連作ミステリ長編☆第3話「絆の言い訳」Vol.1₋⑤ | ☆えすぎ・あみ~ごのつづりもの☆

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~私立探偵コジマ&検察官マイコのシリーズ~

 

Vol.1₋⑤

 今夜も黒田玲苑から、河隅美咲のスマホにメールが届いていた。

 

 現在は、ほぼ五条通り沿いのホテルに宿泊先が変更されているが、最初の邂逅は美咲が常勤で働いてるホテルのスーペリアルROOMの常連だった。

 

 地下1階の和食会席バーで夕方からはウェイトレスをしている頃、ベルガールとしてROOMサービスを運び、配膳したのが初対面だった。

 接客の仕事柄、美咲は愛想が好いし、黒田玲苑だけがベルガールを呼び出す顧客ではない。

 

 仕事が上手く運ばなかったのか、不機嫌をもろにぶつける客だった。

 美咲は、TVで見かける優し気な笑顔や高いKeyの甘い声とは、全然イメージが違うと感じたが、そこは「フォローしてナンボ」のサービスウーマンである。和やかな会話を心がけながらも、近づきすぎずプライヴェートには立ち入らない触らない。

 

 

 

https://itamae.co.jp/menu/img/takebako_01.jpg

 

 

 

 

『海鮮ちらし寿司の差しチョコが無いビックリマーク

と、再度同じベルガールとして美咲は呼び出され、低姿勢ながらもなだめる声色で、ゆっくりと説明した。

 

『関東のご出身なのですね❓大変申し訳ないです』

 美咲は深々と頭を下げて謝罪し、続ける。

『魚介の1枚1枚さしみ醤油につけて、しゃりノシに乗せて召しあがられますか❓』

『あ、いや。九州出身なんだけどね。

そっか。京料理ではどうやって食べるんだ❔』

『はい。この、ワサビと薬味の深い目の小皿に、直接さしみ醤油を入れて、溶いて混ぜてから寿司飯に万遍なくかけるのです。

 そうすると、差しチョコは無くてもよいし、無駄なく1度かけるだけでお好みの濃さで、合理的なのです』

 

『なるほど🎵ありがとうビックリマーク

京料理って、手の込んだ事するイメージあるけど、意外と時短するんだ❔へぇ~』

『そうなんですね。ぁ、でも作り手側の板前さんは手間暇かけて素材の良さを活かした調理を心がけてます。ただ、お客様には、出来るだけお手数をお掛けしない姿勢だと、調理の者が申しておりました』

『なるほど。すごい。さすがプロの心掛けは違うんだね!?

 

 

 意外に素直に感激する人なんや。。。

 美咲の方でも無理なく自然に笑顔がこぼれた。

 

『京都は昔から、職人さんの街だからだそうです。

 朝から晩までモノ造りに没頭してると、どうしても食事は時短しなくてはならないので、合理的な食べ方や、意外にイマドキの京都人も朝からパン食やサンドウィッチとかが多くって。

 夕食も魚屋さんで調理してある出来合いのモノや〈おばんざい〉を店先で買って来て、すぐ食べられる方法を取るんだそうです。専門家の作った美味しいものを手間かけず食べる習慣から来てるそうですよ』

『へえ~。それならお公家さんも大満足だね』

『ですねぇ。専門家の作ったモノを手早く用意できるんですから、ねぇ』

『良いこと聞いた。ありがと。それって、板前さんの彼氏の受け売り❔」

『あ、いえいえ。厨房の人からですけど、彼氏じゃないです』

 

 笑ってごまかしたが、上機嫌な笑顔に戻ってくれたので、なんとか大事には成らずに済んだ。

 あんまり長居も出来ないのに、被せるように質問攻めされた事は、美咲も少々引いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 最初はそんな感じで和やかな会話で、印象も悪くはなかった。

 だが、次回の宿泊でも、ルーム・サービスの度にベルボーイ、ベルガールを名札で覚え、指名して呼び出すようになった。

 

 たしかに、旅館や料亭ではよくある。ホテルの和食店舗でも受ける会社も存在する。

 だが、ことわりにくいが、美咲の所属する会社では善しとしない。理由はあるが、京都人の気質上の距離感でもある。

 

 他の従業員に訊く事は出来なかったが、スマホの番号だけは伝えるわけに行かない。

 予約のメールは会社のパソコンだが、ハッキリ名指しで河隅美咲あてに出勤している日に頼むようになったのには、困惑した。

 

 

 

 寂しがり屋なのか、誰かとくつろいだ話したいだけなのか、なんとなく人気商売の人の孤独を理解出来たが、とにかく、プライヴェートに付き合う彼氏でもない限り、これ以上は仕事柄近づく事はできない。

 一応店舗のサービスチーフとして、伝えておかなければ。。。

 

 

 と、姿勢を変えたくない言動は、最初のうちになし崩しに実行出来なくなって行った。

 付き合っているわけではない。

 黒田玲苑も、まともに勤め人のように週末ごとにデイトというのは、できない。

 美咲も、今はスノーボーダーとしての自分の妨げになる関係は続けられない。

 

 

 

 何より、黒田玲苑が思っているほど、美咲の方で惹かれていなかった。

 彼の歌やLIVEは、癒しや励ましにはなっている。だけど、学生時代の恋人みたいな関係は望んでいない。恋心が沸いたにせよ、それを育てようともしていない。

 恋や愛より楽しいことがあり、まだまだ選手も辞める気が無い美咲は、あいまいな繋がりのまま、先へ進む促しを黒田のスタッフから感じていても、乗り気には成れなかった。

 

 

 そのあいまいさが、後々に本当に向かい合う相手と出逢ってから、妨げや疑惑になって行くとは、まだこの時点では美咲も予兆さえ感じ取っていなかった。

 

 

 

 

 

ーーー to be continued.