「土方君…君は今日の主役じゃないか。こう…もう少し…和やかに笑ってみたらどうかな?」
「悪かったな山南さん。これが地顔なんでね。」
5月30日、夜の桜花は大勢の女性客で賑わっていた。
今晩は俺の誕生日イベントとして、5月31日になった瞬間を皆で祝うらしい。
俺はぐるりと客の顔を見渡した。
その中にあの小さな花はいない。
はにかんだ笑顔で笑う、あの小さな白い花はいない。
(11時50分か…。明日は仕事だって言ってたな。今頃布団の中で夢でも見てんだろ。ふっ…暑くなってきたからな…布団蹴っ飛ばして、挙句の果てに腹出して寝てるんじゃねぇだろうな。)
「土方さん、何一人で笑ってるんですか?」
総司が俺の耳元でそっと囁いた。
「笑ってねぇ。」
「笑ってました。」
「お前の気のせいだろ?」
「クス…コロボックルちゃんの事考えてたんでしょ?土方さんが笑う時ってさ~コロボックルちゃんの事考えている時くらいしかないもんね。」
「うるせぇ!総司!!」
俺と総司の小競り合いを見た客から笑い声が上がる。
数人の若い女が総司の周りに群がり、俺と何を話したのかと騒ぎ立てている。
「ん?ちょっとね~森の妖精の話だよ。土方さん、ああ見えてもメルヘンが大好きなんだ。クスクス…全然似合わないけどね。」
店の中が客の笑い声で一段と騒がしくなった。
(やれやれ…今晩はあいつを招待しなくて正解だな。こんな喧騒の中にいたらますます恐縮して、ますます縮こまっちまう。)
静かにあの小さな花の事を想った。
小さな白い花。
心優しき白い小さな花。
俺の大切なBB。
「トシ!主役がそんな端にいてはいかんぞ!!それにそろそろ時間ではないか。」
今日は俺の誕生日イベントだというのに、一番嬉しそうで張り切っているのは近藤さんだった。
「近藤さん…ったく…仕方ねぇな。」
近藤さんに促され、俺は店の中央の席に座った。
「もうすぐカウントダウンを始めるからよ、0時ちょうどになったら手元のクラッカーで、土方さんのバースデーを盛大に祝ってくれよ!」
新八の大声に答えるように、客の声が響く。
「言っとくが…くれぐれも土方さんを狙ってクラッカーを鳴らすなよ。そんな事した奴は全員敵とみなされて…一人残らず鬼みたいな顔で斬られちまうぜ。」
左之助の冗談に、客の笑い声が答える。
「全員にクラッカー渡ってるよな?持ってない奴がいたら手上げろ~。」
「平助、副長を盛大に祝いたいというお前の気持ちはよくわかる。だが、お前一人で5個もクラッカーを鳴らすのはやり過ぎだろう。没収だ。」
「え~一く~ん。どうせなら5個まとめて鳴らした方が面白いじゃん。」
「まっ!藤堂さん、貴方…土方さんを狙い撃ちするおつもり?貴方に土方さんのハートはわ・た・さ・な・くっ・て・よ
。」
平助、斎藤のやりとり、そして伊東さんのおねぇ言葉に、さらに店の中が沸いた。
「そろそろ0時になろうとしているな。うむ、原田君、カウントダウン開始だ。」
「よっしゃ~みんな行くぜ!用意はいいか?遅れんなよ。全員俺について来い!!」
ひと際大きな声が桜花に響いた。
「30秒前……20秒……10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、ゼロ~!!」
「「「Happy Birthday!!」」」
一斉にクラッカーの音が鳴り響いた。
火薬のにおいが鼻をつく。
ど同時に、ポケットの中の携帯が静かに震えた。
(誰だ?こんな夜中に…。)
気にはなるが、今は目の前の客に集中する事だけに徹するしかない。
「みんな、ありがとな。こんなに大勢で祝ってもらった誕生日は初めてだ。俺は誕生日なんてもんは、ただ年を取るだけのつまらねぇもんだと思っていた。だがな、その…なんだ…案外嬉しいもんだな。」
Happy Birthdayの歌声とともに、大きなケーキが運ばれてきた。
客一人一人が祝いの言葉とともに俺に花を差し出す。
自然と笑みが零れた。
(こんな誕生日も…悪くねぇ。)
義理ではない。
心からそう思えた。
しかしこの後悪乗りした三馬鹿トリオがハメを外し、俺を優勝した野球チームの監督さながらの胴上げをし始める。
最後は俺を受け損ねて床に落とし、俺の雷も盛大に落ちた…って言うのはホンの余談だ(苦笑)。
最後の客を見送った事を確認すると、桜花の灯りが静かに落ちた。
俺はカウンターで静かに熱い茶を飲んでいた。
(そういえば電話…いやメールか?何か来ていたな。)
ポケットから携帯を取り出し、着信を確認する。
(メール…誰だ?こんな夜更けに。)
送信者を確認して、つい笑みが漏れた。
From:BB
subject:HAPPY BIRTHDAY!!
