ゴッ…
鈍い音とともに、若様の膝裏に私の足の甲がヒットしていた。
若様は少しバランスを崩したもののすぐに体制を直し、私に鋭い眼光を向けた。
「貴様…」
「歳三さんに謝ってください」
「なんだと?」
鋭く光る赤い瞳が私を貫く。
「私の文句は構いませんけど、歳三さんに失礼じゃないですか?」
上から睨みつける若様の目を下から睨み返す。
「この俺を蹴るとは…いい度胸だな、この小娘が…」
「はっ?足の裏で蹴らなかっただけ感謝してよね!その白スーツが汚れないようにわ・ざ・と・足の甲で蹴ったんだから」
拳を握り、ギリギリと若様を睨みつける。
「ethlinよせ」
「だって歳三さん、この人偉そうなくせに、歳三さんに酷いこと言った!!」
悔しくて涙が滲んでくるけど、今は泣いてなんかいられない。
泣いたら負ける。
歳三さんの事を悪く言った、この人に負けたくない。
「偉そう…だと?虫けらの分際で…」
「ぶん殴るなら殴ってみろ!!」
ギリギリと音がするくらいに睨み合う中
「千景お待たせ~」
と能天気な声が割り込んだ。
「ん?千景…何やってんの?」
声の主は不思議そうに私と若様を見比べている。
「まさか…こんなところでナンパしてたんじゃ…ないよね?」
「聖、くだらぬ事を言うな」
聖と呼ばれた美女はジロジロと私を値踏みするように見つめる。
モデルのように背が高く、身体にフィットした涼しげなパンツスーツを着こなしている。
綺麗にネイルされた爪、長い指、ファッション雑誌から抜け出してきたと言われても納得してしまうような美女だ。
「ふ~ん…」
何か言いたげな顔をして私の顔を見下ろしている。
「あなた、若様の連れの方ですか?」
私は若様を指差し、イライラとしながら大声を出した。
「彼女だけど?」
「彼女などではない…妻だと何度言えばわかる…。聖、こんなちんくしゃなど相手にするな…時間の無駄だ」
「妻?奥さん?奥さんですよね?だったらこの口の悪いこの人、ちゃんと教育してください」
美女は一瞬きょとんとした顔をしたものの、私の顔をしばらく見つめてからクスクスと笑った。
「なになに?なんか失礼な事言ったんだ?ごめんね~。いつも口の利き方には気をつけろって言ってんだけどね」
「ホント失礼ですよ!!」
「ごめんごめん。私が謝って済む事じゃないけど~、ちゃんと帰ったら教育しておくからさ」
美女は私の頭を軽く撫でながら、けらけらと笑う。
「アナタ、面白いね。そんな小さな身体で千景にケンカうるなんてさ。一人前の男だって、怖くて口ごたえも出来ないんだよ」
「はぁ~?全然怖くないですよ、こんな人」
一瞬若様のこめかみがピクッと引き攣った気がしたけど、そんな事はどうでもいい。
「ふふふっ…日本に戻って来て、日本の女の子ってつまんないな~って思ってたけど、そうでもないみたい。私、聖。アナタ名前は?」
「…ethlinですけど?」
聖さんは私の手を取ってニコニコと笑っている。
「ねぇねぇ、また縁あって会えたら…友達にならない?なんだか気が合いそうな気がする」
「…若様が歳三さんに謝ってくれれば…こっちも考えます…」
ぷいっとふてくされて横を向くと、ますます大声で笑い出した。
「あっはははははっ…強情なんだね?ますます面白いよん。んじゃ千景、さっそく謝ってみよ~」
聖さんは若様の肩をバシバシと楽しそうに叩く。
「なに?この俺に…土方に頭を下げろ…だと…」
「そんな気持ちの悪いモン…俺は見たくねぇ…考えただけで虫唾が走る。風間、その女連れてさっさと失せろ」
「あははははは…ethlinちゃんの彼も強情なんだね。まぁ仕方ないか…千景が頭下げたら、確かに気味悪いよねぇ~。今度会う時までに口の利き方教えておくわ。今日のところは帰るね。ethlinちゃんまた今度ねぇ~」
聖さんは若様に腕を絡ませ、ひっぱるように歩き出した。
「ちんくしゃめ…俺に足蹴りした事…後悔させてやる…」
「ふん…おととい来い!!」
私は仁王立ちのまま、若様の背中に向けて悪態をついた。