中竹竜二×高濱正伸―「子どもを伸ばす親の6カ条」後編
ラグビーをはじめとするスポーツ界ではコーチのコーチとして、またビジネスの分野ではリーダー育成でも定評のある中竹竜二さん。エッセンシャル出版社より、育児についての見解をまとめた、『どんな個性も活きるスポーツ ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』を上梓しました。
中竹竜二さんと、本書に対談やコメントで登場する花まる学習会代表・高濱正伸さんの対談です。テーマは、「子どもを伸ばす親の6カ条」。この対談の内容を3回にわたって、お伝えします。
後編です!
■オフザフィールドを豊かにする―目標に出合うための土壌作り
― 質問です。長期的な目標設定は、小学生より小さな子にはまだ難しいと思います。何かヒントになることがあったら教えてください。
中竹さん:これは大人もそうだと思いますが、目標をたくさん作ったほうがいいと思います。目標を絞らなければならないということはないと思っています。
高濱さん:そうですよね、絞る必要は全然ないと思います。小さいころはちょこちょこ変わって当たり前なんだということですよね。18歳くらいで人生の目標を定めたとしても、32歳、33歳くらいまでは揺れ動くものですし。でもそこを越えれば、あとはひたすら突き進むことが出来るものだと思います。10代のころは、目標がちょこちょこ変わって当たり前です。
中竹さん:毎日変わっているくらいが丁度いいのではないでしょうか。
高濱さん:そうですよね。出来ない目標を立てて、それでしょっちゅう失敗して…そういうものです。
― 出来もしない目標について、親御さんにはいろいろな思いがあるとおもいますが。
高濱さん:親心はもう、どうしようもないですよね。思うことは自由だと思います。願いを預けた結果、将来イチローになることもありますし、それはその親子それぞれだと思います。ただ、「最後に選ぶのは本人だ」というのは大事なポイントです。抑圧的な関係だと、子どもは親が喜ぶ方を選ぶものですからね。50歳になって「私は医者になりましたけど、本当は発掘だけやっていたかったんです」と、しみじみ悲しそうに言う人もいます。親としては「医者の方が安定しているのだから」ということだったのでしょうし、親に悪気はないのですよね。「安定した人生を送って欲しい」という願いから出る言葉なのですから。ただ、これを振り払って、いかに自分で決めるか。これが重要です。
中竹さん:親や先生、または世の中に引っ張られることも含め、出合いというのは偶発的だと思います。この偶発が生まれる土壌を作るためにも、オフザフィールドが大事だと思っています。オフザフィールドが乏しかったり、窮屈だったり、ストレスフルな状況だったら、目標に出会えません。キャリアにおいて、「計画的偶発性理論」というものが注目されていますが、これは、「ほどとんどのキャリアは本人も予測しない偶然による」というものです。では、手放しにその偶然がやてくるのを待てばいいのかというと、そうではなくて、偶然を招き寄せるための土壌を作っておくべきなのですね。
計画的偶発性理論
計画された偶発性理論とは、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授らが提案したキャリア論に関する考え方。 個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される。その偶然を計画的に設計し、自分のキャリアを良いものにしていこうという考え方。
(引用)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A8%88%E7%94%BB%E7%9A%84%E5%81%B6%E7%99%BA%E6%80%A7%E7%90%86%E8%AB%96
ですから親は、「その目標はだめ」などど判断する前に、子どもから何かが湧き出てきたこと事体が、次に繋がる「素晴らしいこと」であるという認識を持った方がいいですし、その源泉がどうして湧いてきたのかを一緒に探って共有しておくと、次につながるのではないかと思います。
高濱さん:今のお話で見えたことがありました。親には、「行ってほしい方向」があっていいと思います。ただ、そのための環境を整えるのが親の役割ですよね。例えば、岡田光信さん(高濱正伸先生の著作『子ども時代探検家 高濱正伸のステキな大人の秘密 なぜか全員農学部編』に登場)という、宇宙ゴミを集める画期的な会社を立ち上げた人がいます。世界中で誰もやったことがないことを成し遂げたスゴイ人です。