歳三さん、お誕生日おめでとうございます。
歳三さんと出会って、もう一年が経ちましたね。
この一年はいろんな事があって、私はいろんな事を知りました。
最初から泣いてばかりだけど、少しだけ強くなって…少しだけ大人になれた気がします。
この偶然の出会いに、私はとても感謝しています。
私は歳三さんに会えて、本当によかったと思います。
歳三さんにたくさんの幸せが降り注ぎますように。
そしてその幸せが、永遠に続きますように。
ethlin
「紫のカーネーション…ムーンダスト。花言葉は確か…永遠の幸福。」
(血塗るられたこの俺が…幸せになる資格があるのか。)
俺はたった一人の愛する女を守る事が出来なかった。
そしてこの世に生を受けた小さな命さえも見殺しにした。
そして復讐のため…全てを奪った男への復讐のためだけに生きると誓い、今まで生きてきた。
この手は制裁という肩書きで何度も人を傷つけ…そして多くの血を吸い続けてきた。
俺はそれでいいと思っていた。
それが愛する者を守れなかった俺の運命であり、それがみちるへの唯一の贖罪だと…そう思っていた。
こいつに出会うまでは。
「どうしました、土方君?」
「山南さんか…いや…なんでもない。ちょっとした考え事だ。」
「みちるとethlin君の事ですか?」
「…。」
「確か…去年の今頃だね。君が少しずつ変わり始めたのは。みちるへの贖罪のように封印していた笑顔を取り戻し、みちるの事も前向きに動き始めた。そして今、君とみちるが失った小さな命が再びみちるに宿り、産声を上げてこの世に誕生した。」
「山南さん…俺は。」
「なんの因果かわかりませんが、ethlin君が…いえ…あの姉妹が私達の前に現れてから、『桜花』は俄に動き始めた。そう思いませんか?消しても消せない辛い事もある。それでも私は良い方向に向かっていると…そう思っています。彼女達にとって、それは辛い選択になるかもしれませんがね。」
「…。」
「少なくとも、歳…君が変われた事に私は安堵しているよ。だから彼女には感謝している。おや…。」
山南さんは俺の携帯の画面を見て、薄く笑った。
「もしかしたらそれは、小さな赤ずきんから森の狼への贈り物ではありませんか。どうやら赤ずきんはおばあさんに美味しい食べ物や綺麗な花を運ぶだけが仕事ではないらしい。彼女が与えられた天命は、君に幸せを届ける事…なのかもしれないね。」
「幸せを運ぶ赤ずきんか。」
赤い帽子を被り、花籠を持ってちょこちょこと森の中を歩くethlinの姿が脳裏を過り、俺はつい笑い出してしまった。
「クククッ…そうかもしれねぇ。普段は花籠の代わりに真っ黒なでっかいリュックを担いでいるがな。」
あいつが俺に幸せを運んでくると言うのなら、俺はそれを受け止めよう。
あいつがこの俺にその資格があると言うのなら、俺は喜んでその手から祝福を受けよう。
あいつに与えられる幸せなら…俺は全てを受け入れよう。
そしてあいつに…
心優しき小さな花にも…
「壊れる事のない、永遠の幸福が訪れるように…。」
(出来る事ならこの俺がこの手で…少しでもいい、あいつに幸せを与えてやりたい。闇にのまれていたこの俺を、光ある方へと導いてくれた大切なお前を…この手で。)
俺は静かに祈る。
胸に咲く小さな白い花のために
俺の大切な…Baby Breathのために。
