第十二回の感想 | 川瀬有希の独り言

川瀬有希の独り言

田中好子さん、キャンディーズ、岡田有希子さんに捧げるブログ

『響け!ユーフォニアム3』第十二回「さいごのソリスト」について、改めて。


本題に入る前に、この回を観た上での基本的なスタンスをまずはじめに記しておきたい。


端的に言えば〈反対だけど感動〉であると同時に〈心を揺さぶられたけど嫌い〉といった感じか。


矛盾してるようでしていない、自分の中で2つの相対する感想が両立している。


この第十二回は原作小説を読んでる方ならお分かりの通り大幅に改変、いや、もう別物と言っていいぐらいにオリジナルな要素で構成されている。


長く原作に親しんできた者からすればそれはないだろうと突っ込みたくなるような場面があり、とりわけ最大の改変「全国ソリの久美子落選・真由採用」には物語を根底からひっくり返すぐらいの衝撃を受けた。


入部自体を迷うほどやる気のなかった久美子が次第に意識を変え成長していく姿を描き続け、その到達点のひとつの象徴たる全国でのソリ演奏が無いなんてちょっと考えられないといった具合で、シリーズそのものを締め括る最終回の描かれ方が心配になる程だ。


台詞や細かい設定が変更されるのは演出上ありとして、基本となる筋書きまで変えるのはありなのかと。


要はやり過ぎ。


なのでこのたびの大幅改変には賛成しかねるが、それでもこの大胆にアレンジされた放送を視聴し僕は正直感動したことを打ち明けねばならない。


原作内容を知らなければ何の不満もなく素直に受け入れ、手放しで絶賛していただろう。


本当によく出来たシナリオだと思う。


が、これが重要なのだが、それを好きになるかと言えばさにあらず。


やはり原作を愛読してきた自分からするとタイトルだけ同じで別の小説を映像化されたようで、どうにも好きにはなれない。


確かに感動はしたものの一方でこれじゃないんだよなぁという感情が拭い難く存在するから。


何よりユーフォ奏者としての久美子が報われないという現段階での結末がどうにも受け入れ難い。


〈反対だけど感動〉したと同時に〈心を揺さぶられたけど嫌い〉というのはそういう意味。


けれど、原作者の武田綾乃さんが承諾しているので問題視する気はさらさらない。


あくまで好みによる案件であり、僕個人の心境に過ぎない。


他人にはおかしな思考に映るかもしれないが正真正銘これがありのままの感想なので、とりあえず最初に銘記しておきたい。


この点を踏まえた上で、以下の感想に目を通してください。








顧問による通常の選考ではユーフォのみ優劣がつけ難く、結果部員全員参加による再オーディションが行われる運びに。


後日会場ホールの準備が整うまでの間、久美子と真由は別の場所で待機。


2人きりになったその場所で、初めて互いの本心を晒すこととなった。


久美子は言う。


「私、真由ちゃんに謝らないといけない。怖かったんだと思う、上手な子が転校してきて。焦った。だから真由ちゃんの気持ち、見て見ないふりしてたかもしれない。転校してきたばかりの子が困らないはずないのに。実力主義って言って押しつけて、ごめんなさい。だから、投げかけてくれてたんだよね、本当にいいのって」


「(転校してくる前に)オーディションで嫌なこと、あったんじゃない?」


「私、中学の時オーディションで下級生なのにコンクールメンバーに選ばれて、嫌な思いをしたことがあった。プールで話した時思ったの、真由ちゃんってどこかその頃の私と、ううん、もっと根っこの部分、似てるなって」


同じこと考えてたという真由は似た者同士なのかなと一旦口にするも、やっぱり違うと言う。


麗奈を知って私は変わったとする久美子の根底的心情とは異なる動機を、真由はこれまで隠してきた過去を話すことで伝える。


「私はそれが正しいとは思わない。私の場合は、私のせいで友達が音楽辞めちゃったから。いつもコンクールメンバーに選ばれるのが私で、その子はいいって言ってくれてた。けど、結局辞めちゃった。だから、本当に心の底からみんなと楽しく吹きたい・・・そう思ってる。そのためならどうでもいいの、オーディションとか金賞とか」


どうして何度も辞退を申し入れたか、その経緯は語るものの、どうしても「辞退してほしい」と久美子本人に言わせたかった更なる本音までは明かさない真由。


その心の奥底を、久美子はしっかりと見抜いた。


「コンクールメンバーじゃなくてもみんなと楽しく吹ければいい。でも、わざと下手には吹けない。頼まれて辞退は出来ても自分から降りることはしたくない。演奏に嘘はつきたくない。知ってるよ、少なくとも真由ちゃんの演奏はどうでもいいって思ってる人の演奏じゃないよ」


