イエスがヘデロ王の時代にユダヤのベツレヘムで生まれた時、東方の賢者達がエルサレムにやってきて言いいました。
『ユダヤの王としてお生まれになった方はどこにどこにおられますか?私達は東のほうでその方の星を見たので、拝みに参りました。』
ヘデロ王はこれを聞いて不安になり、エルサレムの人々も同じであった。
そこで彼らは祭司長らと律法学者らをすべて集め、キリストはどこで生まれるのかと問うた。
マタイによる福音書 第二章より
今年は祝日とクリスマスが重なり、いつも以上に騒がしいクリスマスとなった。
俺は病院が休みである金曜にみちるの外泊許可を取り、みちると優希の三人で一日早いクリスマスを過ごした。
みちるを迎えに行き病院を出た。
郊外の大きな玩具店に立ち寄り、ひかりと優希のクリスマスプレゼントを二人で選んだ。
久しぶりの外出で興奮気味なのか、みちるはまだ店内を見て回るんだと言って聞かない。
(長時間人混みの中にいさせるのは不安なんだが…)
「…わかった。必要な物を選んだらすぐに帰るからな。」
みちるは満面の笑みを浮かべ、優希を抱いたまま店内をキョロキョロと歩き回り始めた。
どうやら目的のものを見つけたらしい。
足早にそれに近づき、優希に見せながら何かを選んでいる。
「いったい何を買うつもりなんだ?」
「ねぇねぇトシ~、もりのようせいさんはサンタさんとトナカイさんとツリー、どれがすき?」
「…」
みちるが口にした『森の妖精』は空想の生き物なんかじゃねぇ。
ethlinの事だ。
「どれって…やっぱりツリーじゃねぇか?森に住んでるくらいだからな。」
みちるはご機嫌な様子で鼻歌を歌いながら、ツリーの絵がプリントされたバッグと黄色い星柄のリボンを選んだ。
「ねぇねぇ、ようせいさんはいいこ?いつもいいこにしてる?いいこだったら~ごほうびにみちるがプレゼントをあげるよ♪」
「あぁ、いいこだ。毎日毎日小さな体でがんばって働いている。」
「じゃあ~みちるがつくったはらまきをあげるよ♪おなかもからだもあったまる~♪」
「…なんで腹巻なんだよ?」
「トシわすれちゃだめ~!はらまきはようせいさんのひっすアイテムでしょ?はるもなつもあきもふゆも~いちねんじゅう!」
つい笑いが漏れた。
どうやら冷え防止のための腹巻を渡した時、むずかるみちるに俺が言った言葉を憶えていたらしい。
『腹巻は森の妖精も愛用している由緒正しいもんなんだ。妖精は食が体の資本だ。腹を壊したら何も食えなくなるだろ?だから一年中腹に巻いている。』
『そうなの?ようせいさんはもりをまもるために、たくさんはらまきをもってるの?』
『ククッ…たくさんかは知らねぇがな。肌身離さずだ。みちるも見習え。』
(もしかしたらあれか…マフラーか帽子でも編んでるのかと思ったら…ククッ…よりによって腹巻かよ。しかし、あいつにはちょうどいいかもしれねぇな。)
「妖精からみちるへのプレゼントを預かっている。きよしこの夜のメロディが流れるクリスマスカードだ。家に帰ったら渡してやるから、みちるもいい子にしてろ。」
「うん♪みちるいいこ!ようせいさんもいいこ!き~よし~こ~のよ~る~ほ~しはぁ~ひ~か~り~。」
みちるはレジでもらった星飾りを手にして、ご機嫌な様子で歌を歌い始めた。
あいつが働くデパートの吹き抜けに飾られた大きなクリスマスツリーにも、今年もひと際大きな星が輝いているのだろう。
クリスマスの星。
別名ベツレヘムの星。
イエス・キリストの誕生を知らせ、東方の三賢者をベツレヘムの地へと導いた奇跡の星。
12月25日、慌しい営業時間がやっと終わり、俺達は後片付けに追われていた。
クリスマスの装飾を取り外し、正月向けのアイテムをいくつか陳列したところで店内をざっと見回した。
