連作ミステリ長編☆第3話「絆の言い訳」Vol.2-① | ☆えすぎ・あみ~ごのつづりもの☆

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~私立探偵コジマ&検察官マイコのシリーズ~

 

Vol.2-①

 

「お客さん、お客さん!?もう終演しましたよ?」

 

 青いスタッフジャンパーを着たイベンターの警備員が、アリーナ席ひな壇の客席の、1人に声をかける。

 

 カクンと、頸をうなだれたまま、その客は微動だにしない。

 真っ白な、ボア襟付ツィ―ドコートをまとったその女性客は、サイドの髪と前髪が垂れ落ちて、顔を覆っていて表情は視えない。

 

「まいったなぁ。眠っちまってる?

独りで来たかな。。。」

 

 イベンター・バイトの警備スタッフは、同じ青いスタッフジャンパーを着た、同じように若い仲間を振り返る。

「おい。まだ残ってんだよ、もう閉館するのに。

来てよ、ちょっとビックリマーク

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きな声で仲間を呼んでも、全然動かず上半身は前にうなだれたままの、20代くらいの女性。

 右片耳ピアスが、長い目の極細チェーンで、揺れている。

 

 バイト警備員の報告で呼び出された、年配のスーツ姿のイベンター担当者は、その星型チャームのアメリカンタイプ・ピアスを見て、思わず呟いた。

 

「ポラリスか。。。顔上げたらチェ・ジゥだったりして」

 

 担当アーティストがLIVE進行真っ最中は、ホール扉外のロビーや喫煙エリアで見かける、現場のイベンター側では1番エラい人らしい。

 後ろに控えた若いスタッフは、そんな昔の韓流ドラマキャラなんか知らない。BTSやKARA止まりだろうか。

 

 

 

 軽く優しく、右肩をトントンと指先で叩き、起こそうとする。

その時足元のひな壇の床を見た瞬間、ハッとした。

 

 真っ白なショート・コートの下から、真っ赤な鮮血がしたたり落ちている。血液の雫が、前列のシート席の脚元に溜まり始めていた。

 

「うわっビックリマークちょっと女子スタッフ呼んで来て!?

誰でもいい。ベテランのやつ」

 年の功で、ひょっとしてな、判断。

「妊娠してたかもしんない。。。

ちょっと、警察、、、イヤ119番の方だ」

 

 

 青いジャンパーのスタッフの一人が、119番通報のスマホを耳に当てている間、男性スタッフには背を向けさせて取り囲んでもらう。

 呼ばれたアラフォーくらいの女子スタッフのベテランが、気を失っている様子の女性の、コートの下の衣服を確かめる。

 

 

 

 むしろ、外傷だった。

 ショート丈コートの下はかなり薄着で、直接衣服に外傷の跡は無かった。

 ノースリーブのアンゴラセーターには多少の血痕は付いているが、殺傷キズは生地にはない。

 けれどアイス・ブルーのそのセーターの裾から、ツイード・スカートやショート・ブーツにまで、血液がこぼれていた。

 分厚い80デニール以上の黒いタイツには、固まってどす黒くなった、血液の跡。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいビックリマーク救急車来る前に、外のファンの固まり、追い返すんだビックリマーク

いいな!?関係者以外、敷地内に残すな。

招待客もだ。みんな帰せ。すぐやるんだ、行けビックリマーク

 

 スーツ姿の年配イベンターの指示で、青いスタッフジャンパーの面々はそれぞれに散って行った。

 ベテランらしき青ジャンパー・スタッフが細かく手分けの指示をして、外回りの青いロング・ダウンコートのスタッフにも伝令を頼み、部外者の締め出しを始める。

 面倒な事態を少しでも軽減するためだ。

 

 

 

 ベテランのアラフォー女子スタッフが、腕時計を確かめる。

「閉館まで、あと1時間もないです。

トビの舞台こわす人達以外は、ホール内から出てってもらってください。アーティスト側には伝えますか❔」

 女性スタッフの問いに、スーツ姿のイベンター側担当者はしばし、考え込み沈黙した。

 

 

「、、、報告はしておかなくっちゃ、な。

身元が分かっても、事務所側とは関係ないだろ。

現場じゃなくって、〈統括〉の佐々木さんに報告するよ。

今日、来てるし」

 

「わかりました。私はここに残ります。

お願いします、そっち」

「分かった。救急車来たら連絡しろ。

オイ田中。おまえ外で救急車の到着を見張ってろ。

ここまで誘導するんだぞ?

 ブタカンさんは?警察にすぐ伝えるかは、相談するよ」

「はい。とりあえず、楽屋の佐々木さんにビックリマーク

 

 大きく縦に頷いたスーツ姿のイベンター担当者は、足早に楽屋に向かった。

 入れ違いで、異変に気付いた舞台監督が、潰されかけているステージの方から、アリーナ席後方に向かって歩いて来る。

 

 

 

 

「、、、ふたり、、、できる。

知らせに。。。」

 

 不意に、負傷者の白いコートの女性が訴えた。

 

 

 

 

ーーー to be continued.