最後の殻を破れずにいた真由に勇気を与えつつ自らを鼓舞するかの如く久美子は力強く宣言する。


「ここはね、2年前麗奈がソロをかけてオーディションをした場所なんだ。私と麗奈はその時誓った、音で決めるべきだ、上手い人が吹くべきだって。あの時の気持ちを、3年間信じてきたことを裏切りたくない。これは私のわがまま。だから今日、私は私の全てで吹くだけ。同情も心配も、遠慮もいらない。真由ちゃんも自分の信じるものの為に吹いてほしい」


辞退申し出を繰り返し、北宇治吹部の気風と合わなかった真由の振る舞い。


特に原作未読でアニメオンリーな人には単に苛つかせるだけの存在だったかもしれないが、彼女には彼女なりの背景があり、決して空気を読まないだけの言動ではなかったことが立証された、これまでの展開を裏打ちする脚色が施されたパートだった。


このオリジナルエピソードが添えられたことで誤解されがちな真由のイメージが一掃されたのではないだろうか。


原作を読み込み、人物像の違いに戸惑いがちだった自分も幾分ほっとした。


この改変は素直に評価したい。











そして覚悟が決まった2人は舞台へと移動する・・・





顧問と全部員を前にした再オーディション、ここの演出は実にお見事。


単に視聴者として眺めるのではなく、ユーフォの演奏シーンを幕で完全に隠した状態で描き切ることで、部員同様観ている者も一緒になって参加している気分にさせる・・・この表現描写は凄すぎた。


実際かなりの緊張感をもってふたつの演奏を自分も聴き入った。


今はもうどちらがどちらの演奏か知っているので、あの時のように純粋に聴くことは出来ない。


知ってしまった以上大袈裟でなく永久に出来ない。


最初で最後、一生に一度しか味わえない体験をさせてもらったわけだ。


制作スタッフには心から感謝したい。


で、前にも触れたが、その初見において僕は2番手のソリの方をより好ましく受け取った。


久美子が吹いてるという理由からではなく、というか誰が吹いてるか知らない状態でのリスニングによる純然たる感想であり、本当にあの音に惹かれたのだ。


それが心底嬉しかった。


自分は久美子の吹くユーフォが好きなんだな、と。


長くこのアニメを観続け、久美子の音に耳馴染んでるつもりではいたが、いざ当ててみろと言われたら自信がない。


今回ブラインド状態で聴き、はっきり分かった。


好きだという理由で。


それが本当に嬉しい。


1番手は確かに素晴らしかった。


ユーフォもペットも対等に張り合い、それでいて対立状態には決してならず、柔らかく自然に融合していて心地よい。


これだけを聴けば掛け値なく高い評価をつける。


しかし、一見か細く響いたユーフォが次第にペットを支え包みこんでいく2番手の音の広がりに、僕は前者にはない温もりと強い意思を感じ、好きだと思った。


上手いかどうかではない。


好きなんだと。


勝負には負けたものの、名演であることに変わりはないと思う。


だがここで認めなければならない。


僕は音楽を好みで選別することは出来ても優劣で判断することは出来ない人間なんだと。


実力派の麗奈が最後の一票を投じたのは前者だった。


コンクールにおいてより優れてると認められるのは真由の方であり、その判断基準は求められる音を完璧に奏でている、即ち譜面に展開される音世界を正確且つ繊細に表現しているのは真由とのソリであるとの見解からである。


オーディションでは好きか嫌いかではなく上手いか否か、その巧みさが評価の対象なのだ。


僕はそういう基準を心に添えることの出来ないタイプの人間なんだと痛感した。


関西大会で麗奈と真由のソリパートだけは描くべきではないかと該当回の時に不満を抱いたが、ここで撤回させてもらう。


全てはこの回の、この演出の為にとっておいたのだと理解したので。


やはり続きものは最後まで観ないと評価を下せない。


途中経過で分かったつもりになっていた自分を恥じる他ない。





また、この選考で誰がどっちに挙手したかは興味深い。


主要人物に限るが、1番手の方に手を挙げたのは葉月、つばめ、美怜、沙里。


2番手を支持したのは緑、秀一、梨々花、さつき、奏、佳穂。


秀一もそうだが、とりわけ奏には逡巡があった。


同じユーフォ奏者、優劣の判定は確実につく筈で、しかしコンクールに相応しいより優れた演奏はと問われれば・・・。


土壇場で彼女は情に流されたと見てよい。


それを誰も責められないだろう。


いつもは含みを持たせた喋り方をする彼女はオーディション後、久美子との一対一の対面で涙ながらに本音を洩らした。


「わたしだって最後に久美子先輩と吹きたかった」と。


その言葉が全てを表している。




さて、結果発表に遡る。


滝先生の指示に従い前に進み出たのは真由だった。


その時、客席の部員らの間に静かなざわめきが起こる。


一瞬暗い雰囲気が拡散する。


言いたいことを隠してるような。


敏感に察知した真由の手は震える。


そんな中、叶わなかった結末に落胆する久美子の胸に去来するものが。


職員室で滝先生と交わした会話「先生にとって理想の人ってどんな人、ですか?」「正しい人、でしょうか。本当の意味での正しさは皆に平等ですから。黄前さんはどんな大人になりたいですか?」


