~私立探偵コジマ&検察官マイコのシリーズ~
Vol.2-②
「、、、ふたり、、、できる。知らせに。。。」
息絶え絶えにしゃべるので、何の事かは分からない。
分からないなりに、ベテランスタッフの女性が、かすかに意識を取り戻した白いコートの女性を励ます。
「大丈夫。気を失っただけね❔友達は❔独り❔」
言葉にならないが、縦に弱々しく頷いた。
「今、救急車来るから。大丈夫。
しゃべらなくて良い。助かるよ❔」
一生懸命に声かける女性スタッフの元へ、側近の若いマネージャーと、ベテランイベンターのスーツ姿と、それより少し若い30代くらいの〈統括〉マネージャーが近づいて来た。
「どうだ?息はあるか?」
「大丈夫です。さっき、うわ言みたいに何か言ってました。よくわからないけど。伝えたかったみたい」
「どこか刺されてるの?」
女性スタッフは首を横に振る。
「わからないけど、上半身みたいです」
「刃物?」
また女性スタッフが首を横にかぶりを振る。
統括マネージャーである男性が、告げる。
「警察に依頼しよう。下手な推測するより正確だ」
「それにしても、あいつ、ひでえ態度だな。
ファンが酷いケガ負ってんのに『ライヴが済んでから見つけられて、好かった』だって。
LIVE中に刺されても分かんないくらい、キャーキャーワーワーなのに、な」
チラッとキツイ視線でイベンター担当者を睨み、感情を抑えてから統括マネージャーが、応える。
「すまんあいつは、ああいう奴なんだ。
色々あってちょっとひねくれてしまった。悪いな。
これからも担当で居てくれよ❔」
「わかってるよ。
佐々木さんに免じて、うちのイベンター処理にするよ。
ただし、あいつ。黒田玲苑を早く館内から追い出してくれよ。
楽屋で呑み始めたぞ?以前はもっとこっちを慮ってくれてたよ。
なあ」
「わかってる。
TVに出なくなってから、素行が本来のあいつらしくなったのかもだ。許してくれ。
好感度高い男を演じてなくて済む分だけ、少し楽に成るかと思ったが、反動で荒れ出したんだ。
それでも興行収入は増えてるんだから、ちょっと眼をつぶってやってくれよ」
「ごめん。佐々木さん。悪かった。
TVや動画だけで済ませてたファンが、ライヴにも来るようになったんだ。ありがたい事だ。
すまない。黒田は、昔はあんな奴じゃなかったって、言いたかっただけだ」
頷いてから、佐々木はイベンター担当者の肩を、軽くポンと叩いた。
「、、、ふたりで。。。」
女性スタッフの腕の中で、もう一度白いコートの女性がうわ言をこぼした。本当に意識があるのを確認する。
イベンターと統括マネージャーは、ぐったりして眼をつぶっているが、メイクの崩れた目尻と眼頭に、涙が溜まっているのを見届けている。
警視庁から、捜査一課と初動捜査班が到着した。
閉館して後、トランスポット車の大型トラックが2台、次の街へ向かって発車した。
現場も、人の出入りが封鎖された。もちろんまだ現場検証完了するまで、明日以降しばらく、このホールは使えない。
警視庁捜査一課の谷警部は、一旦、お堀の外側の霞が関方面へと移動した。振り返り、〈日本武道館〉を遠くから眺める。
『大きなタマネギ』とは、よくぞ言ったもんだ。そのまんま。
この武道館。初めて音楽で使ったのはビートルズらしいが、こんな事件が客席で起こったなんて、初めてだ。
谷警部は、千鳥ヶ淵まで再び近づいた。伝統ある武道と音楽のホール外観を近くからも見つめながら、スマホで連絡する。
「ぁ、イヤ1つ気になってな。
アーティスト側やイベンターには黙ってろよ❔
被害者女性のショルダーバッグの内ポケットから、招待状の封筒が出て来たんだ。
ああいうのは、仕事関係にも配るもんなのか❔
身内でなくても〈INVITATION〉の封筒を受け取るのかい❔
誰かにプレゼントでもらったか❔」
谷警部が、レスポンスに対してニヤリと口角を上げた。
「そうかい。音楽関係者には黙ってろよ
向こうから言って来るまで、な」
ーーー to be continued.