気がつくと、私はなぜか裏の休憩所に座っている。
(えっと…なんでここにいるんだろう??)
ぼんやりと今まの事を頭の中で反芻してみる。
(若様が現れて歳三さんに酷い事言ったから…蹴った。その後睨み合いになったらすごい美女が現れて…最終的に若様を連れて帰った…。で、興奮したゆきちゃんが来て、ここまで連れてきてくれた…気がする)
冷静になればなるほど、頭の中には嫌な二文字の言葉が浮かび上がってくる。
(どうしよう…どうしよう…)
どうしようといったって、やったのは自分だから仕方がない。
「落ち着いたか…」
隣で黙って煙草を吸っていた歳三さんが、静かに声をかける。
「歳三さん…どうしよう…」
「…何が?」
いやいや…
何がって…
「私…仕事…クビ…かも」
震える声を抑えつつ、冷静になればなるほど『クビ』の言葉が心に重くのしかかる。
「…」
「違う…クビ以前に若様が色々手を回して…この界隈から永久追放…」
「……」
だんだんと足が震えてきた。
心の中も不安でいっぱいになる。
「もしかしたら…仕事帰りに…私…消される?」
「………」
俯き加減で隣に座る、歳三さんの肩も震えている。
「私…どうしたらいいんだろう…」
とうとう涙がじんわりと滲んできた。
「…………ふっ…」
黙っていた歳三さんの口から、何か言葉が漏れた。
「???」
「もう駄目だ…我慢できねぇ…クククッ…アハハハハハハ…」
「なっ何がおかしいんすか!?人が真剣に悩んでるのに!!」
私の気も知らず、歳三さんは隣で大笑いし始めた。
「おかしいに…決まってるだろ?風間相手に蹴り入れて、いっぱしに啖呵きって、とどめの言葉が…『おととい来い』って…。お前…そのちいせぇ身体で…風間と対等にやり合おうなんて…無謀を通り越して…本当に…面白すぎる…」
面白い?
面白いって…?
私は真剣なのに~
「やっぱりお前は一寸法師だ。虎の総司にいじめられて泣いても、鬼の風間には縫い針みたいな小さな武器で立ち向かって行って、立派に退治しちまった」
泣き笑いの顔で私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「俺は…そんな危なっかしいお前を守ってやりたい。いや…守る…お前に仇をなすやつらから、必ず守り通す。だがな…心は…俺の心は…お前に守られているのかもしれねぇな」
…
……うそ!?
「わっ私…歳三さんの事守ってますか?」
ずっと知りたかった。
自分がこの人の役に立っているのか。
「私は…歳三さんの心を…ちゃんと守ってあげていますか?」
傷ついたこの人の心を、守ってあげられているのかと。
「あぁ…ちゃんと守ってもらっている…俺は…お前といると安心する」
優しい瞳が私を真っ直ぐに見つめている。
「お前の言葉だけが…俺を癒してくれる」
長い指が私の頬を優しく撫でる。
「よかった…」
今まで我慢していた涙が一気に溢れ出した。
「バカ…こんなところで泣くな…。本当にお前は泣き虫だな。しかたねぇ奴だ…お前が泣いたときはちゃんと傍にいてやるから…俺の傍から離れるな…勝手に離れるんじゃねぇぞ…」
「うえぇぇぇ…」
みんながジロジロ見てるから恥ずかしいけど、どうしても涙が止まらない。
「しょうがねぇな…泣き止むまでこうしてやるから…好きなだけ泣け」
歳三さんは私が泣き止むまで、肩をそっと抱きながら涙を拭ってくれた。