社会の第一線で活躍する人が、「学生時代、○○を勉強しておけばよかったと思う」とこぼされることは少なくありません。法律の世界でも、新司法試験の試験科目以外の法律(企業法務では、金融商品取引法や保険法)や、法律分野以外の知識が重要(外国語、会計、経済学など)になるので、法曹実務家の方の中にも、そういうことをこぼす人は少なくありません。
 
しかし・・・。
 
仮に昔に、それらも勉強していたら、どうなっていたのか?
 
というのは、「学生時代、もっと○○を勉強しておけばよかった」と言う人は、たいてい学生時代に、別のこと(就活や国家試験の勉強)にきちんとエネルギーを割いた上で結果(例えば、司法試験合格とか、有名企業への就職とか)を出して、今があるからです。
 
例えば、企業法務分野の新人弁護士さんが、「会計とか、金融商品取引法とか勉強しておけば」と後悔することがあるとします。しかし、法科大学院時代に、それこそ企業買収の問題を、会社法に留まらず、金融商品取引法、官公庁や証券取引所が示すガイドラインの類まで手を広げ、果ては会計や税金などの法律以外の問題などまで、本格的に勉強していたらどうでしょうか。もちろん、それはそれで一つの成果にはなったかもしれません。しかしその反面、他の法律科目、特に新司法試験の科目の勉強が手薄になったりして、その方は、そもそも司法試験に合格できず、弁護士になれなかったのかもしれません。すなわち、この弁護士さんは、「金融商品取引法とかは勉強せずに、その時間を司法試験の勉強に集中していたから、司法試験合格し、弁護士になれた」とも言えるわけです。
 
いくら合格率が、旧司法試験に比べて高くなったとはいえ、新司法試験の合格者の合格体験記を読むと、ほぼ全ての合格者が新司法試験合格のため、100パーセントに近い力を、合格のための勉強に力を入れているように思います。(法科大学院生以外が、新司法試験科目以外のことに関心を持たないことは問題として)外野で非難する人も少なくないのですが、決して高くない合格率、法科大学院生の不合格後の進路は必ずしも広くないことからすれば、やむを得ないと言うべきでしょう。
 
もちろん、あれもこれも手を広げて、何でもマスターできる人は、極めて少数ながらいます。例えば、法律も、経済も、数学も、外国語も何でも出来る人。確かにいます。しかし、それはやはり少数なんだと思います。
 
はっきり言えば、勉強して意味のない分野はないんだと思います。例えば、法律とは全く関係ない本を読みあさることだって、法律家になるために意味のないこととは言えません。でも、それが「新司法試験合格という観点から見ると」、「就職活動で勝ち抜く観点から見ると」という前提をつけると、やっぱり意味のある勉強、意味のない勉強というのは出てきてしまうのが現実だと思います。
 
確かに、「あのとき勉強していれば」もっと別の世界が待っていたのかも知れません。しかし他方で、「あのとき勉強しなかったから今がある」とも言えるような気がしています。
 
身近なところでいえば、司法研修所への入所を目指すために、司法試験の合格を目指す人は、やはり司法試験合格のために全ての力を注ぐべきだろうと思います。周囲から、「あいつ、脇目もふらずに受験勉強をしているよ」と言われるぐらいがちょうどいいのだと思います。例え、合格後、就職後に、「あのとき、○○も勉強していれば」と思うことはあるかもしれませんが、「○○」を勉強した結果、逆に司法試験に不合格になっては、それこそ何にもなくなってしまうので。
 
昔であれば、「色んなことを勉強して、まわりみちするのも悪くない」と言えるかも知れません。しかし今は、大競争時代、格差社会です。「勝ち組」と、「負け組」にはっきり分かれる社会です。「勝ち組」は恵まれ、「負け組」には決して恵まれたとは言えない生活が待っています。しかも、「勝ち組」は勝ち続けるために、自己に有利なルールを設定することができます(競争社会のルールをつくり、評価するのは、「勝ち組」です)ので、「負け組」が、「勝ち組」ことは、簡単なことではありません。そのような社会では、目先の勝負に「勝つ」という目標達成のために、取り急ぎ意味のない勉強を切り捨てるのは、合理的なんだと思ったりもします。

