ヤコブは故郷に帰りたくとも、叔父のラバンの引き留めにより実行できずにいましたが、とうとう神様がヤコブに帰るように語り掛けました。「帰りなさい、あなたの父祖たちの土地へ、あなたの生まれ故郷に。わたしがいるのだ、あなたと一緒に」(3節 別訳)[i] このように、ヤコブの生涯ではいつも大きな転機の時に神様が介入され(3節 別訳)、また道を示されます。また状況的にも、叔父ラバンとその息子たちが以前のようではなく、ヤコブに対して不信感や妬みを持っていることが明らかになってきました(1-2節)。私たちが何か大きな決断するとき、自分の希望や他者の勧めを実行する前に、まずは神様に祈り、答えを待つことが大切でしょう。その答えは聖書の御言葉を通して示されると同時に、状況的に示されることがありますが、状況だけで判断して動くと、神様の導きではない方へと進んでしまい、更なるトラブルになることがあります。
ヤコブは妻たちに神様からのお告げを話し、同意を得て、ラバンのところから逃亡します。ラバンが以前から彼の家畜の群れとヤコブの群れと3日の道のりを隔てておいたのが功を奏して、彼が離れている間にヤコブたちは逃亡を決行します。しかし、ヤコブの家族と家畜の群れは大所帯のため、気が付いたラバンたちにすぐに追いつかれてしまいます。しかし、ここでも神様は介入され、ラバンの夢でヤコブに害を与えないようにと警告して下さいました。
しかし、ここで妻のラケルがラバンの守り神(小さな偶像)を盗んでいたのです。ラバンはヤコブに「なぜ私の守り神を盗んたのか」、「私の所有の娘たち(この当時の中近東の結婚は、夫が妻の家の家族共同体に婿入りする慣習があり、つまりすべてラバンのものとみなしていた)を何も告げずにを連れ去ったのか」と詰問します。しかし、ラケルが守り神を隠していたので、ラバンは見つけることができず、ヤコブは今までのラバンの彼に対する仕打ちをなじります。こうして、ラケルはヤコブたちの旅立ち、独立を認め、条件としてヤコブが他の女性と結婚してラバンの娘たちを悲しめないことと、お互いの領内を犯さないことを契約という形で結びます。石塚をたて、皆で食事をして(当時の契約の際、契約の徴として共に食事をしていた)、ラバンは娘や孫たちに口づけをして祝福を与えてから家に帰り、無事ヤコブ一家は故郷を目指して旅路を続けることができたのです。
ところでなぜラケルは守り神を持ち去ったのでしょうか。夫ヤコブが信じている主なる神だけを信じきれなかったから、保険として偶像を持っていったのか、それともお父さんを困らせるためだったのでしょうか。理由はわかりませんがいずれの動機であっても、トラブルを悪化させることになりました。神様以外により頼む、もしくは相手を困らせてやろうという復讐的な思いで何かをするのは、たとえほんの小さなことであっても気を付けなければならないと思わされます。
[i] 大野惠三、「旧約聖書入門2 現代語りかける父祖たちの物語」、新教出版社、2015年、P252引用