
郡山市は今年5月、市の施設に命名権を導入する方針を打ち出した。その収入を市の財源とし、当該施設の維持管理費や運営費などに充てるためだ。2016年度は開成山野球場、中央公民館、八山田こども公園、郡山市カルチャーパークの4施設が対象になり、8月1日に募集を始めた。
開成山野球場については、9月15日の締め切りまでに4社から応募があった。市は応募金額や理由、社会貢献実績、今後の計画、愛称の妥当性などを総合的に審査し、ヨークベニマルを選出した。
愛称は「ヨーク開成山スタジアム」になる。契約期間は、2017年2月から2022年3月末までの5年2カ月。年額510万円で、総額2635万円になる。11月下旬に郡山市とベニマルが契約を締結する。他の3施設については応募がなく、2017年度の再募集を検討する。10月25日に品川萬里市長が発表した。

ベニマルは郡山市に本社を置く食品スーパーだ。2016年10月の時点で福島、宮城、山形、栃木、茨城の5県に計209店を構えている。内訳は福島県が74店、宮城県が56店、山形県が18店、栃木県が27店、茨城県が34店。大高善雄が創業し、長男の善兵衛、次男の善二郎、三男の善興が順番に社長を受け継いできた。2015年に創業家以外では初となる真船幸夫が社長に就任。善興は会長になった。もともとは独立した企業だったが、2006年にセブン&アイ・ホールディングスの完全子会社となり、上場を廃止した。2015年度の売り上げは4062億2300万円となっている。
ベニマルは、かつて野球部を運営していた。安積高校野球部のマネージャーだった善兵衛が創設したもので、都市対抗野球に8回出場し、1987年と1994年にベスト8に進出した。田村隆寿、先崎史雄、宗像忠典といった高校野球の名指導者たちは、大学卒業後にベニマル野球部に所属していた。平松省二、村上真哉の2人をプロ野球界(いずれも日本ハム)に送り出した実績もある。社長が善二郎に交代して廃部になったが、福島県の野球ファンに強烈な印象を残した。

ベニマルが開成山野球場の命名権を購入したのは、そうした経緯を踏まえてのことである。地域貢献の意味もある。プロ野球の本拠地球場なら命名権に億単位の値段がつくが、地方球場はそういうわけにはいかない。仮に応募する企業がなかったら、郡山市が恥をかくことになる。そこで、地元の有力企業であるベニマルが率先して手を挙げたのだ。
福島県内で命名権を導入した施設は、他にもある。県営あづま陸上競技場(福島市)と福島県文化センター(同)は東邦銀行が命名権を購入し、それぞれ「とうほう・みんなのスタジアム」「とうほう・みんなの文化センター」となった。楢葉町総合グラウンド(野球場)は相双リテックが命名権を購入し、「SOSO.Rならはスタジアム」となった。相双リテックは、10月20日のドラフトでヤクルトに6位指名された菊沢竜佑が所属している。

開成山野球場は、JR郡山駅から西に約1・8㌔㍍の位置にある。東北の主要球場で市街地に立地しているのは、開成山野球場とkoboスタジアム宮城(仙台市)だけだ。戦後間もない1952(昭和27)年に開場し、増改築が図られてきた。1970~1980年代は巨人のみちのくシリーズの会場になっていたが、1991年以降はプロ1軍の試合が開催されなくなった。施設が老朽化したためで、代わりに地元経済界(幸楽苑)が楽天2軍の試合を誘致した時期もある。2009年に大規模な改修が行われ、2010年以降は再びプロ1軍の試合が開催されるようになった。
改修後は左翼100.7㍍、右翼101㍍、中堅122㍍という規模になった。スコアボードは全面フルカラーLED方式。地方球場でこれだけの設備は珍しい。収容人員は公称1万8200人だが、実際は1万5000人が限度だ。過去最多の入場者数は1万4598人(2013年8月6日の横浜DeNA対巨人)。BCリーグの福島ホープスが本拠地の1つと位置づけている。

命名権の導入に伴い、2017年シーズンは前述したように「ヨーク開成山スタジアム」となる。これでは長いので、「ヨースタ」「Yスタ」などと略称で呼ばれる可能性が高い。
話は変わるが、ベニマルは地域によって呼び方が異なる。古くから出店している福島県の新幹線沿線では、主に「ベニマル」と呼ばれている。それ以外の地域では、主に「ヨーク」と呼ばれている。栃木県では「ヨーベニ」とも呼ばれている。同じ地域でも、年代によって呼び方が異なったりする。ベニマルの社員は「YB」と呼ぶ。
ベニマルは1947年、紅丸商店として設立された。紅丸は日の丸(赤丸)の一つ手前という意味だ。1963年に紅丸商事と改称。1973年にイトーヨーカ堂と業務提携し、ヨークベニマルとなった。「yokado」と「benimaru」を組み合わせたのだ。ただ、英語で書くときは「yorkbenimaru」となる。oとkの間にrが入るのだ。