法曹の養成に関するフォーラム第7回会議(平成24年1月27日開催)
http://www.moj.go.jp/housei/shihouhousei/housei01_00083.html

新司法試験と予備試験の結果について

http://www.moj.go.jp/content/000084045.pdf


既に公表されている資料をまとめたり、別の角度から分析したものですが、

各法科大学院のこれまでの司法試験合格者数、合格率がよく分かります。


司法試験はあくまで個人戦なので、法科大学院別の成績は関係ないとは言えば関係ありません。

極論すれば、どの法科大学院でも、司法試験に受かる人は受かり、落ちる人は落ちるのです。


しかし、不思議なもので、それでも法科大学院別の合格者数、合格率は年によって乱高下しているわけではありません。


『〈判例から学ぶ〉民事事実認定』(有斐閣、2006年)

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/4641113920


〈判例から学ぶ〉民事事実認定 (ジュリスト増刊)/伊藤 真
¥3,150
Amazon.co.jp



(現物の)目次を見ていただくと分かりますが、多くは裁判官、特に司法研修所教官や経験者の裁判官も目立ちます。研究者の先生も書かれていますが、有名な民法、民事訴訟法の研究者の先生ばかりです。


全て読んだわけではないのですが、いくつかの項目について読んでみたら、勉強になった記憶があります。法科大学院生や司法試験受験生の必読文献というわけではありませんが、この本の存在を知っていることは、何かの役に立つと思います。



この記事。


浦安液状化:住民27戸が提訴 三井不動産に7億円請求(毎日jp)

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20120202k0000e040158000c.html

 

本件の住宅売買が特定物売買とした上で、瑕疵担保責任(民法570条)に基づく損害賠償請求という訴訟物が第一に考えられます。
 
そこで法的に問題になる点としては、第1に、民法570条にいう「隠れた瑕疵」にあたるか、という問題です。さらにこの要件は、「隠れた」と「瑕疵」の2つの要件に分解することができます(「隠れた瑕疵」という要件を一元的に把握する学説もありますが、ここではおいておきます)。
 
まず「瑕疵」要件ですが、瑕疵担保責任の法的性質の如何を問わず、個々の契約の趣旨に照らして目的物が有すべき品質・性質を欠いていること、という主観的瑕疵と解するのが通説です(潮見佳男『債権各論Ⅰ契約法・事務管理・不当利得 第2版』(新世社、2009年)82頁参照)。したがって、本件の売買契約において、一定規模以上の地震が発生しても、液状化による被害が発生しない品質を備えている必要があったかが問題になると思います。三井不動産側としては、東日本大震災規模クラスの大地震が発生しても、液状化による被害が発生しない品質を備えているということは、本件の目的物が有すべき品質・性質にはあたらない、と主張する可能性があります。
 
次に、「隠れた」の要件ですが、判例・通説によると、買主の瑕疵についての善意・無過失を示すとされています(ただし、判例は「不表見の瑕疵」という枠組みを採用しているとして、学説とニュアンスが若干異なるという指摘もあります。潮見佳男『債権各論Ⅰ契約法・事務管理・不当利得 第2版』(新世社、2009年)84頁)。本件の買主に、液状化の危険がある土地であることを知っていた者は、おそらくいなかったと思いますし、また、購入したのは業者ではなく、消費者ですから、液状化の危険がある土地であるかを調査する義務があったとも言えません。したがって、買主の善意・無過失についてはクリアできると思います。
 
第2は、期間制限の問題です。民法570条が準用する566条3項では、「買主が事実を知った時から1年」とあります。東日本大震災が発生した2011年3月11日から、本件提訴まで1年が経過していませんから、この問題はクリアできます(1年の期間制限についてどの学説に立とうとも、1年以内に訴えを提起すれば、この要件はクリアできます)。
 
