「147円です。」
「サンキュ。」
熱いミルクティーの缶を手に取り外へ出た。
缶を開け一口口にすると、少し先から誰かが手を振っているのが見えた。
飛びぬけて背の高い女の子と、その横に小さな女の子。
「よう!ゆきちゃんのethlinちゃんじゃねぇか!」
こちらも大きく手を振ると、二人は急ぎ足で近づいて来る。
「永倉さん、こんにちわ。お久しぶりです。」
「永倉さ~ん。お久しぶりでございます。そして!ハッピーバレンタイン!ですよ♪すっごい遅れましたけど。」
ゆきちゃんがデパートのペーパーバッグから小さな箱を取り出し、俺に差し出した。
「おっ!マジでいいのか?うぉ!メッセージカード付かよ!?ゆきちゃんの本命は総司だろ?」
「いやん
もちろん沖田さんには特別なチョコレートと特別なメッセージを用意し・て・ま・す・よ。」
「ガハハハッ!そうだよな。」
笑いながらethlinちゃんを見る。
ゆきちゃんと同じデパートのペーパーバッグを一つ、そしてもう一つ別に市販のペーパーバッグを大事そうに握りしめていた。
「ethlinちゃんも土方さんに特別なチョコを用意したのか?」
「えっ?あっ…はい。」
何気なくペーパーバッグの中を覗きこんだ。
ケーキの箱らしいモノの横に、封筒が添えられた小さな包みがある。
「ケーキと小物か~。メッセージカードまで用意してよ、土方さんが羨ましいぜ!」
封筒をじっと見るつもりはなかった。
それにそれは土方さん宛てだとばかり思っていた。
だからその封筒に土方さん以外の名前が書かれている事に気がついた時、つい声が漏れてしまった。
そこに書かれていた名前は、ひらがなで大きく三文字。
「あっ…わりぃ…。」
その声で、俺がその包みの贈り先に気がついたとわかったのだろう、ethlinちゃんが複雑で泣きそうな顔をして俺を見つめている。
「あのよ、ethlinちゃん。」
「あの…永倉さん。」
二人同時に声をかけた。
「先輩。私コンビニの中見てますね。」
気を使ったのか、ゆきちゃんは手を振りながらコンビニの中に消えて行った。
「あのよ…。」
「私、秋にみちるさんから招待状をもらったんです。」
少し顔を引き攣らせながら笑い、堰を切ったように話し始めた。
「『小さなお花のようせいさんへ』って…みちるさんのいる病院の秋祭りの招待状。でも、せっかくもらったのに、私どうしたらいいかわからなくて…わけわかんなくて…。せっかく招待してくれたのに、ちゃんとしたお礼も言えてなくて。だからクッキー焼いてきたんです。野菜のクッキー。妊婦さんはチョコ食べていいのかわかんないし、栄養のあるものなら大丈夫かな~と思って。」
泣くのを我慢しているのか、ときどき言葉を詰まらせながら言葉を続ける。
「私、やっぱりずるいんですよ。本当はわからないし、わかりたくない…みちるさんの事。そんなにまで大切な人がいるのに、なんで私に優しくしてくれるの?って思うし。自分にだけ優しくして…自分だけ見て…なんて我が儘な事ばっかり考えてる。でも歳三さんに『許して欲しいんじゃない。ただ解って欲しい』って言われて…府に落ちない事だらけなのに解ったフリして…嫌われたくないから…聞き分けのいい子のフリしてる…私嫌な…」
「ずるくなんかねぇだろ?」
今にも泣き出しそうなethlinちゃんの頭をそっと撫でた。
「好きな人を独占したい!って気持ちは誰だってある。それだけ相手が好きって事だろ?俺だって…思うぜ。あっ…相手もいないくせにって笑うなよ。俺だって人を好きになる。大切に想う…大切に想っていた人がいる。第一ethlinちゃんはフリが出来るほど器用じゃないだろ?楽しい時は笑って、頭にきた時は怒って、泣きたい時には泣いて…。いつも自分に正直に生きてるぜ。」
こんな事を言っても何の解決にもならないし、この子の気が晴れるわけでもない。
俺はただ…目の前にいる彼女が…大切な仲間には笑っていて欲しいと思う気持ちでいっぱいだった。
「しっかしな~、ホント土方さんが羨ましいぜ!あの人はやる事なす事何でも強引でよ、いきなり一人で突っ走ったりするしよ、ethlinちゃんより付き合いの長い俺でさえうんざりする事多々あるぜ。それでも…こんなに…こんなにも強く想ってもらえるなんてよ…男冥利に尽きるよな!」
パンっ!と軽く肩を叩くと、涙を堪えながら赤い顔をしてなんとか笑顔を作ろうとしている。
(誰にも言えなくて…ずっと我慢してたんだろうな。なおさんに言うわけにもいかない、仲良しのゆきちゃんにさも軽々しく話せる事じゃないしな…。)
「これがなおさんだったらよ、とっくに掴みかかって張り倒してるところだよな。…いや…マジで張り倒されたんだっけ…。いやなんでもない。ひとり言だから気にすんなよ。とにかく、土方さんも命拾いしたよな!」
大声で笑うと、ethlinちゃんもふふっと笑い声を上げた。
「永倉さん、ありがとうございます。永倉さんはこんなにも優しくて気使いの出来る人なんですからきっといます。永倉さんの事が好き…大好きって人!」
「おっ…おう。そうだな…いるよな…どこかに。俺が気がつかないだけで、本当はすぐそばにいたりしてな。」
「はい!あっ…これ…永倉さんに…はい、バレンタインのチョコレートです。」
ゆきちゃんとは違う小さな箱を取り出し、俺に差し出した。
小さな箱にはゆきちゃんと同じように、手書きのメッセージカードが添えられている。
「おっ!サンキュ♪なんか嬉しいよな、こういったちょっとした一言って。距離が縮まるつーか…仲間って感じでよ。」
「はい、永倉さんは大切な仲間ですから。えっと…私も…『桜花』の一員なんですよね。」
自信なさ気にボソボソと呟くethlinちゃんの背中を強く叩いた。
「あったり前だろ!なんたって俺達は『志 強く 集う 桜花』なんだからよ!」
ethlinちゃんに明るい笑顔が戻った。
「じゃあ俺は配達に行くからよ。気をつけて行けよな。みんなで二人の事、首を長くして待ってるぜ。もちろん土方さんもな。」
「はい、お仕事がんばってくださいね。」
コンビニの中に入るethlinちゃんを見送り、桜花のバンに乗り込んだ。
助手席に二つのチョコの箱を置き、飲みかけのミルクティーを飲む。
「甘いミルクティーに甘いチョコ。あの子達は今から甘い時間だな。」
(願わくば…俺も大切な人と、甘い時間が過ごせますように…。)
「まぁ、その前に彼女を見つけないとな。」
苦笑しながら車のエンジンをかける。
「いつか見つかる、きっと見つける、見つけてみせる、絶対に!」
チョコの甘い香りに包まれながら、俺は静かに車を走らせた。