一眠りした赤ばらちゃんと俺は、仲良く森の西の端へと向かう。
「狼さんにお友達を紹介しますね~。白ばらちゃんと~森と歩いていたら~トラバサミに足を捕らわれてて~( p_q)すごく痛そうにしてたからすぐに助けてあげたんですよ~。それから仲良しになったです♪」
(森の中でトラバサミに捕まったって…いったいどんな女なんだよ…)
俺は源さんと島田の言葉を思い返していた。
「彼女は頭が良いだけに厄介な人だよ。昔は偉い人に仕えていたそうだけどね…まぁ…あれだけの人物なら誰かの下にいるという事は難しいね。それなりのプライドを持ち合わせている。そんな人間がこの森にいる事自体が不思議なんだがね…なんでも居心地がいいらしいよ」
「悪い人ではないのですが…まぁ…俺の口からは説明しがたいです。百聞は一見にしかず…と言いますからね。狼さんも彼女を見れば「あぁ…」と思いますよ」
(どんな奴でも相手でも、俺は…俺は…必ず赤ばらちゃんを守る…)
俺は片時も手放した事などない、愛刀和泉守兼定にそっと手をかける。
「狼さ~ん♪着きましたよ。えへへ~ここです。お友達の家」
着いた先は小奇麗でスタイリッシュな家だった。
赤ばらちゃんは玄関に駆け寄り、手を伸ばしてドアノックをトントンと叩く。
「はぁ~い
」
少し低い声が家の中から聞こえてきた。
「薔薇のお姫様~Trick or Treat♪ですよ~」
(お姫様って…源さんと島田は姫さんなんて言ってなかったぞ)
「あら、赤ばらちゃんね
お待ちしてましたわ。今開けましてよ」
そっと玄関のドアが開かれる。
中からは赤いドレスがチラリと見えた。
「Happy Halloween!!ですわ
。よく来てくれたわね。歓迎しましてよ」
「お姫様だ~♪わーいわーい♪本物のお姫様みたい♪今日はお姫様の為に王子様を連れてきましたよ♪」
ドアが開かれ、中から赤い薔薇の花弁のようなドレスを着た女が現れた。
黒くて長い髪。
白い肌。
潤んだ桃色の唇。
そしてその切れ長の目には見覚えがあった。
「まぁ…まぁまぁまぁ…王子様って…歳三王子じゃありませんこと
」
そしてその喋り方は…
「てめぇ!伊東じゃねぇか!!何だってこんなところにいやがる!!いや…今はそんな事はどうでもいい…なっ…なんなんだ…そのドレスは…」
俺はこの世で一番会いたくない人物に再会しちまった。
俺の幼い頃から父王の優秀な側近として城にいた魔女…いや…オカマ魔女の伊東甲子太郎だ。
優秀で実力もある…父王も信頼を寄せていた…あんな事件が起こるまでは。
どんな事件かはまたの機会に話すとするが…今一番の問題は…こいつが正真証明のオカマだって事だ!!
「狼の姿になってもやっぱりス・テ・キ…おまけに歳三王子ったら私の為に正装を…嫌だわ~甲子太郎恥かしい
」
頼む…
頼むから…
俺の前で顔を赤らめて、しなを作るのは止めてくれ!!
「狼さん、中に入りましょ♪お姫様が写真を写してくれるんですよ~♪」
写真?
写真だって?
こいつに俺の写真なんかと撮らせたら、どんな格好させられるかわからねぇ…
。
「わぁ~お姫様と狼さん♪並んだら絵本から抜け出してきたみたい♪」
「あら…キャっ
恥かしいわ」
んなわけねぇだろうが
「狼さん♪お姫様をお姫様だっこしてくださいな♪」
なんだって?
このオカマを?
俺が?
お姫様抱っこ…だって…?
「嫌だ~恥かしいわ~。また私のメモリアルアルバムに大切な一枚が刻まれるわね」
嫌だって言うならよ…てめぇが拒否しろ
しかしカメラを構えて嬉しそうにしている赤ばらちゃんの前で、そんな台詞を言うわけにはいかねぇ。
「はははっ…お姫様だっこか…」
俺は乾いた笑い声を上げ、仕方なく渋々目の前のオカマを抱き上げた。
(今俺が抱き上げているのは伊東じゃねぇ…赤ばらちゃんだ…大人になった赤ばらちゃんだ…頑張れ俺の脳内…フル活動しろ…俺の妄想力…変態妄想姉妹の妹並に妄想しろ…)
「憧れの歳三王子に抱き上げられてるなんて…甲子太郎感激ですわ
」
(こんにゃろ…喋るんじゃねぇ
妄想に雑念が入っちまうだろうが
)
「あれぇ~???……グス…上手く撮れなかった(_ _。)」
「赤ばらちゃん、落ち着いて。焦っては良い写真は撮れなくてよ」
頼む…赤ばらちゃん急いでくれ…
オカマが喋る度に、俺は辛い現実に引き戻されるんだ…
「は~い♪いきますよ~」
伊東…てめぇ…
俺の首に腕なんか回すな!!
そんなメモリアルアルバムなんざ…俺は求めていねぇ
「わーいわーいo(^▽^)o絵本の王子様とお姫様みたい♪」
赤ばらちゃんよ…
いつも絵本を読んでる途中で寝ちまっているがな…
挿絵は何度も何度も繰り返し見てるよな?
特に王子様が登場するシーンは何回も読んでやったよな?
お姫様の登場する物語を、俺は何冊読んでやった?
白雪姫・シンデレラ・人魚姫・眠りの森の美女・かぐや姫………その物語の中に、伊東みたいな女はいなかっただろうが!!
俺が怒りと恐怖のあまりに固まって動けねぇ間も、伊東は「あぁん
歳三王子ったら…狼の姿に変えられてもス・テ・キ
」なんてほざきながら写真を撮りまくっている。
ここまで来たら腹をくくるしかねぇな…
なぁ…伊東よ…モデル料ははずんでくれるよな?
そうでも考えねぇとやってられねぇ…
「じゃあ最後に三人で記念撮影しましょうね
」
「じゃあ赤ばらちゃんは…」
真ん中に来いと言おうとした瞬間、赤ばらちゃんは俺の左腕に抱きついてきた。
「狼さんは~真ん中で~両手に花ですよ~♪えへへ♪」
「んまぁ♪歳三王子ったら…両手に赤い薔薇二輪
ですわね」
伊東が俺の右腕にがっちりと自分の腕を絡めた。
(やめろ…離せ…俺は…俺は…)
伊東の腕を振り払いたくても、伊東はものすごい力で俺の腕に絡みついている。
(夢だ…悪夢だ…こんな事…現実なわけがねぇ…)
タイマーが切れてひと際大きなシャッター音が部屋中に響いた。
「俺は…俺は…この世で一番…一番オカマが嫌いなんだよーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
俺の叫び声は、無残にもシャッター音にかき消されていった。