祭りの喧騒の中を二人、手を繋ぎ歩く。
ethlinは変わらずはしゃぎながら、俺の手を引っ張って屋台へと走り出す。
くじを引いて歓喜の声を上げたり落胆したり、何に使うのか…ガキみたいにスーパーボールすくいに熱くなったりと、とにかく忙しい。
「金魚すくいの方がいいんじゃねぇのか?」
ethlinは自分ですくったボールを夜空にかざしながら呟く。
「金魚すくいは小さい頃おねぇとよくやりました。私はいつも一匹もすくえなくて、おねぇががんばってすくったりして…。『赤は女の子で黒は男の子だから、赤と黒がいい!』ってねだったな。でも、お祭りの金魚ってすぐ死んじゃうんですよね。おねぇと二人で泣きながらお墓作って…毎回毎回金魚を連れて帰ってきたらお母さんに「いい加減にしなさい」って怒られたりして…。おねぇ、今年は金魚すくいしたのかなぁ~」
「ほんとお前ら仲がいいな…」
「はい!私小さい時から人見知りばっかりして…おねぇにペッタリでした。今も…今は…もうおねぇから少しずつ離れなきゃいけないのかな~って思います。その内おねぇは結婚して…赤ちゃん産んでお母さんになって…そしたら私にかまってられなくなる…」
少し寂しげなethlinの横顔を黙って見つめる。
ethlinもいずれは誰かと一緒になって家庭を持ち、子を産み母になるのだろう。
そんな幸せを自分は与える事は、きっと出来ない。
愛する女の人生を狂わせ、小さな命を守れず、正義の名の下で多くの命を奪う…この血に濡れた手では…この小さな花を幸せにする事は…きっと叶わない、許されない。
そうわかっていながら、誰かに奪われてしまう事を恐れる自分がいる。
「でも、いいんです。おねぇが幸せなら私も嬉しい。私の幸せはホンの少しでいい…大きな幸せは…きっと取りこぼしてしまうから」
そう言いながらethlinは小さく笑う。
「お前の…ホンの少しの幸せって…なんだ?」
「あっ…えっと…」
下を俯き、もごもごと何かを呟く。
「なんだ?恥かしがらなくてもいいだろうが。クッククク…笑わねぇから言ってみろ」
真っ赤な顔をしたethlinが何か言いかけたが、急に大声を出し俺の手を引っ張った。
「あ~風車
だ~!!か~わ~い~い~♪」
向かう店先に色とりどりの風車が風に吹かれくるくると回っていた。
初めてみちると夏祭りに行った日も、風車が風に吹かれ回っていた。
何か一つ買ってやると言うと、みちるは嬉しそうに風車を指差した。
『あれ♪あれがいい♪』
『風車?そんなもんでいいのか?』
『いいの♪お祭りだもの、童心に返らないと♪』
『土産…何がいい?今日は連れてってやれねぇが…何か買ってやる。欲しいものあるか?』
『……風車ほしい…』
「歳三さん、かわいいですね、風車♪。風に吹かれてクルクル♪綺麗…お花みたい♪」
ethlinは熱心に風車を見つめている。
「う~ん…買おうかな…。でもおねぇ笑うかな…。ぬいぐるみの次は風車なんて…」
唸るethlinの頭をポンポンと撫でてやる。
「お前…散々くじだのボールすくいだのしてて…今更だろうが…」
「あっ…そうか!そうですね…テヘ」
照れながら風車に目線を戻し、真剣に風車を選び始める。
「…一つ買ってやる。どれがいい?」
「えっ?えぇ~いいですよ」
「こんな時くらい遠慮するな。好きな色選べ。…その代わりと言っちゃなんだが…知り合い…に土産に一つ買ってやりたい。土産の分も選んでくれ…」
「…お祭りに来れなかったんですか?」
真っ直ぐな瞳が俺の心を射抜く。
「…あぁ…入院中だからな…」
本当の事が言えず、少し目線を逸らす。
ethlinはそれ以上何も聞かず、さらに真剣な顔で風車を睨み始めた。
誰に…とも
どうして…とも聞かず…
やがて2本の風車を手にして、無邪気に笑った。
「これにします。私は紫♪お土産は赤です♪」
ethlinは俺の手でカラカラと回る赤い風車を嬉しそうに眺めている。
「赤は元気が出る色ですよ、パワーが出る色です♪えっと…早く良くなるといいですね♪」
「あぁ、そうだな…。紫は?なんでお前は紫にした?」
「綺麗で粋な感じで、竜胆みたいで…少し秋を感じさせるから…それに…」
「それに?」
「秘密です♪」
ふふっと笑いながら、風車を風にさらす。
「まぁいい。お前が喜んでいるのなら…ん…そろそろだな」
「もうお祭りの終わりの時間ですか?」
寂しそうな顔をするethlinの手を引き、俺はある場所へと向かう。
「まぁ…終わりに近いと言えば近いが…」
会場の奥、関係者以外立入り禁止の立て札が立つ場所に来た。
ethlinを抱きかかえてポールにかかっているチェーンを乗り越え、さらに奥へ進む。
「こっ…ここ…立入り禁止ですよ」
ethlinはオタオタと焦りながら、俺の隣を歩く。
「関係者に許可もらったから大丈夫だ。安心しろ」
少し開けた場所に着くと、祭り関係者と思われる数人だけ人がいる。
「もうすぐだな…上見てろ」
ethlinは黙って素直に夜空を見上げる。
やがてヒュッっと音が響き、夜空に大きく鮮やかな花火が上がった。
「うわぁ~今までの中で一番大きいです!!」
大きな建物から少し離れたこの場所は、花火が上がるところも見渡せるほど開けた場所だった。
「あっ!また上がる!!」
何本もの光の線が地上から夜空に走り、やがて夜空にたくさんの花を咲かせる。
「綺麗…すごく…今まで見た花火の中で…一番綺麗…」
「祭りの実行委員会の会長さんにこの場所を教えてもらった。ここからなら一番よく見えるってな…」
「嬉しいです…」
俺の手を握るethlinの手に力が入る。
「嬉しいです。こうやって歳三さんと夏祭りに来れて…花火を見て…私…歳三さんと一緒にいるだけで…幸せなのに…」
ethlinは泣き笑いの顔で、俺の顔を見上げている。
「こんなに楽しくて…大切な夏は…初めてです」
小さな肩を抱き寄せ、額にそっと口づけを落とす。
「来年もまた…一緒に見たい…です」
震える声で小さく呟くethlinを、俺はただ…黙って抱きしめた。