しかし、記事では、「東日本大震災により、市内の約85%が液状化し、住宅約8500戸が傾くなどの被害を受けた千葉県浦安市で、80年代に分譲されたタウンハウスの住民が、損害賠償を求めて立ち上がった」とある点が気になります(アンダーライン等は、ESP)。というのは、次のような判例が存在するからです。
 
最判平成13年11月27日民集55巻6号1311頁
「買主の売主に対する瑕疵担保による損害賠償請求権は,売買契約に基づき法律上生ずる金銭支払請求権であって,これが民法167条1項にいう「債権」に当たることは明らかである。この損害賠償請求権については,買主が事実を知った日から1年という除斥期間の定めがあるが(同法570条,566条3項),これは法律関係の早期安定のために買主が権利を行使すべき期間を特に限定したものであるから,この除斥期間の定めがあることをもって,瑕疵担保による損害賠償請求権につき同法167条1項の適用が排除されると解することはできない。さらに,買主が売買の目的物の引渡しを受けた後であれば,遅くとも通常の消滅時効期間の満了までの間に瑕疵を発見して損害賠償請求権を行使することを買主に期待しても不合理でないと解されるのに対し,瑕疵担保による損害賠償請求権に消滅時効の規定の適用がないとすると,買主が瑕疵に気付かない限り,買主の権利が永久に存続することになるが,これは売主に過大な負担を課するものであって,適当といえない。
 したがって,瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があり,この消滅時効は,買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行すると解するのが相当である
 
長々と引用しましたが、要は瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権についても、民法167条1項の規定の適用があり、判例によれば、引渡しから10年の期間制限(時効)にかかる、ということです。
 
そうなると、本件訴え提起より、本件土地が10年前に引き渡されている場合は、損害賠償請求権が時効によって消滅している可能性もあります。
 
当然、原告代理人はこの判例の存在を知っていると思いますから、この判例が本件事案の射程外であるという主張をすると思われます。1つの考え方としては、次のようなものが考えられます。
 
「上記平成13年が引渡し時点を起算点としているのは、引渡し以後であれば、瑕疵を発見することができる、という点にある。しかし、本件のような液状化のリスクは、専門家ではない者にとって発見することは不可能に近く、また、発見する義務もないと言うべきであることから、引き渡されても発見できる瑕疵とはいえない。したがって、本件事案で引渡し時点を時効の起算点とするのは不当であり、平成13年の引渡時を起算点とする判例の射程は、本件事案に及ばない」
 
以上の論理が裁判所に認められるかはもちろん分かりません。

 
さらに賠償範囲の問題もあります。記事では、「地盤改良工事費や建物の取り壊し費、慰謝料などを支払うよう求めた」とあります。しかし、瑕疵担保責任についての法定責任説では信頼利益のみの賠償を原則とするので、地盤改良工事費や建物の取り壊し費が認められるのかは議論の余地がありそうです。
 
この問題に関して、法定責任説は信頼利益のみを原則(※)、契約責任説は履行利益を認める、と言われるわけですが、いざ具体的な問題となると、何が信頼利益で、何が履行利益かは判別しにくいところです。また我が国の民法典の条文を素直に読めば、信頼利益と履行利益の区別はしていないわけであり、両者の区別をそもそもすべきなのかが問われる必要があります(学説上は、両者の区別に懐疑的なものも見られます。私もこれを支持します)。もっと言えば、履行利益、信頼利益概念を操作してしまえば、何とでも言えるわけです。なお、瑕疵担保責任の損害賠償請求における損害賠償の範囲の論点は、第2回新司法試験民事系第2問で出題されています。
 
※法定責任説の代表格と言えば、我妻栄先生が思い浮かぶと思います。しかし、我妻先生の瑕疵担保責任のところの記述をみてみると、「買主に過失がある場合には-契約締結上の過失の責任に一歩を進め-履行利益の賠償責任を負うものと解すべきではあるまいか」(我妻栄『債権各論中巻一(民法講義Ⅴ2)』(岩波書店、1957年)272頁)と説明しています。
 