岡田さんは農学部を出てから、世の中を何とかしたいと猛勉強をして当時の大蔵省に入り、かと思うと今度は、有名な外資系の会社で自分を鍛えたりしています。そして、40歳になって「まだまだ本当の自分ではない」「自分が一番やりたかったことは」と立ち止まります。彼は、中高一貫校を出ていることもあり、それまでは「世の中で価値のあること」を優先させてきたのだと思います。ところが40歳で自分を省みることになったわけです。
この時に岡田さんが思い出したのが、高校1年生の夏にNASAのスペースキャンプで毛利衛さんに出会い、「岡田光信君 宇宙は君たちの活躍するところ」という手書きのメッセージをもらったときの感激というか、むしろ「激震」に近いような気持ちでした。また当時、親がこのいいタイミングで雑誌の「Newton」を買ってくれたりしているのですよね。それで自然と読むようになった。これらが岡田さんの「いま」に繋がっているのですよ。やはり、親が出合いをセッティングしてあげるというのは大事だなと思います。人間は、憧れが原動力となるものですから、憧れる人や物事に出会えるかどうかというのは、大きいポイントですね。
僕は世の中のすごい人、スーパーマン研究をしていましたが、やはり人に憧れてその道にはいったという人も多いですよ。ですから、もし親として医者がいいと思うならば、ステキなお医者さんに会わせてあげるとうのも一つですよね。
― 質問をいただきました。親から見て、人とうまくやっていく力が少し弱いかなと思う小学校2年生と3年生の子どもがいるのですが、どうすれば直すことができるでしょうか。
高濱さん:その年齢だと、学校でまずいことがあっていいですし、それはこれからどう振る舞えばいいのか自分で学んでいくべきことです。
僕の場合は、その日あったことを全部日記に書いていました。中学生くらいのころですかね、何か友達から疎外されているなと思っていたことがあったのですが、今考えれば、「君がボールを逃さなければ(エラーしなければ)……」などと平気でハッキリ言たりしていて、嫌な子だったのですね。それで日記を書いていくことによって、「思ったまんまを言い過ぎているようだ」ということに気づくわけです。自分のことはだんだん客観的に見えてくるようになるものですよ。
中竹さん:僕は、ご質問なさった親御さんが何をもって「うまくいっていない」と思っていらっしゃるのか、気になります。自己コントロールできていないということを本人が自覚しているのなら、「どういう風な言い方をすれば、もっと仲良くなれるのかな?」などと問いかけをすることができるので、いい状態だと思います。ところがこれが、「相手が…」などといった関係性の話になると複雑になってしまうので、“お子さんが”どんなジレンマやストレスを抱えているのかにフォーカスしたほうがいいと思います。
高濱さん:子どもとしてはそれなりにこなしているつもりでも、親としては物足りないということがあります。
中竹さん:そうですね。言葉では説明できなくても、子どもなりに「その子とうまく付き合いたくないそれなりの理由」があるのかもしれないですから、一方的に「それではだめだ」と決めてしまうのは良くないかもしれないですね。その理由も含めて本人にしっかり聞いたら、「なるほど」と思うこともあるかもしれません。
高濱さん:そうですね。とりあえず、本人の言葉を聞きたいところではありますよね。
― 高濱さんの「親は子どもの出会いをセッティングする」という言葉が好きです。ただ、コロナでなかなか外出もできません。何かいいヒントはありますか。
高濱さん:直接会ったり触れることが全てではないので、本でもいいですし、動画でもいいです。「この本が自分を変えた」という人も結構いますよ。生身の人間から直接聞いたからこそ沁みるということもありますが、いろいろな形で親がステキだなと思う人と出会うチャンスを作ってあげるといいと思います。まあ、子どもはそのうち、親がそうとも思わない人を「ステキだな」と思うようになったりするものですけれどね。
中竹さん:出会いは人でなくても、音楽や絵でもいいと思います。機械でもいいかもしれないですし。僕がイギリスに留学したときの一番の収穫は、社会学に出合ったことでした。世の中のもやもやを俯瞰的に見ることができる学問があったのかと思いましたね。もっと若いうちに見つけていればよかったと思いました。
高濱さん:学問は面白いから皆しているのですよね。最終的に面白いのは学問だと思います。
中竹さん:探求ですよね。
高濱さん:そうですね、探求ですよね。自分で何かを掘り起こしている時って面白いですからね。誰にほめられるわけでもないのに楽しい。社会学のような先人の知が結集したものを見させられると「すごい!」と感動しますよ。
中竹さん:そうですよね。それと自分の経験がつながると「これか!」と思います。人には、モノとモノを繋げて意味付けしたがる性質があると思いますが、それも快感ですよね。僕が高濱先生とお話することが楽しいのもそれだと思います。