方言の研究をしている半沢康・福島大学教授は、「ヨークベニマルが各地域でどのように呼ばれているか」を調査している。結果については、読売新聞福島版2006年8月26日付で次のように述べている。
《図は東北本線・阿武隈急行線の駅周辺地域で生まれ育った各年代の方を対象に、ヨークベニマルというスーパーの呼び方を調査した結果です。福島県側でベニマル,宮城県側ではヨークという略称が一般的であることがお分かりいただけるでしょう。前身のベニマル時代からお店があった福島県ではベニマルがそのまま使われ、ヨークベニマルになってから出店された宮城県ではヨークという略称が広まったようです。ただし宮城県のヨークが福島県北部から徐々に県内に広がってきているので,いずれは福島県でもヨークという名称が一般化するかもしれません》
半沢は、ラジオ福島「朝から全開」に出演する機会が多い。この番組では「矢祭町の高齢者はヨークベニマルを『ハドメ』と呼んでいる」と語った。ハトはベニマルのマーク。メは動物や昆虫の呼称。その2つの言葉がドッキングし、トがドになったと考えられる。念のために言えば、矢祭町にベニマルはない。最も近いのは棚倉店だが、それでも矢祭町の中心部から約20㌔㍍離れている。往復約40㌔㍍だから、クルマのない高齢者は簡単に行ける店ではない。

「ヨーク」と言えば、首都圏の人はヨークマートを思い浮かべるのではないか。イトーヨーカ堂がベニマルに触発されて、1975年に設立した食品スーパーだ。現在は東京、神奈川、千葉、埼玉、群馬の5都県に計78店を構えている。内訳は東京都が10店、神奈川県が26店、千葉県が22店、埼玉県が19店、群馬県が1店。食品スーパーの運営についてはベニマルの方が上なので、ベニマルの小松正樹が長く副社長として出向していた。
ベニマルとヨークマートは、2010年に本部機能、組織、商品コードなどを統合した。本社機能をセブン&アイ・ホールディングス、本部機能をベニマルに持たせ、 ヨークマートは営業本部的な役割を担うことになった。両社ともハトをシンボルマークにしているが、配色が微妙に違う。ベニマルはハトの上部が緑、下部が赤になっている。ヨークマートはその逆で、上部が赤、下部が緑になっている。

開成山野球場では毎年1回、楽天が主催試合を行っている。巨人も数年に1度の頻度で主催試合を行っている。プロ野球の結果は全国ニュースで放送されるので、同球場が「ヨーク開成山スタジアム」になると、首都圏の人々もその愛称を耳にすることになる。中には「ヨークマートが開成山野球場の命名権を購入した」と勘違いする人がいるかもしれない。紛らわしいが、ベニマルとヨークマートは兄弟のような関係にあるので、特に支障はあるまい。
2020年の東京オリンピックでは、福島県内の球場で野球とソフトボールの試合が行われる見通しになった。1次リーグの日本戦各1試合が候補に上がっている。この試合をめぐって、福島、郡山、いわきの3市が「ぜひ、当市で!」と誘致を表明した。3市ともプロ野球規格の球場があるので、2013年のプロ野球オールスターゲームでも誘致合戦を展開した。このときはいわき市(いわきグリーンスタジアム)が選出されたが、東京オリンピックでは福島市(県営あづま球場)が選出されそうだ。新幹線が通っていること、収容人員が約2万人(公称3万人)であること、実況ブースが5つあることが大きい。

郡山市も新幹線が通っているが、開成山野球場の収容人員は前述したように約1万5000人と少ない。しかも、実況ブースが1つしかないので、テレビとラジオが同時に中継する試合に対応しづらい。6月7日の「楽天対ヤクルト」では、J SPORTS 2(CS放送)が実況ブースを使用し、東北放送(ラジオ)はテントで仮設の実況ブースを設営した。
国内の試合はそれでごまかせるとしても、オリンピックで同じことをやるのは見栄えが悪すぎる。「なぜ、大改修のときに実況ブースをもっと設置しなかったのか?」と首をかしげざるを得ない。開成山野球場は立地条件がいいものの、施設面では県営あづま球場に見劣りする。東京オリンピックの会場に選出される可能性はほぼゼロなので、「ヨーク開成山スタジアム」という愛称が世界デビューすることもあるまい。
【写真の説明】
・6月7日に開成山野球場で行われた楽天対ヤクルト
・ヨークベニマルの本社
・とうほう・みんなのスタジアム
・開成山野球場を本拠地の1つにする福島ホープス
・地域によって呼称が異なる「ヨークベニマル」
・半沢康教授が作成した一覧表
・ヨークマート下板橋店
・大規模な改修でスタンドが拡張された開成山野球場
・テントで実況ブースを設営した東北放送(右端は解説の岩村明憲監督)






