今日の仕事も無事に終わり、私はいつものオレンジ色の自転車でお花屋さんへと向かった。
途中少しだけ遠回りをして、旅行会社に立ち寄った。
中に入るとたくさんの旅行パンフレットが並んでいる。
(えっと…国内旅行は…あったあった…えっと…おねぇが言ってたパンフレットは…)
メモを見ながらパンフレットを一冊ずつ手に取った。
(さすが北海道…広いだけあってたくさん種類があるな…)
黒いリュックにパンフレットを無造作に詰め込んだ。
(あっ…ヤバイ…)
ソファーに移動してパンフレットを一旦取り出し、リュックの中から小さな包みを取り出した。
「沖田さんにあげるボールぺンがくしゃくしゃになるところだった…テヘ…失敗失敗…」
パンフレットを丁寧に入れなおし、小さな包みが潰れないようにそっとパンフレットの間に滑り込ませる。
「携帯は外のポケットに入れとこ」
ファスナーが開けっ放しのリュックのポケットに携帯を押し込み、私はお花屋さんへと向かった。
夕方の店内は仕事帰りのOLさん達で賑わっていた。
(歳三さんいないな…。沖田さんも…配達中かな?)
中に入りアレンジメントコーナーへと向かった。
(やっぱり桜花のアレンジメントって違うよね…。綺麗だしセンスもいい…。買う人ももらう人も嬉しくなるよ)
「よう…ethlinちゃん、仕事帰りか?」
振り向くと原田さんがアレンジメントを手に立っていた。
「こんにちは、原田さん。それは原田さんが作ったんですか?ここに並んでるのもステキですけど、がらっと雰囲気が違ってステキですね」
「あぁ、今ethlinちゃんが見てるアレンジメントは総司が作ったやつだな。総司のやつ、最近やたらとやる気でよ。地道に勉強してるみたいだな。これは秋のイメージなんだぜ。最近は総司もこう渋いやつも上手くなってよ…色気つーか…なかなかだろ」
確かに沖田さんの作るブーケやアレンジメントは、いかにも女の子が喜びそうなかわいらしいものが多かった気がする。
「確かに最近の沖田さんの作品は雰囲気が変わりましたよね。秋のお花を見るのは初めてのせいもあるかもですけど。原田さんのとは少し違いますね。誕生日に貰ったお菓子のやつ、ゆきちゃんに見せたらびっくりしてましたよ!」
原田さんは手にしていたアレンジメントをそっと棚に陳列した。
「原田さんの作品は情熱的で大人っぽいですね。聖さんが原田さんご指名でアレンジ頼むの、すごくわかります。最近の沖田さんの作品はしっとりした色気を感じますね。あっ…素人批評ですけど」
「そう言ってもらえると嬉しいな。お客様の声ってはやっぱり励みになるぜ…特にethlinちゃんみたいなかわいい女の子に言ってもらえるとな」
「あははははっ…かわいくないですよ。でも綺麗なモノやかわいいモノを見るのは勉強になります。ケーキのプリザーブフラワーも会社で話題持ちきりですよ。お菓子売場に置きたいって。今課長に掛け合ってますケド…」
後ろから誰かが近づいてきた気配を感じて振り向くと、沖田さんが立っていた。
「君みたいな食いしん坊んのお客様にはウケそうだよね~」
笑いながら近づいてきて、原田さんに「休憩どうぞ」ど声をかけた。
原田さんは「ゆっくりしてけよ」と私の頭を優しく撫でてくれた。
でもその表情は少し複雑そうで、気になって声をかけようとしたけどあっという間に立ち去ってしまった。
(忙しいから疲れてるのかな?)
私は沖田さんに向き直り、軽く頭を下げる。
「あっ…こんにちは、沖田さん。えっと…誕生日はありがとうございました。すごく楽しい誕生日が送れました…みなさんのおかげです」
「僕は何もしてしてないけど…おねぇさんのアイデアだし。君に喜んでもらえる誕生日にしたいからって…カフェでお願いできないかって、山南さんに掛け合ったんだよ。休みにするって言ったのは…土方さんのアイデアだけど…」
「そっ…そうなんですか…」
自分の顔が赤くなるのがわかる。
でもそのおかげですごく楽しくて大切で…幸せな時間をみんなで過ごす事ができた。
(歳三さんにも改めてお礼言わないと…だな…)
ふと沖田さんの顔を見ると、少し複雑な顔をしていた。
「あの…沖田さん…お腹…まだ痛いですか?」
おずおずと声をかけてみるものの、沖田さんは押し黙ったままだ。
(沖田さんも疲れてるんだな…ちょっとでも喜んでくれたら…疲れも吹っ飛ぶかな?)
私はボールペンを取り出そうと床にリュックを置き、ごそごそと中を漁り始めた。
(あれ?出てこない…ん~んと…あった!!)
ボールペンの包みを引き出した拍子に、パンフレットも一緒に中から飛び出してしまった。
「あっあ~旅行のパンフがぁ~」
慌ててかき集めようとすると、沖田さんはしゃがんで拾い集めてくれた。
「旅行…行くんだ。ゆきって子と行くの?」
「おねぇと行くんです♪お中元やなんやで、夏はあんまりお休み取れなかったから。毎年この時期は二人で行ってるんですよ~えへへ。今年は北海道なんてどう?って言われたし♪ここに寄る前にパンフ貰ってきちゃった。あ~あった」
パンフレットの間に隠れているボールペンを見つけて、私は沖田さんへと差し出した。
「あの…これ…誕生日プレゼントの他に…あの…無理言って作って貰ったお礼デス。子供っぽいかもしれないけど…」
沖田さんは黙って包みを開けてボールペンを眺めている。
(あわわ…やっぱり子供っぽかったかな)
「沖田さんには…アワワ…子供っぽかったですか?おねぇとよく行く雑貨屋さんで見つけたんですけど…私は赤ずきんで~おねぇのはシンデレラなんです♪あの…可愛すぎましたか…?」
「ありがとう…気にしなくてもよかったのに…本当に仲良しなんだね、おねぇさんと」
俯き加減で話す沖田さんの表情に気がつくこともなく、私は言葉を続けた。
「服とか~おねぇセンスいいし~へへっ♪これ買った時もヘアピン見てもらったんですよ。今前髪留めてるやつです。私一人だとこんな感じの選ばないし~♪他にもパッチン留めとかヘアゴムも…」
「土方さんに会いにきたんじゃないの?」
私の言葉を遮るように沖田さんの声が響いた。
「今、休憩中だし…何かご馳走してもらったら?君にはそれくらいじゃ…足りないくらいのコトしたんだけどさ…」
沖田さんの様子がなんだかおかしい。
(歳三さん…何かあったのかな…)
「気になって…知りたいことがあるなら、ハッキリ聞けばいい!!土方さんの口から…その方がいいんじゃないの?気になってるんでしょ?…土方さんの…昔の彼女」
「…あっ…それは…」
「僕はどうでもいいけど…あっ、ボールペンありがとう。早く行きなよ?カフェ閉まっちゃうよ?」
沖田さんは吐き捨てるように言うと、ふいっと顔を逸らした。
声をかけようとしたが、言葉が頭の中で上手く繋がらない。
沖田さんに軽く会釈をして、私はお店の奥へと歩き出した。
胸騒ぎがした。
奥に足を踏み入れてはいけないと、私の心が警鐘を鳴らしているにもかかわらず、私は暗示をかけられたように真っ直ぐにStaff Roomへと足を向けた。