聖ヴァレンティヌスの憂鬱  ~好きなんです~ | ethlinの煩悩毛だらけ

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煩悩さらけ出し日記

好きです



好きなんです



ずっと前から貴方が



名前も知らないけれど



私は貴方が好きなんです











「147円です。」


緊張で声が震えるのを抑えつつ、私は温かいミルクティーの缶を差し出した。


(大きな手だな…。)


ぼんやりと見つめていると、その手が私の方に伸びてきた。


しかしその手は私に差し出されたわけじゃない。


「サンキュ。」


温かいミルクティーを手に取り、出入り口へと歩いていく。


「ありがとうございました。またお越し下さいませ。」


(マニュアル通りの言葉しかかけられない自分が恨めしい…。)


私はその大きな背中を食入るように見つめ、見送った。











このコンビニでバイトを始めて数ヶ月が経った。


ある日、近所にある花屋のエプロンを見に着けたあの人を見つけた。


あの人は毎日のように、このコンビニを利用している。


そして私はあの人が来るたびに、一人でこのもどかしい恋心を持て余している。


あの人は私より背が高い。


体を鍛えているのだろう、腕まくりから覗く腕を見ただけでも、相当体を鍛え抜いている事が見てとれる。


いつも頭にバンダナを巻いていて、笑うと少し子供みたいだ。


(あぁ…私が小さくてかわいい女の子だったら…。)


身長171cm。


この長身を生かして、学生時代はバレーボールに情熱を打ち込んだ。


おかげでモテた。


ただし女子限定で。


バレンタインデーには、男子よりはるかに多くのチョコを贈られ、男子からは恨みの視線を浴びせられた。


(今年のバレンタインデーはあの人にチョコを用意したけど…恥かしくて結局渡せなかった。


ため息を一つつき、ドアの外に視線を向けると、ドアのすぐそばであの人がミルクティーを飲んでいた。


(いつも紅茶華伝のミルクティーなんですよね。だから店長が紅茶華伝を止めるって言った時説き伏せて、今もちゃんと用意してるんです。)


と心の中で呟いたところで、私の気持ちが伝わるわけもない。


(笑った顔も素敵…って…そばにいる女の子…誰?)


気がつけば、あの人のそばには背の高い女の子と、小さな女の子がいた。


私とは正反対の、背の低い小さな女の子。


その女の子に何か話しかけている。


そしてその手にはミルクティーと…


(まっ…まさか!あの綺麗にラッピングされた小さな箱はチョコなんでは!?しかもデパートで売ってる、高級そうなチョコ…。)


そして女の子は俯きかげんで何か返事をしているようだ。


(まさか…まさか…遅れたバレンタインチョコで大告白大会。そして二人は晴れて両想いに!?)


失恋決定の瞬間なのか?


ショックのあまりにその場で泣き崩れてしまいそうだったが、背の高い女の子が店内に入って来たので背筋を伸ばして立ちなおした。


「いらっしゃいませ~。」


(めちゃめちゃ気になる。)


店内のお客様に気を配りつつ、外の二人に視線を向けた。


女の子が赤い顔をして何か話しかけていて、あの人が女の子の頭をそっと撫でてた。


(何?何?何話してるの!!)


女の子が照れくさそうに笑って、満面の笑みを浮かべている。


(マジで告白大成功なの!?あぁ…この視力両目1.5の目が憎い…。細かな表情まで見て取れるなんて…。でも肝心の話の内容がわからない…。こんな事になるなら読唇術を勉強しておけばよかった。)


やがてあの人は手を振って立ち去り、女の子が店内に入って来た。


「いらっしゃいませ。」


女の子がチョコチョコと歩きながら、店内をキョロキョロと見回している。


(違う…違いすぎる…体の作りからして違いすぎる。)


「せんぱ~い。もういいんですか?」


「うん、永倉さんに直接チョコ渡せてよかった。」


(永倉さんって言うんだ…。)


「先輩、永倉さんと何話してたんですか?顔真っ赤ですよ。」


「えっ!?べっ…別に…何にも。」


(ちょっと!ちょっと!めちゃ気になるんですけど!!)


「うふふふふふ~。私には全てお見通しですよ。」


(だったら勿体ぶらないではっきり言って~。)


「なっ何?」


「ずーっと待ってるんですよね。先輩のチョコ。」


(マジで!?)


「そんな事ないよ。たくさんもらったと思うし。」


(私なんか渡す事さえ出来てないのに~)


「うふふふふふ~。」


「何さ?ゆきちゃん…気持ち悪い笑い方してさ…。」


「私、沖田さんに聞いたんです。」


「何を?」


(何を?)


「全部断わったんですって。先輩以外のチョコを受け取るの。」


「嘘だ~。」


(嘘でしょ~!?)


「ホントですって!あの眉間に皺寄せた顔で断わられたら、ちょっとずうずうしい女の子でもさすがに怯みますよね~。」


(あぁ…そんな真剣な顔もするなんて…素敵かもしれない…ってマジで!?)


「昼は全部お断り。夜は一律チョコの受け渡し厳禁!と言うわけで、マジで誰からも受け取ってないんですって!ethlin先輩!愛されてますね!!」


「そっ…そんなの沖田さんの嘘話に決まってるじゃない!」


ethlin先輩と呼ばれた女の子は膨れっ面をしながらも、真っ赤な顔をして恥かしそうにしている。


(ショック…失恋当確…決定だ…。)


「ゆきちゃん、私熱い烏龍茶買ってく。ゆきちゃんのそれも一緒に払うよ。じゃあこれとこれお願いします。」


烏龍茶とレモンティーを差し出す小さな手。


私とはあまりにも違いすぎる。


「ありがとうございました…。また…お越し下さいませ…。」


(いや…また来たら平常心で接客出来ないかもしれない。ううん、きっと出来ない。だからもうこないで下さい。心の中でめちゃくちゃ土下座しますから。)


こうして私の密かなる恋は終りを告げた。