高濱さん:中竹さんのお話は本当に面白いですよね。思いがけないところからヒントが出てきたりしますから。
■子どもの可能性を引き出す「目」― 量と時間を大切に
― 最後の質問です。『どんな個性も活きるスポーツ ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』の「子どもを伸ばす親になるための6カ条」について、子どものどこをみることが大事なのでしょうか。
子どもを伸ばす親になるための6カ条
①一番大事なのは、わが子をよく見る「目」
②心を見るコミュニケーション
③本当に安心できる居場所になる
④他者評価で考えない、他者との比較を基準にしない
⑤存在承認の最大の理解者になる
⑥その子らしさを見つけて認める
高濱さん:こちら、最初に僕が説明しますね。指導者のあるべき姿からお話ししますと、「今日はこういう指導案に沿ってこういう授業をしよう」と計画通りに進めるというのではなくて、実際の子どもたちを見ながら、臨機応変に新しいカードをきることができるのが理想なんです。ライブ感ですよね。その場でいろいろキャッチしながら、いかに子どもを引き付けるか。過去の有名な教育者はその力に優れています。目の前の子どもがワクワク生き生きしているかですね。そうでなかったら、「では何が問題なのだろう?」と考えることです。
親が決めた「頭がよくなるというウワサのドリル」をやっちゃいるけれど、目が死んでいるぞ、ということもありますからね。それでは、何も伸びていません。
中竹さん:僕は、その人の目をよく見て「その人がどこを見て何をしているか」を注視します。スポーツでも、監督をチラチラ見ながらプレーする選手がいます。このような選手は、親の目を気にしながら育ったのでしょうね。集中力も削がれていますし、目的も違うところに向いています。
僕は、大事なことをする際には「量」がまず重要だと思っています。つまり、選手を見る時間や空間を増やすのです。日本のラグビーの礎を築いたエディー・ジョーンズ監督にしてもジェイミー・ジョセフ監督にしても、とにかく「目」がすごいのです。レ―ザーのようですよ。ボールがないところもサーチしていますし。
エディー・ジョーンズ監督は、スタッフが机の上に携帯を置いた瞬間に、携帯カバーを変えたことに気づいたりもしました。それくらい見ているのですよ。今私たちはスマートフォンの画面ばかり見ていますが、いかに人をみることができるかも問われますよね。「いかに子どもを見ることができるか」。その量を増やすことです。
高濱さん:お母さんやお父さんこそ、我が子が生き生きしているかどうか、一番分かっているものですよね。後ろ姿や立ち姿だけで「今日元気がないな」と分かったりするのですから。「あのドリルをやらせたからだな」とかね。
― 最後にひとことお願いします。
中竹さん:『どんな個性も活きるスポーツ ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』の「子どもを伸ばす親になるための6カ条」にも書いてあるように「他者と比較しない」ということ、「その子らしさ」を大事にすることが重要だと思います。
過去からどう変化し、今、どうなっているのかを見ながら、過去を少しずつ承認してあげて、お子さんが自分を形作っていく過程を支援してあげられるといいかなと思います。
僕もまだまだ課題がたくさんありますし、僕ができることといえば、「教えている人への承認」です。お父さんやお母さんに対してもそうです。「苦労していますよね。」と。指導している方たちも、他者と比較するのでなくて自分らしくあってほしいと思います。今日はどうもありがとうございました。
高濱さん:他者評価の点でお話しますと、親が何故子どもを叱っているのか?その理由に、人目を気にして、「これを叱らないでいたら変なお母さんと思われるかもしれない」というものあるかもしれないですよね。その人の哲学で「それは絶対だめだ!」と言い切っているならいいのですが、そうでないと、子どもにも問題が起きたり、お母さん自身も追い込まれてしまいます。
ここは個人の哲学が試されると思います。何歳からでも遅くないので「私自身が幸せであるかどうか」もしっかり見つめてみてください。それを突き詰めると、「この子の笑顔があればそれでいい」というところに行き着いたりするものです。「なんであんなに怒っていたのだろう」などど思うかもしれません。自分にとって大切なことを明らかにして子育てされるといいと思います。
中竹さん:本当に素敵な子育てでありますように。
―中竹竜二( Nakatake Ryuji )

株式会社チームボックス代表取締役
日本ラグビーフットボール協会理事
