第3話
ーーー二条駅へ迎えに来て、美波🎶
ーーーOK美沙子。改札口まで出て来て。
スマホのLINEを閉じて、私は地下鉄烏丸線北大路駅から烏丸御池へ下る。東西線に乗り換え、地上の出口へ昇ると、二条駅コンコースに着いた。
自動改札口で手を振って笑顔を見せたのは、田中美沙子独りだけだった。梶山芙由子の姿はなかった。
「ひとりフウコは
」
「行けなくなったって、言っといてって」
「そっか。。。じゃ、そこのコメダ珈琲でも、入ろ」
美沙子は頷いて、並んでロータリーから横断歩道を渡る。
「やっぱフウコは、会いたくなかったのかな私と」
「、、、そうかも。あれから、和彦さんとも別れたって、、、」
「そっか」
「ニュージ―から帰って来た後も、最近までフウコとは会ってたんだけどね」
「らしいね。。。あん時私は、マウント・フットのゲレンデで、カズくんにフラれた」
美沙子は私の方に顔を向けてから、首を横にかぶりを振った。
私は、横断歩道のド真ん中で立ち止まってしまった。
美沙子は、知ってたんだ。。。
「フウコは風来坊やけどさ、今実家の母親が寝込んじゃったから、って豊岡に帰ってるんや」
「そっか。私も似たようなもんや。父親がヤバかったから、還暦で退職して、Uターンして来たばっかり。
上賀茂に住んでるんや、両親共」
「そうやったん。。。うちは今、綾部の工業団地でインドネシアからの研修生のフォローしてるんや。最後に会うたんは、堀川高校の先生してる時やったわ」
「美沙子はPIANO続けてて、好かったなあ」
「ほんま。音大受験は失敗したけど。家族ごと引っ越してまで、堀川高校の音楽科へ行ったんやけどな。。。」
芙由子と美沙子と私は、三人共兵庫県の山陰但馬の出身で、美沙子は中学まで同じで、京都の大学生になってからも友人関係は続いていた。
美沙子は音大受験を一浪して諦めて、京都産大のインドネシア語学科に入学。
なんでまたインドネシア語と私には不思議過ぎたが、私だって〈ブラジル・ポルトガル語学科〉という長ったらしい学科名に興味津々で、京都外大に入学したのだった。
南米とラテンヨーロッパの二つもの文化圏の勉強できるから、と家族には告げたが、単にサッカー好きと珈琲好きが高じただけかもしれない。現に語学留学先は英語圏だった。
3年中退してニュージーランドへ語学留学する時、再び『仲良し再開』したのだ。
芙由子は高校から同じで、村岡高校スキー競技部に所属していた。大坂の芸術短大へ行ったのだが、ニュージーランド留学中に、現地マウントフットでのSKIインストラクターのバイトで、芙由子とは再会した。
「ふうこ」と呼ぶくらい、風のように飄々とした性格で、いわゆる〈ノマド生活〉がとてもイメージしやすい人柄だ。
だけど見た目は私とよく似た背格好で、スキー競技部の頃から「一卵性他人」と呼ばれていた。
マウントフットのゲレンデ仲間達にも『STRANGER TWINS』と呼ばれていた。
そうして芙由子と美沙子と美波の三人一緒に、ニュージーランドで同郷の同じ年女子が再会、仲間意識も再開したのだった。
そのインストラクター仲間に、和彦くんが居た。
京都が祇園祭を過ぎた頃に出国したので、南半球は真冬。現地マウントフットもスキーやスノーボードのシーズン真っ最中だ。
ただ語学留学するのも収入がないので、十代でSAJ1級を取得していた私は、SKIスクールでインストラクターのアルバイトを始めた。現地に先に来ていたフウコに紹介してもらったのだ。
兵庫県の但馬地域の高校生は、授業でもスキーやスノボの単位が必修科目であったくらい、『ほぼほぼジモティー』だ。
フウコは豊岡市から通っていたが、本格的に続けたクチで、村岡高校スキー競技部で部活女子仲間だったのだ。
私はインターハイ出場したはしたが、散々な成績。フウコは美大受験が心のメインだったので、『ちょっと上手い一般ピープル』を、今でも続けているそうだ。
体格もヘアスタイルも、日本語の方言もそっくりな日本人で、ユニフォームを着ていると滑り方のクセも似てしまうので、現地のニュージ―・ジモティーも『STRANGER TWINS』と呼んだのだ。半年間名前を呼ぶのも、間違えられてばかり。
だからなのか、それが原因で間違えられるのか、同じ日本人男性をはさんだ三角関係のように、成ってしまったのだ。
石井和彦は、ロシニョール・チームのオーディションでギリ決選落ちするくらい、スキーヤーとしてのセンスが光るタイプで、石神井に住んでる成城BOYだった育ちの良さがある。
仕事上の感性を吸収したり、お互いのスキルアップをライバル視するような仲でいる事を、私は望んでいた。
だけどカズクン自身は、レッスンのJOBを離れた時間には、癒しや寛ぎを得られるフウコをからかうのが、クセだった。
私はヤキモチを焼く自分にビックリしながらも、今は、独りでスキーや語学に没頭していたい、という気持ちを最優先していた。〈志〉が〈感情〉に勝っていたのだ。
だけど、甘えのような依頼心は、ぶつけてしまう。
子供がじゃれ合っているように、ゲレンデで雪まみれになってキッズレッスンを二人で持ってる時、保育士のような私だが、子供達が同次元の友達として懐いて来るカズクンは、はしゃぎ方が幸せそうな微笑ましさに満ちていた。
