真空は球体をしていた。
球体は天変地異を起こすわけでもなく、静かにそこに存在し、
そして徐々に広がっていった。
球体に入ったものは、真空になる。
川の一部がまるで球状に切り取られたように視える。
真空内では万物が存在を許されない。
そこに触れた部位は、存在を切り取られる。
ある者はたたりだと言い、ある者は自然破壊に対する神の怒りだと言い、ある者は宇宙人の侵略だと言った。
関東圏のある川付近では巨大な真空が観測された。
その一帯では恐慌をきたした住民が大量に近隣に逃亡した。
その際、暗黙の了解で逃亡者に対する殺戮が地域単位で組織的に行われた。
まるで昔からそうしていたかのように、当たり前に。
被逃亡地域同士の連携や、共謀はどうやらない様子だった。
古来よりそうしてきた慣習で、殺戮を行っていたようだ。
まるで家畜を屠るように、声を荒げることもなく、殺戮を楽しむ様子もなく淡々と行われた。
僕はその逃亡の成功例と失敗例を研究・収集していた。
ある逃亡成功者の男は、妻と子供たちを車に乗せ、
自分は車に乗らずミニチュアのリモコン戦車に乗り殺害を免れた。
家族の車は、殺戮地帯を避けて真空地帯から離れた場所から旅行者を装って地域に溶け込んでいった。
リモコン戦車に乗った男はゲリラのように殺戮を逃れながら辺りを偵察し家族を誘導した。
その時の携帯食料には納豆が用いられた。
ある逃亡失敗者は、被逃亡地域にて一旦は保護され宿を得たが、
宿泊中に静かに鎌で殺害、遺体処理された。
そう殺害はなぜか決まって鎌で行われた。
もっと効率のいい方法がありそうなものだが、必ず鎌なのだ。
ある逃亡失敗者は被逃亡地域の寺院に隠れていた。
寺院は殺戮に関与しない。
逃亡者を積極的に匿う行為はしないが、
逃亡者が寺院に隠れても通報したり 殺害を促したりはしない。
逃亡が成功しても失敗してもなすがままである。
そのことから、多くの逃亡成功例では寺院に一時的に隠れた。
しかし殺害者もそのことを知っている場合が多く、逃亡が発生するとまず寺院に逃亡者がいないか定期的に見回っていた。
ある逃亡者の殺害はやはり寺院で、鎌が用いられた。
複数の殺害者たちは狩りを行うように逃亡者を追い詰め
鎌を投げることで頭部や胴体に致命傷を与え殺害した。
殺害方法には地域差があり、いくつかの種類に大別された。
まず鎌を手に持ち直接振るう方法と、鎌を投擲する方法の2種に分けられる。
もう一つの分類は、逃亡者を一旦は匿い受け入れたふりをして安心したところをサっと稲を刈るように殺害する方法と、
最初からまるで熊等野生動物を相手にするかのように狩る方法の2種に大別された。
多くの場合、鎌を直接振る方法は一旦受け入れる方法とセットで用いられ、
鎌を投擲する方法は狩る方法とセットで用いられた。
…という夢をみた。