「背中がこって痛い」~楽器の構え方にひそむクセ(腕) | 音楽家のためのアレクサンダー・テクニークレッスン〜フルート奏者嶋村順子

音楽家のためのアレクサンダー・テクニークレッスン〜フルート奏者嶋村順子

♪アレクサンダー・テクニークを演奏に生かすレッスン♪
~ココロを自由に、カラダも自由に、自分らしく生き、演奏する~
アレクサンダー・テクニーク教師&フルート奏者の嶋村順子です。
演奏者の心理的・身体的問題を解決する方法を探求しています。

これからご紹介するのは、私自身がアレクサンダー・テクニークのレッスンを受ける中で
明らかになったクセのお話です。

今回はフルートを構える時にやっていた「腕」の動きについて。
不必要な動きだとは知らずに○十年。
これをやめたらどんなに楽になったかを文章だけでどこまでお伝えできるかわかりませんが
もしどなたかのお役にたてたらいいな、と書いてみました。


ところで、アレクサンダー・テクニーク(AT)のレッスンでは、
まず教師が生徒にこう聞きます。
「今日はどんなことがやりたいですか?」
「何か気になっていることがありますか?」

ワクワクドキドキで私はこう言います。「フルートを吹きたいです。」
そして、その日に教わりたいなぁと思っていること、例えば
「高音を楽に吹きたいです」
「ブレスを効率的にやりたいです」
「指をより軽く動かしたいです」など、
呼吸・音色・姿勢などの基本的なことや、
曲の中でよくミスをしてしまう苦手な個所のやり方の改善などを相談します。

ところが、ATのレッスンを受け始めてからしばらく、
この教わりたいと思っていた内容に到達することはほとんどありませんでした。(泣)
私がフルートを構えようと動き出したその数秒間だけで、
「はい、ちょっと待ってくださいね」とたいていストップがかかるのです。

どういうことかと言うと、その数秒間の中に、
フルートを吹くためには実際には必要がなく
またフルートを自由に演奏することを阻害するような動き、
しかもそれを私自身が全く自覚していない「習慣的な動き」
が色々と含まれていたのです。


私が通うBODY CHANCEには複数のAT教師がいらっしゃいます。
さらに毎年海外から訪れる世界一流の教師のレッスンも受けることができます。
学び始めた最初の1~2年間、
どの先生も私が吹き始める数秒間の中に存在する問題点を「見た」のです。
始めたばかりの時は、すべての先生に、
一音も出していないこのタイミングでいったん止められてしまいました。(泣泣)

それは、楽器を持ち上げる時の私の腕の使い方の習慣でした。

アドバイスを聞きながら注意深く観察すると、
ようやく自分でもこのクセを認識できました。

私が楽器を持ち上げる時に最初に動きだした部分は「二の腕」、
つまり肩のあたりを含めた上腕部です。
上腕を先に持ち上げてしまうと、その部分の筋肉が収縮することによって
腕すべての可動性が本来の動きよりも少なく制限されてしまうのです。
その結果、肩や肘や手首の関節が軽く固まったり、腕の筋肉の伸縮を制限する状態になり、
腕全体の可動性が本来より低下して動かしづらくなってしまうのです。
この動きの習慣の原因ははっきりとはわかりませんが、
もしかしたら習ってきた先生のフォームに似ていたかもしれません。
それと、10歳からフルートを持ったので、
その時の身体のサイズと楽器とのバランスがうまく取れず、
頑張って持ち上げていたのが習慣として残っていたのかもしれません。

フルートの構え方は人それぞれです。
かなり独特な構えの方もいらっしゃいますが、それ自体が問題なのではありません。
その人がその人の身体の構造に沿って、
最も動きやすい身体の使い方が出来ていない時に問題になるのです。
複数のAT教師全てに問題を指摘された私の構え方は、
やはり改善する方が良いということになります。

では、具体的にどのように改善していったかをご紹介します。

はい、ここで最初に登場するのは毎度おなじみの

「頭と首が楽に自由に動けて、身体全体がついていって~」と、
人間が最も効率的に動ける状態になるようにプライマリー・コントロールを意図することです。

(プライマリー・コントロールに関してはこちら→
http://ameblo.jp/espressivo1214/entry-11256115099.html
http://ameblo.jp/espressivo1214/entry-11260444400.html )