それに対し「私も、そんな人になりたいです」と言い切った久美子。


今ここで部長としてやらなければならないことに気付いた久美子は、前に進み力強く皆に伝える。


「これが、今の北宇治のベストメンバーです。ここにいる全員で決めた、言い逃れの出来ない最強メンバーです。これで全国へ行きましょう。そして、一致団結して必ず、金を、全国大会金賞を取りましょう!」


その真っ直ぐな言葉に不穏な空気は一掃され、会場は拍手に包まれた。


そして、真由も救われた。


正しさが常に優しいとは限らない。


時に残酷さをもたらすこともある。


しかし、それが必要とされる際はどんな場合も背を向けてはならない。


この日最大の役割を、久美子は果たした。


もしかしてそれは、彼女にとってソリ奏者に選ばれる以上に大事なことだったのかもしれない。





















再オーディション終了の夜、麗奈に呼び出され久美子は大吉山に向かう。








遅れて来た久美子が見たのは涙にくれる麗奈の姿。


麗奈は打ち明ける、分かっていたと。


ずっと一緒に練習に励んできたし、音楽的才能に秀でている麗奈だから音の違い・特徴を聴き分けられない筈がない。


最後の一票を託された彼女には久美子を選ぶことも可能だった。


そうしなかったのは、どんな場合でも音楽に妥協しない心を貫いてきた、その姿勢を全うする為。


たとえ無二の親友でありソリを共にしたい盟友であっても嘘はつけない。


誤魔化しは必ずばれる。


その貫く姿勢に久美子は感化され目覚め、支持し、練習に打ち込んできたのだから、私情を優先して選んだ場合、それは久美子への裏切りとなる。


そんなことは決して出来ない。


麗奈にとって1番手選択は必然だった。


ただそれは、苦渋の決断であり残酷な決断でもあった。


全国大会での久美子とのソリを放棄することになるのだから。


自らの信念の為に自らの願いを自らの手で葬ったことに、麗奈は悲しむ他なかった。


久美子も演奏を終えた時に分かっていたと言う。


迷いがあった、それが音に現れたと。


なので、妥協せず意志を貫き1番手を選んだ麗奈の振る舞いを誇りに思い、嬉しいと告げる。


だからこそ、そんな麗奈の為にも何としても実力で勝ちたかった、死ぬほど悔しい、とぶちまけた久美子。


この2人の絆の尊さはなかなか表現しづらい。


ありふれた言葉で表すと何だか全てが台無しになりそうで、怖い。


よって展開の描写に留めることにする。


ただ、シリーズ集大成である全国大会自由曲『一年の詩』の演奏シーン、その最重要且つ象徴的場面である第三楽章ソリが久美子と麗奈でないというアニメ作品上の事実がどういう影響を及ぼすか、先が読めないのが気掛かりだ。


その影響が物語に整合性をもたせる為に更なる改変を強いるかもしれない。


その点だけが心配。





・・・と、ここまで書いてきて、改めて思う。


この第十二回に本当に自分は感動したんだなと。


それ故に複雑な気分になってしまうのだと。


結局原作とアニメ、どちらかを選ぼうとするから悩んでしまうのだろう。


どちらかを評価すればそんなつもりはなくてもどちらかを穢すような印象をもたらす。


断じてそんな気持ちはなくても、批評にはプラスとマイナスの作用が生じる。


両者を平等に褒め称えることは出来ないものか。


それは許されないのだろうか。





次回がいよいよ最終回。


単に第三期のラストというだけでなくシリーズ全体の終幕を迎える。


一期・二期がそうだったように、恐らく三期も新規描き下ろしを加えて再編集された劇場版が製作されるだろう。


短編集からピックアップしたエピソードを元に特別編映画やテレビスペシャルがつくられる可能性だってないとは言えない。


ただ、久美子を主人公とするメインストーリーを題材にした本編作品は、原作小説も主軸的には完結している以上、次の第十三回放送で幕を閉じる。


長く続いたこのアニメ、どうか最終回は原作を尊重した脚本にしてもらいたい。


何故なら小説のラストは納得のかたちで綺麗にまとめられているから。


極力それに沿った構成にしてほしい。


第一回のあのオープニングがあるから大丈夫そうだが、絶対変わる筈ないと思ってた設定が今回変えられたぐらいだからどうしても不安になる。


最後だけはどうか変えないでいただきたい。



ここから暫くの間、ユーフォ関連の書き込みが一段と多くなると思いますが、こういう状況なのでいつもと違うブログが続いてもその内容にどうかご理解ください。