二人でてっぺんからパウダー・スノー三昧するのは、私もとっても楽しくって充実していた。
だからといって、恋心に育てて行こうとはしていなかった。
私はまだ伸也とのこと、吹っ切れていない。。。
やり直したいわけじゃないけど、帰国したら、あの頃のような幸せ感を取り戻したい。他の新しい出逢いとで。。。
私は現地で恋愛関係に成る事には躊躇していた。
だけど語学留学が1年間で終わり、帰国する時は、別々の空港に降り立つ。カズクンは成田空港。私は関西国際空港。
同時に、フウコは関空から帰国して同じく山陰本線でいっしょに帰省したのだった。
間もなく『Wシンヤ』も忘れて、24歳から多言語コールセンターへの所属を決めて、フリーランスではなくなり自活は順調だったが、ニュージーランドでの日々の思い出も、いつしか忘れ去っていた。
それほど日々毎日、来日している外国人対応や、住み着いた外国籍のクレーマー対応に追われていた。
スキー競技部でもなく、堀川高校音楽科に進学した美沙子とは、外国語学部の学生同士で、つかず離れずの友人関係がずっと継続されている。
美沙子が高校教師を退職する以前に、私の父も退職後に京都市内へ転居して来たので、私の実家は京都市内になって、美沙子ともまた頻繁に会えるようには成っていた。
美沙子はいつも、私とフウコの仲を心配する。
ーーーねえ、フウコに会った
ーーーフウコ、あのニュージーランドで知り合った和彦さんと
付き合ってるんだって。知ってた
ーーー別れたらしいよ。フウコ。和彦さんと。
なんでかな。。。
ことあるごとに、2人の会話にフウコと私の仲直り催促を付け加えて来る。
私は会いたくないわけじゃない。
むしろ、私は彼氏候補より、同姓の友人との仲を大事にすることを選んだのだ。
二人が幸せな未来を繋ぐんなら、それで好かった。彼氏候補より女友達を選んだ。だけどフウコはわだかまりが在るらしく、フウコの方から連絡はして来ない。
「私もね、、、今は長い付き合いのパートナーが居るしさ、確執は無いんやけどね、、、フウコの方でツレナイんや。。。
今回もドタキャンで会ってはくれへんかったでしょ」
「、、、まあね」
「実はね、、、5年前くらいに、横浜のみなとみらいで和彦さんに会ったんや。『やっと結婚できる』って言ったから『フウコと❓』って訊いたら『ちがう!』って言ったっきり口ごもっってしまったんよ。。。」
私もそこで言い澱んでしまった。
美沙子のミックスジュースの氷がカランッと鳴った。
「訊きにくいから、黙って待ってたらさ、顔上げたら怒ったように言葉ぶつけて来て。『別れたも何も、東京まで会いに来てはくれたけど、フウコさんとは付き合おうとは思ってなかった。現地での思い出の一つとして、美波ちゃんとフウコさんの事は置いて来たんだ』ってさ。
みなとみらいのQUEEN'S TOWERのカフェでさ、珈琲も冷めてしもうて、、、沈黙や。
なんか、その空気がどんより重くって『なんでそんな辛そうなん結婚できるのに』って単刀直入に訊いたん。
そしたら『美波ちゃんの方が好きで、何も言えないままでフウコさんと付き合うのは難しいって伝えたらさ、二人してあたしを馬鹿にしてって怒鳴られた。そういう感情を露わにする人だと思ってなくってさ、ビックリしたし気まずくなったし。女同士の友人関係にも善くなかったよね。。。
こわくって、それっきりなんだ。。。会ったのは』って、今更な新事実。LINEか電話連絡だけだったらしいよ。
カズクンが言うには、だよ」
「そっか。けどそれ、誰も悪くないっぽい。三人共」
「、、、そやね。私も気まずくっって会えへんのやけど。。。」
また、しばし美沙子も黙り込んだ。
付き合ったわけでもなく、恋愛というにはちょっと手前で躊躇した出会い。
なんか最近、そんなんばっかし思い出すわ。。。
ーーーフウコ、ごめんね。も一度友達に戻って。
和彦さん抜きやし。スキー部活女子会しよ
これはノリが軽くて明る過ぎ。逆に引くわ。。。
ーーーなんかね、もう別の人と結婚したらしいわ。
ヤケ酒ヤケ食い、する私もとっくにフラれてるし。
、、、みたいなのも、なんか下手に出過ぎて、ウザイ
ーーーとりあえずカズクン、フウコに謝れ
ごめんね、だけでいいから。
これや。うん
「オトコが絡むと、めんどくさいな。女同士は」
「それや。ほんま」
「そやそや、ほんま。美沙子、バツイチ同士がんばろっか」
「そやそや。楽しんでがんばろっと。
ミナミには北斗や。ウルトラマンエースでがんばれ」
「それを言うなら、ミナミにはタッチやしぃ」
「あっそれ
ミナミはカズちがうかった、タッチや♫」
美沙子の女子会ノリで、うまい具合にオチが着いた。
私もなんだか、辰貴に逢いたくなって来た。
ーーー to be continued.
学名:プリウス・タジマエンシス・マキノ
山桜と外来種が500年以上前に
交配して毎年4月下旬に満開に成る、しだれ桜の1種。
生物学者、牧野博士が発見。学会発表。
@兵庫県但馬地域の湯村温泉。正福寺にて。