「左之助ご苦労だったな。姉さんが待ってるんだろ?早く行ってやれ。総司、せっかく近藤さんがお前とクリスマスを過ごすために色々用意して待ってんだ、お前ももう上がれ。斎藤と平助はカフェの後始末は終了だな?よし、上がっていい。細かい雑務は明日の朝全員でやっつけるからな、時間に遅れるんじゃねぇぞ。」
「はいはい…土方さんもそろそろ用意して出なきゃいけないんじゃない?冷蔵庫のケーキを忘れずに。じゃないと、去年みたいに新八さんに食べられちゃう。くす…あれはあの子専用の一人分サイズのワンホールケーキだから、新八さんのお腹には足りないと思うけど。」
「なんだよ総司!去年のあれはな、山南さんが『どうぞ召し上がってください』つーから食ったんだぜ。食い逃げ犯みたいな言い方するなよ。」
「新八…ちゃんとわかってる。お前が食い逃げ犯じゃねぇことくらい。だから明日の朝は早く来い。一人で飲んだくれて遅刻するくらいなら、ここに一晩泊まって行け。」
「ひでぇな、土方さん。一人で過ごすの決定かよ!」
「事実そうじゃないの?山崎君は山南さんと明里さんに呼ばれてるみたいだし。」
「だぁーーー!!!俺だって…俺だって…どこかに俺と聖なる夜を過ごしたいって女の子がいるはずだーーー!!!」
「うるせぇ!新八!寝泊りする気がねぇならさっさと出て行け。お前がいたら何時までたっても戸締りが出来ねぇ!」
最後に騒ぐ新八を追い出すと、Staff Roomの中はシーンと静まり返った。
みちるから預かったプレゼントと俺が用意した小さな箱を確認し、俺は静かにソファーにもたれかかるように身を沈めた。
「…時が経つのは早いな。あの時から…みちると俺の時間は止まっちまったと思っていたが…。」
偶然あの小さな花を見つけたあの時から、俺の止まっちまったハズの時間はゆっくりと動き出した。
泣いたり怒ったり笑ったり、あいつの一つ一つの表情が言葉が、涸れた俺の心にあたたかな水を与えてくれる。
『私は歳三さんを信じています。最後一人になっても…私は歳三さんを信じたい。』
無力なだけのただの少女は、迷いながらも自分の進む道を決めた。
「どれだけ傷つけても最後まで俺を信じるとくれたあいつに、俺は何をしてやれるんだろうな。」
守りたい…穢れる事のないあの小さな花を、俺を照らし続ける小さな星の光を守ってやりたい。
今度こそ守り通さなくてはいけない。
これ以上、俺の大切なものを、大切な花達を傷つけるわけにはいかない。
ポケットの携帯が静かに揺れた。
メールの着信を知らせる画面を確認すると、俺は黙ってメールを開いた。
ethlinからのメールだった。
From:BB
Subject:Merry Christmas!
本文:
こんばんわ。
今仕事が終わりました。
今から外へと脱出します!
短い文章と共に一枚の写真が添付されていた。
大まかな装飾が外された大きなツリーの側で満面の笑みを浮かべる、小さなサンタの写真だった。
その頭上には明るく輝く大きな星があった。
「ベツレヘムの星…。」
お前はベツレヘムの星だ。
俺だけのベツレヘムの星だ。
答えも出せず勇気も出せずにいた俺を、光ある方へと導いた奇跡の星だ。
俺はお前に何も与えることが出来ない。
それでもお前は惑い苦しむ俺の背中を、いつも黙って押してくれるんだな。
「俺は星の元に集う。そして今夜、俺はお前に与えられるだけの安らぎを贈ろう。」
短く返信を返し、俺はソファーから立ち上がった。
冷蔵庫からケーキを取り出し、俺はそっとStaff Roomを後にした。
今夜は聖なる夜。
聖なる夜には奇跡が起きる。
心に光が届けばきっと…必ず奇跡は起きる。