そうな顔をしていた理由も分かったよ。確かに、あの頃の俺は、何も分かってやれなかったと思う。逆に混乱して、あいつを傷つけるだけだったと思う。だから、謝りたい。謝るために、あいつを止めたい」
 パーンの目には、しっかりとした光が戻っていた。
「パーン…」
「ごめんな、ディード。今の俺には、あいつが大事だ。君がどう言っても、俺は行く。ファラリス神殿へ。あいつと会いたい」
 ディードリットはしばらく黙りこくっていたが、
「…いいわ。あたしはそんなあなたも大事だし、エトも大事よ。仲間だもの。あたしはあなたの背中を守るわ」
「話は纏まったみてぇだな。俺も行くぜ」
 ウッドも親指を上げる。
「その前に、こいつら捕まえておけよ」
 蹴り上げた相手は、ガットたち生き残りのファラリスの司祭だ。
「中の見取り図を作らせるのもちょうどいいしよ。俺は先に行ってるぜ」
「ウッド、一人じゃ危険よ!」
「なぁに、生き延びてみせるさ。俺は俺で、あいつに聞きてぇことがあんだ。神殿で待ってるぜ」
 ウッドは俊足を生かし、広間から消える。
「…ウッドは大丈夫さ。それより、リア」
「わーってるわよ」
 リアがつかつかと歩み寄り、ガットたちにスパイダーウェブをかける。
「ぐぅっ!」
「あとでたっぷり吐かせてやるわ。道案内も頼むわね。できなきゃ死ぬ、そんくらいの覚悟決めておきなさいよ」
 ふんと鼻を鳴らし、パーンと視線を合わせる。
「あたしはまだ久しぶりも、国王陛下としてのご気分もまだ聞いちゃいないわ。それに寝覚めも悪い。行くわよ。幼馴染だしね。いいでしょ、リラ」
「もちろんだよ。僕も、エトと話がしたい」
「そゆこと。あたしの仲間はもちろんいいわ。ね、クリス」
「ええ。話も纏まったようだし、後は希望者募って一団結集ね。さ、スレインの魔法が完成するわよ」
「何の?」
「遺失魔法に近いわね。遠見の景色を具現化するのよ。さしずめ、今のエト王のご様子かしらね」
 はたして、空中に靄が浮かび、それが一つの空間を形作り始めた。


さあ、出ました。英雄王。ついでに最近ファリスの聖女をぱら読みしたため、美麗ファーン様が頭に浮かんでしょうがありません。煩悩だらけ小説ですが、最後までどうぞよろしくお願いします。