1973年福岡県生まれ。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、自律支援型の指導法で大学選手権二連覇を果たす。2010年、日本ラグビーフットボール協会「コーチのコーチ」、指導者を指導する立場であるコーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを経て、2016年には日本代表ヘッドコーチ代行も兼務。2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックス設立。2018年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。
ほかに、一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟 副理事長 など。
著書に『新版リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』(CCCメディアハウス)など多数。
2020年、初の育児書『どんな個性も活きるスポーツ ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』を執筆。
◆『オフ・ザ・フィールドの子育て』の紹介◆
本書では、「多様性」というキーワードに着目し、それを独自に育んできたラグビーに学ぶことで、子どもたちに多様性を身につけてもらえる、子育てをよりよくできるのではないかと考えました。教えてくれるのは、「コーチのコーチ」をしてきた“教え方のプロ"である中竹竜二氏。
さらに、花まる学習会を主宰する高濱正伸先生から、著者の考えに対して、
「子育て」や「学び」の観点から、適宜コメントを入れていただきました。
また、巻末にはお二人の対談を掲載し、ラグビーに学ぶことの意義についてご紹介しています。改めて「ワンチーム」という言葉の意味や、ラグビーが大事にしてきた「オフ・ザ・フィールド」という考え方を知ることで、わが子の個性をどのように活かしたらよいかを考えるきっかけとし、わが子が実際に輝ける場所を親子で一緒に見つけてほしいと思います。
“サンドウィッチマン推薦! "
ラグビーがなかったら、いまの俺たちはいなかったと思う。
「中竹さん、ラグビーから学んだことは、今に活きています! 」
―高濱正伸( Takahama Masanobu )

花まる学習会代表
NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長
算数オリンピック作問委員。日本棋院理事
1959年熊本県人吉市生まれ。
県立熊本高校卒業後、東京大学へ入学。
東京大学農学部卒、同大学院農学系研究科修士課程修了。
1993年、「この国は自立できない大人を量産している」という問題意識から、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。1995年には、小学校4年生から中学3年生を対象とした進学塾「スクールFC」を設立。チラシなし、口コミだけで、母親たちが場所探しから会員集めまでしてくれる形で広がり、当初20名だった会員数は、23年目で20000人を超す。また、同会が主催する野外体験企画であるサマースクールや雪国スクールは大変好評で、年間約10000人を引率。
各地で精力的に行っている、保護者などを対象にした講演会の参加者は年間30000人を超え、なかには“追っかけママ”もいるほどの人気ぶり。
障がい児の学習指導や青年期の引きこもりなどの相談も一貫して受け続け、現在は独立した専門のNPO法人「子育て応援隊むぎぐみ」として運営している。
公立学校向けに、10年間さまざまな形での協力をしてきて、2015年4月からは、佐賀県武雄市で官民一体型学校「武雄花まる学園」の運営にかかわり、市内の公立小学校全11校に拡大されることが決定した。
ロングセラー『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』ほか、『小3までに育てたい算数脳』『わが子を「メシが食える大人」に育てる』『算数脳パズルなぞぺ~』シリーズ、『メシが食える大人になる!よのなかルールブック』など、著書多数。関連書籍は200冊、総発行部数は約300万部。
「情熱大陸」「カンブリア宮殿」「ソロモン流」など、数多くのメディアに紹介されて大反響。週刊ダイヤモンドの連載を始め、朝日新聞土曜版「be」や雑誌「AERA with Kids」などに多数登場している。
ニュース共有サービス「NewsPicks」のプロピッカー、NHKラジオ第一「らじるラボ」の【どうしたの?~木曜相談室~】コーナーで第2木曜日の相談員を務める。


