同じ改変をするにしても作者並びに原作本にどれだけ敬意を払うかで全く違う展開になっていたであろうに、今回は考え得るうちで一番あってはならない選択を重ねていきああいう結果になってしまった。
残念でならない。
それに比べて『響け!ユーフォニアム』は何と恵まれた制作環境にあるのだろうとつくづく思う。
こういうと原作に全てが忠実なアニメという風に思いがちだが、基本路線は厳格に守られているものの細かいところでは結構変えられているのが実情で、しかし、それで印象が悪くなってるかというとそんなことはなく、寧ろ全体を通して好意的に捉えられている(日本のアニメで9割9分原作通りなのは『赤毛のアン』ぐらいで、あれは例外中の例外)。
それどころかアニメオリジナルの要素が作者である武田綾乃さんに影響を与え、続編執筆に際してプラスに作用したなんてこともあったぐらいだ。
結局制作スタッフの作品に対する愛情が、売らんかな主義ではない、本物のそれであることの証であり、そういう人々と関われた武田さんは幸せであると言えよう。
そんな理想的とも言える関わりは過去のシリーズにとどまらず4月から始まる第三期にも貫かれており、現在公開されている第一弾PVを観てもよく分かる。
僅か60秒の映像の中に独自エピソードが既に登場する。
真由の台詞からして、あれは久美子との初対面のシーンだろうと想像されるが、原作にああいう場面はない。
原作では始業近くの職員室にまだいる生徒のスカートの裾の揺れが微かに久美子の視界に映っただけで顔までは見えず、その後自分の教室に移動、そこで担任の松本先生から転入生である真由が正式に紹介されるという運びになっている。
そもそもアニメでの真由のセーラー服の色が北宇治のそれとは違う。
これから1年間同校に通うのに元いた清良女子の制服を着続ける筈はない。
正式な転校前の手続きか何かで学校に訪れていた時に久美子と遭遇したという状況が思い浮かぶが、とにかくオリジナルのエピソードであることは確かだ。
ついでに言うと、真由の着ている紺色のセーラーは本来原作では北宇治の制服の色であり、こちらもアニメ独自の設定になっている。
他にもオリジナルなシーンはあって、卒業した4人の先輩が手を振る場面、あれも原作には出てこない。
このようにたった60秒のPVにも既にアニメだけの展開が存在するが、悪いイメージは全然なく、逆に原作を補強するかのような素晴らしい描き方に好感度がアップする。
元のストーリーを心底愛してるからこそ適切なオリジナル要素を加えられるのだな、と制作スタッフの敬意ある理解力に拍手を送りたい気分だ。
原作を採用してのドラマや映画の制作にはこれぐらいの心掛けで臨んでもらいたい。
これは日テレだけの問題ではない。
ちなみに、自分がこれまで大幅改変されて最も驚いた作品は遠藤周作の『さらば夏の光よ』という作品。
僕はまずこれを郷ひろみ主演の映画で観た。
それで興味をもち原作本を購入し読んでみたのだが、まあ驚いた。
主役が違う!
亡くなる人が違う!
郷ひろみ主演ありきで企画がたてられたのだろう、よくも遠藤周作は許可したものだと思ったが、しかしそんなに悪い印象はなかった。
というか映画自体はなかなかよく出来ており、だからこそ僕は小説にも興味をもった訳で、映像作品単体でみれば寧ろ評価は高い。
話の根幹はしっかりおさえているので(脚本はジェームス三木)、これはこれで別の作品と捉えれば悪くはないなと遠藤氏も承諾したのではないだろうか。
作品並びに原作者へのリスペクトを忘れない、という最重要ポイントを如何なる場合でも欠いてはならない・・・その大切さを教えてくれる。