Cherish ⑥ ~Baby Breath Ⅴ~ | ethlinの煩悩毛だらけ

ethlinの煩悩毛だらけ

煩悩さらけ出し日記

今日は久しぶりに聖が帰って来る。


迎えに行く前にあの花屋へ足を運ぶ。


正直桜花の連中顔を合わせるのは面白くない。


面白いわけがない。

しかし、愛する我が妻の笑顔を見るためだと自分に言い聞かせる。


桜花の連中で比較的当たり障りのない原田を呼びつける。


原田のセンスを聖はいたく気にいったようで、ここによると必ず原田を呼び花束を作らせている。


原田も聖の事をよく憶えているようで、聖の名を出しただけでイメージに合った花をセレクトしていく。


(出来上がるまで少し時間があるな…)


はしゃぐ女性客を一瞥し、少し奥へと足を運ぶ。


(観葉植物コーナーか…聖も何か育ててみたいと言っていたな…)


足を踏み入れると、なにやら黒いモノがごそごそと動いている。


(猫の子でも入り込んだのか?)


黙って覗き込むと、黒いリュックを担いだ子供がしゃがんでいた。


(子供か…邪魔だな…)


「おい…そこのガキ…どけ…」


「あっ…ごめんなさい」


立ち上がったその子供は、この前この俺に足蹴りしたあの女だった。


「あっ…若様…」


気まずそうに俯く女をジロリと睨む。


まな板のような胸


黒く焼けた腕


膝丈に破ったジーンズ


そこから覗く足は、まるで山に遊びに行った子供のように痣だらけ


足元…これは父親のサンダルでも借りてきたのか?


加えて小さな身体に黒い大きめのリュックを担いだ姿は、昆虫とりに来た子供か画家の山下清を思い出させた。


(これで三度目だか…今日は一段と酷い格好だな…土方もこの女の何がよかったのか…まぁ…俺には関係がない…)


気がつかぬふりをして立ち去ろうとすると


「先日は失礼しました」


と頭を下げた。


「あの…若様…足蹴っちゃって…すいませんでした…。やりすぎました…」


あの威勢の良さはどこへ消え去ったのか…。


まぁ…それも俺には関係がない。


「おい…ちんくしゃ…」


「はっ?」


「ちょうどいい…お前に聞きたい事がある…」


「はい、なんですか?」


この間の俺を睨みつけた目とは一転して、嬉しそうに笑いかける。


「若様…」


「はい?」


「何故…俺を若様と呼ぶ…」


「何でって…」


女は少し躊躇いがちな目をして、やがて俺の目をしっかりと向けてこう言った。


「最初に会った時、演歌歌手みたいな格好だったから」


ピクリッ


「演歌歌手…だと?」


「最初に会った時は着物でしたよね?白っぽい派手なやつ」


どうやら女らしさもなければ、ファッションセンスも感性もないらしい。


「それに名前知らないし」


ピクッ


「えっと…若様じゃなかったらゆきちゃんが呼んでたおう…」

「風間…風間千景…」


それ以上くだらない言葉を聞くと、この女をどうにかしてしまうかもしれん。


「あれ…かざま…さん?」


名乗れば名乗ったで、なんだこのちんくしゃは…


「なんだ…カンペーさんと一緒じゃないんだ…」


「なんだ…その…カンペーとは…」


中小企業に勤めておきながら目上の者に対する礼儀も口のきき方も知らぬらしい。


ふん…土方もとんでもなく面倒な女に手を出したものだな…。


「間寛平さんですよ。えっと…芸人さんの。今、いろんなところでマラソンしてる人です」



……


間寛平…だと?


「ハザマさんだと思ってました。カンペーさんと一緒だなって。一応歳三さんに確認しようかと思ったけど、なんか聞きにくかったし…。じゃあ…風間さ…」

「若様と呼べ!!」


「えっ!?」


「許す…若様と呼べ…」


このちんくしゃの口からあの芸人の名前が出した瞬間、この俺の脳裏にはテレビの向こうで阿呆な芸をする中年オヤジの姿しか思い出せなかった。


「あっ…じゃあ…若様」


「ふん…それでいい…」


なんなのだ…このちんくしゃと話をしていると調子が狂う。


「ちんくしゃ…名はなんと言う?」


「ethlinです」


「ふん…ちんくしゃにはもったいない名だな…仕方がない…憶えておく…。聖がしきりにお前に会いたがっていたな…。また会うこともあるだろう…」


「はい!またお買物に来てください、聖さんと!お待ちしています」


聖のように華やかな花ではないが…まぁそれが面白いのかも知れぬ。


「機会があれば…また相手をしてやろう」


ethlinに背を向け原田から花束を受け取る。


ん…なんだ…土方か?何やら煩いな…。


しかし今はお前にかまっている暇などない。


足早に愛車に乗り込み、俺は愛する妻が待つ空港へと車を走らせた。