あれからどのくらいの月日が経ったのだろうか。
桜が満開を迎えた春のある日、私は偶然公園に佇むこの人を見つけた。
その後も何度か公園にいるのを見かけて、その度に私は公園の隣の河原から一方的に眺めていた。
だからある日、私が働いていたお弁当屋さんで声をかけられた時は本当にびっくりした。
その後も何度かお店に現れて軽い世間話をするようになり、やがて土方歳三という名前の人だと知る事になる。
そんなある日、私は食事に誘われた。
「何が食いたい?好きなモノ言ってみろ」
土方さんの歩く速度が早くてついて行くのが精一杯だ。
がんばって少し後ろをチョコチョコと歩く。
「えっと♪吉〇家!」
そのまま歩き続けていたら、信号待ちで立ち止まった土方さんの背中に激突した。
「あいたた・・・ぶつかっちゃった…・前よく見てなかったです。ごめんなさい、。もしかして…土方さんす〇家派ですか?なんか派閥があるらしいですね?今日お店のおじさんに聞いたけどよくわからないんで、私はす〇家でもOKですよ♪」
しかし返事はない。
「はっ!!牛丼…嫌いですか?私一回行ってみたいな~と思ってるだけなんで、じゃあ違うところ…ん~んと…モ〇バーガー!!」
信号が青に変わったが、土方さんは動かない。
「あの…土方さん?」
見上げれば少し俯き加減で立ち尽くし、肩が少し震えている。
(どうしよう…マ〇ド〇ルドより少し高いモ〇バーガーなんて言ったから困ってるんだ…)
「あの…大丈夫ですか?」
しかし変わらず返事はない。
「もしかして…頭痛いんですか?お腹ですか?気持ち悪いんですか?どうしよう…あの…時間はまだありますからゆっくり行きましょう。薬飲みます?あぁ…バ〇ァ〇ンしかない…」
一人でオロオロとしているうちに声が漏れた。
「ふっ…」
「くっ…苦しいんですか!?まっ…まさかお昼に買ったうちのお弁当にアタったとか!?食中毒!?大腸菌!?赤痢菌!?O157!?明日保健所の立入り決定!?お店しばらく営業停止!?テレビや新聞で報道されて…あぁ…その間のお給料どうなるんだろう!!いやいや…自分違うって…とにかく!!土方さん~しっかりしてくださ~い(。>0<。)」
「ふっ…もう…駄目だ…我慢…出来ねぇ…クッククク…アハハハハ…」
土方さんは心配する私をよそに、お腹を抱えて笑い出した。
「最初から少しおかしな女だと思っていたが…吉〇家に行きたいなんて言った女は…初めて見た」
私は呆然としながら、大声で笑う土方さんを眺めていた。
「だって…好きなモノでいいんですよね?」
「確かに好きなモノって言ったが、本当にそんなモノでいいのか?」
クスクスと笑いながら私の顔をじっと見つめる。
「だって…ご飯食べに行くだけですよね?」
私も真剣に見つめ返すと、土方さんの笑いが止まった。
「何か間違ってますか?」
「いや…確かに飯を食いに行くだけだが…」
軽くため息をつく土方さんの困った顔を眺めているうちに、やっと誘われた意味に気がついた。
「あっ!もしかして…デートに誘ったんですか!?」
自分で声に出してみて、急に恥かしくなってきた。
(そっか…そうなのか…私がつまみ食いばっかりしてるから…ご飯食べるお金のない人だと思って…可哀想だから一食くらいなにか食べさせてあげようと思ったんだとばっかり//////。だから高いモノ食べたいなんて贅沢言ったら失礼だと思ったし…それに
それに
こんなにステキな人が私を誘うわけないと思ったんだもん…。しっ…失敗した。大失敗だ…空気読めってカンジ
絶対に頭悪い人だと思われた…)
真っ赤な顔で俯いていると、頭を優しく撫でられた。
「心配するな。飯食いに行くだけで、後は何もしねぇから…」
「すっすみません…頭…悪くて…」
「いや…面白い女は嫌いじゃない」
(面白い?面白い…かな?土方さんって変な人…土方さんの方が絶対に面白いよ)
お店に来る時はいつも眉間に皺を寄せて難しい顔をしていて、喋り方はぶっきらぼうだし、お店のおばちゃん達に『顔は男前なのに愛想がねぇ~もったいない…』なんて言われてるのに…
(こんな風にに笑うなんて…初めて知った)
この人の事を何も知らないんだと気がつかされた。
(もっとお話したいな…)
「どうした?」
(この人がどんな人なのか…この人の事…もっと知りたい…)
「じゃあ…ゆっくりお話の出来るところがいいです。あっ!デザートも食べられるところがいい!!」
「ふっ…食い意地の張った女だな。じゃあ行くぞ…美味いもん食わせてやる」
「はい!楽しみです♪」
初めて二人で出かけた夜。
あなたの事をもう少し知ることが出来た、初めてのデート。