空に舞い散る夏の花 ~夏祭り~ ⑩ | ethlinの煩悩毛だらけ

ethlinの煩悩毛だらけ

煩悩さらけ出し日記

どのくらい時間が経ったのだろうか、男の子が私の腕の中で身動ぎ始めた。


「落ち着いたか?」


小さく息を吐き出し、深呼吸を繰り返す。


「はい…ごめんなさい…」


「謝らなくていい。それよりお前…よく泣くの我慢したな」


「だって…泣いたらこの子…びっくりして絶対に泣いちゃうし…。あの…この子迷子なんです、それで…」


顔を上げると、歳三さんは泣き笑いの顔で私に笑いかける。


「ったく…お前が大変だろうが…迷子が迷子の世話しやがって…」


「あっ…ほんとごめんなさい…」


しゅんと俯くと、責める事なく私の身体をそっと抱きしめる。


「とにかく…見つかって本当によかった…心配した…お前にまで何かあったら…俺は…」


私を抱きしめる手が…腕が…まだ少し震えていた。


「本当に…ごめんなさい」


「とにかく、後は坊主だけだな。この人混みじゃあ見つからねぇ…よし!坊主、肩車してやる。こっちこい」


歳三さんは男の子に優しく笑い、軽く抱き上げて肩の上に乗せてしまった。


「うわぁ~たかい!たかい!」


「おねぇちゃんに抱っこされるより高いだろ?どうだ、遠くまで見えるか?親父さんとお袋さん見つけたら、大きな声で叫べよ」


私は歳三さんと子供という、意外な組み合わせに驚いてしまう。


「ethlin、お前はこれ以上はぐれるなよ。お前見たいにちいせぇ奴探すのは、正直骨が折れる」


「はっ…はい!」


慌てて歳三さんの浴衣の袖をぎゅっと強く掴む。


見上げると男の子の相手に四苦八苦しているものの、はしゃぐ子供相手に楽しそうに笑っている。


そんな姿を見て微笑ましく思い、その反面心に影が落ちる。


(もし…もしみちるさんの身になにも起こらなければ、歳三さんはみちるさんと一緒になって…こうやって子供と一緒に過ごしたのかな…。そうだよね、だってすごく大切な人…だもんね)


そうだったら…きっとこの人には会えなかった。


あの日、開店前のホストクラブに迷い込む事もなく、お店で再会することもなかっただろう。


もしそうだったら?


私はこんなにも狂おしく人を好きだと思う気持ちを、教えてくれる誰かに会えたのだろうか?


この人だけが…この人の心だけが欲しいと…そんな我が儘な気持ちにさせるほど大切な、そんな人に出会えたのだろうか?


切ない思いが少しだけチリチリと胸を妬きつける。


(嫌だな…私…)


「あっ!パパ~ママ~!!」


男の子の叫び声で我に返る。


浴衣を着た男女が私達に慌てて駆け寄り、男の子に声をかけた。


(よかった…見つかった…)


丁寧に頭を下げお礼を言うご両親に、こちらもしきりに頭を下げる。


お父さんに手を繋がれて嬉しそうに笑う男の子の横にしゃがみ、声をかける。


「よかったね、見つかって。ちゃ~んと手を握ってないとダメだよ」


「うん。おねぇちゃんあそんでくれてありがとう。おねぇちゃんもおにいちゃんの手、ちゃんとにぎってないとだめだよ」


「えっ!?」


男の子はニコニコと私達に笑いかける。


「クッ…子供にそこまで言われちゃぁ…お前は本当にしょうがねぇ奴だな…」


「もう!笑わないでくださいよ~!!」


(うわぁ~んあせ本物の子供にまで注意されたよ~)


「じゃあね、おにいちゃん、おねぇちゃん、バイバイ」


何度も何度も振り返り、手を振る男の子の姿が見えなくなるまで手を振り続ける。


やがて小さな背中は人混みにのまれ、すっかり見えなくなってしまった。


「子供…好きか?」


ふいにポツリと歳三さんが呟いた。


「えっと…好き!じゃないけど、やっぱりかわいいですね。訳わかんないのに泣くのにもちゃんと理由があるし、一生懸命にお話を聞いてあげると心開いてくれるし、小さいのに全力で生きててかわいいし…うん!好きです」


「なんだ、自分と一緒じゃねぇか。一生懸命で全力で生きてて、すぐ泣いて…やっぱりガキの相手はガキに任せるのが一番みてぇだな」


「えっえ~ひどい!泣くのは否定できませんけど…ちゃんと大人ですよ~」


拳でぽかぽかと叩きながら、笑う歳三さんを見上げる。


『歳三さんは子供好きですか?』


そんな簡単な一言が、私はどうしても言えなかった。


少し悲しく揺れる瞳が切なくて…私は口にする事が出来なかった。


大きな花火が空に舞う。


私の言葉をかき消すように


私の不安な気持ちをかき消すように


大きな音を上げて夜空に舞い上がる。


「どうした?」


優しい瞳が私の顔を覗き込んだ。


「花火…花火…綺麗ですね」


「お前は今年の花火大会に行けなかったからな。だからこの祭りに誘ってやりたかった。夏祭りと花火…夏は大っ嫌いなんて言ってるお前のために…この花火を見せてやりたかった」


「嬉しいです」


初めて楽しいと思えた夏。


貴方と過ごした夏。


大好きな貴方と


大切な貴方と


過ごした…大切な夏…。


「まだまだ時間はあるからな…行くぞ」


「はい」


私はその大きな手を強く握り、再びお祭りの喧騒の中を歩き出した。