~私立探偵コジマ&検察官マイコのシリーズ~
Vol.4‐➂
オレ小嶋雅哉は、デザートのレモン・ジェラートとデミタスのエスプレッソを味わいながら、麻衣子に、夕方までの来客2名が語ってくれた事件の経緯を簡潔に説明する。
事件性が高いので、一応事故処理だが【事件】として。
麻衣子も、レモン・ジェラートを口に運びながら時々相槌を打って、カシスソーダを新たにオーダーした。オレは下戸ではないが、麻衣子がテキーラを注文しなくってホッとした。
麻衣子は、18歳まで南米で育ったにもかかわらず、あまりコーヒーを好まない。珈琲好きのオレはなぜなのか訊いたが要領を得ない。
多分子供の頃に、父親が南米産のコーヒー栽培と貿易に関わっていたせいで、Caféに飽きてしまったのだろう。
ブラジルへ移住した日系人には、けっこうな割合で京都出身者が居るが、麻衣子の両親もアルゼンチンからもう戻って来ない。麻衣子独りだけ、祖父母を頼りに外国語大学の学生として帰国子女と成ったのだ。
もう日本語は何も問題は無いが、未だに時々感覚的に『ALL外国語脳』である事を痛感させられる。
オレがあまりにも日本人的感覚だからなのかもしれない。でも、これはこれで何とか長年付き合ってきている。
それはさておき。
オレが麻衣子に語った【河隅美咲から観た黒田玲苑】と、【道兼くんが知っている黒田玲苑の出生】とは、こういう事だ。
ーーーちなみにヒカルくんこと輝美ちゃんも共有している話題。
黒田玲苑の少年期のエピソードについて語ってくれたのは、他でもない菅原道兼くんだ。
道兼くん自身は京都市生まれ育ちのPURE京都人だが、彼の母方の実家は長崎県諫早市で、祖父は長崎県警の警視正だった。
夏休み期間に、やたらにジメジメ蒸し暑い京都を脱出して、母親の実家に帰省していた小学校低学年の時の事。。。
ミンミンゼミがうるさ過ぎる長崎の母の実家で、朝から素麵を食べていた所へ突然、5歳くらい年上のまだ中学生ではない男の子がやって来た。(ここは菅原道兼くんの語りのまま伝える。)
祖父が連れて来て、しかも1週間程一緒に寝泊まりしていた。
何てことないコンビニのお菓子を無銭飲食し、長崎の路面電車を無賃乗車して補導された未成年で、不起訴に成った家出少年だったのだ。
彼は『クロダレオン』と名乗り、対馬から泳いで本島の長崎市に辿り着いた、と駐在所では語ったらしい。『本当は福江島から漁船に潜り込んで半島に辿り着き、大村湾を観たかったから諫早市をウロウロしたかった』、、、とか、素麺を食べながら、曖昧に語っていた。。。のだそうだ。
韓国のチンタオ(青島市)に住んでいた事もあるらしい。
道兼くんの祖父は彼の戸籍を調べたが、彼の名は長崎県では見つからない。『クロダレオン』は鹿児島県に住む4人家族に在籍していた。
日本語は当たり前に喋れるが、何かに付けて『アラソウ』と『サランヘヨ』を使い廻し、それでも『カムサハムニダ』は滅多に使わない、と笑っていたそうだ。
鹿児島県に住む『クロダレオン』宅へ固定電話に連絡を取ったが、両親でなく兄貴が迎えに来ると言う。
こうして道兼くんの祖父の自宅に黒田兄弟が揃った。
同じ顔をしているのが、迎えに来たのだ。背格好もクローン人間だ。
「そいつは『レオン』でなく『シオン』です。福江島に養子に行きました。物心つく前に。
だから、双子の片割れが来た方が分かり易いかな、と思って」
ちゃんとした標準語をしゃべる兄貴の『レオン』は、差し出したメモ帳に漢字で『玲苑』と『紫苑』を書いて見せた。
本物の『黒田玲苑』は、好感度高い優等生風の小学6年生だ。
「僕も、鹿児島から長崎まで、独り旅を楽しんでしまいました。
紫苑は育ての親の家には嫌気が差したんだと思います。連れて帰ります。多分、福江島には戻らないから」
ハッキリとした口調で、兄の玲苑が礼を述べた。そして飲食代と電車賃をキッチリ計算して置いて行った。
同じように白いTシャツとショートパンツの姿だけど、菅原道兼少年には、同じ顔した別人に映ったそうだ。
警視正である菅原くんの祖父は、後日、鹿児島市役所まで出向き、戸籍謄本を確認した。
1歳にも満たない頃に、紫苑の名前の上にバッテン✖が付き、除籍になっていた。
再会して案内した兄の玲苑も最近知ったそうで、知っている事もその時点では両親には伝えていなかった。
だからこそ補導の連絡した時に、警視正は、
『うちの玲苑は今、ここに居ます。夏休みの宿題をしています。
何かの間違いです』
という母親のセリフに面喰らってしまった。
そして、電話口に替わって出て来た兄の方が独りで実の弟を迎えに来たのだった。
ーーーというのが、道兼くんの語ってくれた『黒田玲苑のエピソード』だ。
そのエピソードを、何かの会話の折に聞いていたヒカルくんは、噂レベルでなく一卵性双生児だと知っていたのだ。
接客サービスの職業柄、守秘義務事項として被害者の河隅美咲にしか告げていなかったのだ。
入院中に見舞いの折には『噂レベルの疑惑』としか、簡潔にしか伝えなかったのは、自分で確認したわけではないからだ。
今日の午後に三者共集結した訪問時で、ハッキリと道兼君も『本当です』と認めた。
世間は広いようで狭い。
同じく法学部出身つながりでは、職業や血筋や立場が違っていても、どこかで繋がってしまうのかもしれない。
弁護士上がりの私立探偵のオレ。法学部卒で唯一新卒で採用になった道兼くん。その祖父に当たる警視正。独学で司法試験突破した、検察官の麻衣子。
ひょっとして元高等裁判所所長の政之叔父も、鹿児島県警や長崎県警に繋がりが在るかもしれない。。。
ーーー to be continued.