一戸建ての家に、家族と住んでいた。
朝起きるのが遅い僕は家族の姿をみることがほとんどない。
みんな出かけた後の、居た証拠をみる。
台所にはバームクーヘンの棒のような、
そこに肉を巻きつけてグルグルまわして焼く大掛かりな装置がある。
姿をみなくても声を聞くことがあった。
しきりに塩、塩、と言っていた。
歯磨きするとき塩をつけろ、ということだと推測する。
ある朝、やはり僕は寝坊して起きた。
いつもと気配が違う。
ただ事ではない何かが起こった後に感じる。
トイレに行った。
入ってドアを閉めた。
白いドアに、ビンがめりこんでいる。
塩だ。
ちょっと高そうな海外製品のラベルが貼ってある塩のビン。
ドアの材質は粘土か何かのようだ。
材が割れることなく、相当な力でねじこんである。
また、ドアには秩序のある落書きがあった。
そこには、作者の日常とおぼしき景色があった。
台所のフライパンなどを書いた静物画。
肉をつけて回す装置。
…落書きなのに丁寧にデッサンした風だった。
そして、目。目から血を流している。
僕は、静かな日常との境目をそこに見出した。
静かで平和な日常は、平穏に蝕まれていき、やがて空いた穴から血が噴き出す。
僕はそうなるのを、なすすべもなく観ているだけだった。
そんな夢をみた。