それから、「楽器に自分の顔を近づけるのではなく、
楽器の歌口の方が自分の顔に近づいてくるように運ぼう」と思います。
「フルートが私のところにやってくる」感じです。

そしてここから先が私にとって重要なこと。
楽器を持ち上げる時には、
まず最初に肘だけを曲げて、肘から下だけを上方向に持ち上げます。
とてもゆっくりやってみます。
ここで急ぐといつものやり方をやってしまうからです。

上腕が真っ先に仕事をしたがるクセがある
のですが、
ゆっくり時間を取ってそれをやめさせます。

「頭と首はずっと楽かな、頭が本来の高さにあるかな」と気にしながら、
上腕部はお休みいただきながら肘を曲げます。
だいぶ口元に近づきましたが、まだ歌口は唇に届きません。

次に肘より上の腕も上げ始めます。
この時に「腕は鎖骨から動ける」「肋骨はいつも自由に」
と改めてマッピングします。

そして肩甲骨を後ろに引き寄せそうになるという別のクセをやめるために
「腕の動きに肩甲骨もついてくる」「腕は身体の前面で仕事をするもの」
という情報も意識します。

自分の唇に近づいていく楽器につられて
腕全体(腕の骨、鎖骨、肩甲骨ぜんぶ)がそれをサポートするような運び方をします。

さて、どんな感じがしたかと言いますと、

「…いつもと違うから何だかヘン」

特に、肩と背中の感覚はこれまでとはかなり違います。
変だから悪いということではなく、慣れていないから混乱しているのです。

そして「変だけど、この方がずっと楽だ」
ということに気づくのに時間はかかりませんでした。

何が起きていたのかを説明します。

それまで私がやっていた楽器の構え方では腕全体の可動性が制限されていました。
二の腕が先に動くことで腕全体が少し固められてしまったので、
柔軟に腕全体を使ってフルートの重さを分担することができません。
しかも、使わなくてもよい二の腕を先に持ち上げたことで、
二の腕自体の重さを余分に加えて持ち上げることになりました。
その負担は肩あたりで引っ張り上げるような動きになり、
肩甲骨を背中の中心側に引き寄せることでそれをカバーし、負担を広げていったのです。

たいした違いではないように思えますが、
筋肉の仕事を必要最小限にしてやってみた後では、その違いはとても大きく感じました。

若き演奏者だった頃、慢性的に肩甲骨の内側の筋(すじ)に「こり」があり、
触ると石のようにコチコチでした。
時にはギックリ腰が背中でおきたかのようにビキッと痛めることをくり返し
(名付けて「背中ギックリ」(笑))
当時は針灸治療によく通っておりました。
すべて、このフルートの持ち上げ方が原因だったと今では理解しています。

ATのレッスン以降、私はフルートを構えるたび、
その数百回というチャンスを使って練習しました。

ATによってまず身体全体の状態を良くし、マッピングで腕の可動性を認識する。
そして「肘より下から順番に曲げていく」という新しいプランを意識して繰り返すことで、
楽器を構える時の新しい習慣を作っていきました。


そのせいか、ATのレッスンでやっと音の相談もさせてもらえるようになりました。(苦笑)

その次に先生たちが「見た」のは、私の股関節についてです。
次回の、<楽器の構え方にひそむクセ>で書きたいと思います。


もうひとつ、お話があります。
この上腕からものを持ち上げるクセ、
後で気づいたのですが私の日常生活のあらゆる場面に浸透していました。

カバンなどの荷物を持つ時、読書の本を持ち上げる時、目線より高いものを取る時、
飲み物を口に持ってくる時、お箸やお茶碗を持つ時さえも、あれもこれも全部!
上腕から動いて必要以上に肩を上げ、肩甲骨を背中に引っ張り寄せていたのです!!

いったいいつからこうだったのか、自分では全く覚えていません。
背中のコリは、生活すべてでやっている動きからのメッセージだったのです。
フルートの構え方から気づいたクセですが、
日常生活でも気にかけて新しい習慣作りをしたおかげで、現在はほぼ問題がなくなりました。

最近会った大学時代の友人にこの話をして
「アタシ、こういうふうに楽器構えたり、コップ持ったりしてたの」とやってみせると、
「あ~!じゅんこ、そういう人だった!!」と言われました。(笑)
はい、そういう人でした。でも今はちがう人だもんね。

次回は、この腕のお話を簡単な解剖学を使って説明します。