音色をブレスから導く〜次の音色の準備としての息継ぎとは | 音楽家のためのアレクサンダー・テクニークレッスン〜フルート奏者嶋村順子

音楽家のためのアレクサンダー・テクニークレッスン〜フルート奏者嶋村順子

♪アレクサンダー・テクニークを演奏に生かすレッスン♪
~ココロを自由に、カラダも自由に、自分らしく生き、演奏する~
アレクサンダー・テクニーク教師&フルート奏者の嶋村順子です。
演奏者の心理的・身体的問題を解決する方法を探求しています。

「息の吸い方」と「音色の操作」の関係

 

前回に続いてブレスの話題です。

次に演奏するフレーズがどんな音域で、それをどんな音色、音量、音質で演奏するかをイメージした時、
その音色を選んで出すためにはブレスの時点から意識して操作していることもある、というお話です。

演奏のブレスには「息継ぎ」だけでなく、「次の音色のための準備」の役目があると考えています。

私自身はフルート奏者なのでかなり明確にこの関係を意識しながら演奏するのですが、

管楽器奏者や歌の方たちに聞くと、意識的にやっている方と無意識にやっている方といらっしゃいました。

無意識だった方も「こうやっていますか?」と伺うと、「あ、やってますね」とおっしゃいますので、
やはり多くの演奏者は意図的に息の吸い方から音色を導き出していると思います。

 

肋骨に囲まれて、底辺には横隔膜がある部分が胸郭です。
この胸郭の中にある肺に息が入ります。

肋骨をあちこち触ってみると結構上下の幅があり、意外に縦に長いなと思います。


演奏に必要な息を、胸郭のどの辺りに集めるかで、音色や響きが変わります。

なので、次のフレーズで出したい音色、音域によって「息を集める場所」を変えています。
 

例 A :  高めの音域、p からスタートする繊細で美しいフレーズ

例 B:低めの音域、f からスタートする力強く豊かなフレーズ

このAとB、2種類のフレーズをそれぞれ演奏することをイメージした時、あなたはどんなブレスをしますか。
2つは同じブレスでしょうか?違いますか?
 

おそらくAは、美しい旋律を演奏できるように一定のスピードに制御して息を吐くことを想定し、
胸の少し高いところに息を集めるように吸うでしょう。
またBでは、速やかに多めの息を流して豊かな音量で演奏するために、
胸の下の方(お腹の方)に息を集めるように吸うのではないでしょうか。

このように、次にイメージする音色により、息の吸い方も変えていると思います。
息を吐くときに「お腹を使う」と意識しすぎて毎回同じところを使ってしまうと、

このような呼吸のアレンジによる音色の変化はつけにくいかもしれません。

 

さらに1フレーズの中で音域や音量などが変化していく場合ではどうでしょうか。
 

例 C : 高音域の pでスタートした繊細なメロディーからクレッシェンドして中低音域の fに向かうフレーズ

→ Aと同じように胸郭上部に息を集めたところから始めますが、クレッシェンドするにしたがって下に下げていく。


例 D : 中低音域の f(フォルテ)で豊かに歌い出したメロディーから静かな高音域へディミヌエンドするフレーズ
→ Bと同じく胸よりもお腹に近いところに息を集めてスタートし、高音域のpのために胸郭上部へと息を移していく。

こちらは、AやBのブレスでスタートした後、息を貯めている場所を途中から動かすようなイメージです。
なかなか言葉で説明するのは難しいですね。
実際に胴体や息の動きと音色の違いの関係を見ていただけると良いのですが。。。

横隔膜の位置も関係していると思います。
横隔膜のある高さを上げ下げするために肋骨がどう動くか、なども関わっている
のだと思いますが、

あくまでも身体の感覚を言葉にしているので、解剖学的に正しい言い方かどうかはわかりません。
この言語化は、私の今後の探究課題です。

 

でも私たち演奏者は、胸郭内にある肺のどこに息を集めると「出したい音質」になるのかを経験で獲得しています。

高音域の繊細な表現には、倍音の少なめな澄んだ音質になる胸郭上部へ持ち上げるように。

低音域の太い豊かな表現には、倍音が多めな音質になるお腹の方に下げるように。

他にも、欲しい音色のためには上記の動きを様々にミックスすることもあります。


前回の記事にも書きましたが、
次にどんなフレーズをどのように演奏するのか、その「演奏の意図」があることでブレスも変わります。
吸った息をどこに置いておくかにより、「共鳴」「倍音」の違いが生まれると思います。

もちろん、表現したい音質・音色・音量は目まぐるしく変化しますから、
胸郭の動きだけで全てを操作しているわけではありません。
でも、出したい音色のために呼吸の動きを明らかに使い分けていると思います。
また、刻々と変化する表現のためには、息の吐き方や共鳴域をどんどん変化させていきたいので、
喉元や胸やお腹を含めた胴体ぜんぶが柔軟に動けることが必要です。

 

ですから、演奏時のブレス、特に音楽表現に自分の意図を持って演奏する場合のブレスは、
いわゆる胸式と呼ばれる胸郭上部中心の吸気と、
いわゆる複式と言われる腹部が膨らむような吸気とを ”分け隔てて考えるのではなく”
”どちらも柔軟に行き来ができる” ことや  ”必要な動きをブレンドして使える” 方が便利だなと考えています。

 

倍音と音質の関係はとても興味深く、楽器演奏や声楽にとっては重要なポイントです。

共鳴域について調べると「頭蓋共鳴」「口腔共鳴」「咽頭共鳴」「胸郭共鳴」「体腔共鳴」などたくさんあるそうですが、
これについては音響学やヴォイストレーニングなど詳しい方もいらっしゃると思います。

胸郭の使い方によって倍音が変わったり、共鳴域が移動したりすることについては、
私自身も演奏の探究の中でいつも注目しますし、レッスンで生徒さんたちと話し合ったり実験したりしています。
今後も言語化に取り組んでいきたいと思います。

豊かな表現のために音色を選びたい。その時、ブレスを、身体をどう使うのか。
呼吸のパターンを一つに絞ることなく、演奏に合わせて柔軟に変えていく。
こんな視点からブレスを捉えることも探究してみてはいかがでしょうか。

 

 

音楽は川の流れのように変化していきます。

私たちの息づかいも流れるように変化させたいものです。

(6月上旬の上高地)
 

 

*・*・*・*・*・*・*・*・*・*
嶋村順子
e-mail:junko.at.lesson@gmail.com

SelfQuestLab HP : https://self-quest-lab.com/

嶋村順子HP:http://junkoshimamura.wix.com/alexander
Facebook:https://www.facebook.com/junko.shimamura1
Twitter:https://twitter.com/espressivo1214
*・*・*・*・*・*・*・*・*・*