なお、以上の問題から分かるように、瑕疵担保責任についての法定責任説か契約責任説かという立場決定から一義的に決まるものではありません。法律学は自然科学ではないので、性質が決定されたからといって、内容が一義的に決めることはできません(極論すれば、説の内容を操作すれば、何とでも言えるわけです)。現に法定責任説にも色々なバリエーション、契約責任説にも色々なバリエーションがあるわけです。
 
以上は瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権が訴訟物としての法的問題について考えてきました。しかし、本件訴訟は別の訴訟物ということも考えられます。それは、民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求権です。
 
この場合は、過失責任ですから、709条の「過失」の有無が問われることになります。具体的には、被告である三井不動産が分譲当時に、巨大地震による液状化の危険を予見し、また予見できたか、その上で、対策する義務があったかが問題になることでしょう。
 
また、不法行為に基づく損害賠償請求権でも、不法行為の時から20年という除斥期間(除斥期間と性質決定するのが、判例・多数説)があります(民法724条後段)。ですので、分譲(売買)を不法行為とすると、除斥期間にかかってしまう可能性があります。したがってここでは、損害発生時が起算点である「不法行為の時」とした、じん肺訴訟の判例(最判平成16年4月27日民集58巻4号1032頁)が、本件にも妥当することを、原告側は主張しているものと思われます。
 
これに対しては、契約関係のある場合は、不法行為責任が認められないとの主張も考えられます。しかし、判例は請求権競合説なので、契約関係があることをもって不法行為責任が否定することは考えにくいです。
 
というわけで、色々と法的問題の多い訴訟であると感じる次第です。


追記、不法行為に基づく損害賠償請求権を訴訟物としていることは、明らかになりました。


液状化被害の住民、三井不動産を提訴 千葉・浦安(朝日新聞デジタル)

http://www.asahi.com/national/update/0202/TKY201202020134.html



足助太郎『線型代数学』
http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-062914-0.html
  
3月発売予定。
 
線形代数は色々な局面で重要なので、勉強したい今日この頃です。
 
リンク先の紹介には、「行列や複素数に関する知識がまったくない人でも読めるよう記述を工夫し,基礎的な内容を網羅する」とあり、期待したいところ。
 
数学を踏まえた、きちんとした経済学、財政学を勉強する必要があると感じる今日この頃ですが、数式を省いたあまりにも簡略な本は正確性に欠け、他方で、本格的な本になると、いきなり高度な数式が出てきて、読むのが大変です。
 
別に数学は嫌いじゃないですし、勉強(復習)することをいやがるものではないのですが、数学を完璧に身につけているわけではないし、また、忘れているところもあるので、数学の基礎を学習(復習)するところから書いてくれる本があって欲しいなと思うところです。ないものねだりか。


法律書ではありません。
しかし、民法でも刑法でも、「詐欺」、「虚偽」というのは、きってもきれないものです。
 
山本幸司『人はなぜ騙すのか―― 狡智の文化史 ――』
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/9/0245130.html
 
リンク先にもあるように、「嘘,偽り,詐欺,謀略」というのは、人が生きていく中で、誰しも遭遇するものです。世の中、本当に「嘘,偽り,詐欺,謀略」にあふれています。

人に騙されるより人を騙せ、ということを豪語する人も少なくありませんが、まあ、私はそういう哲学を持ちたくないものです。


もはや毎春の恒例行事です。3月改訂予定です。
それにしても、版を重ねる毎に頁数は増えていきます(第14版は400頁の予定)。
条文や判例を理解(暗記)すれば、考えることなく問題解決が出来るようになったとプラスに考えるべきか、理解(暗記)すべきことが増えたとマイナスに見るべきか・・・。

 
神田秀樹『会社法 第十四版』(弘文堂)
http://www.koubundou.co.jp/books/pages/30452.html


なお、法科大学院(司法研修所入所試験の受験資格付与機関)入学予定の方で、基本科目(いわゆる六法プラス行政法)のテキストを買いそろえようと思っている方も少なくないと思います。近時は特に、法科大学院側が、入学前の準備として、推薦テキストの一読を勧めることが多いので。しかし、この時期は、法律書の改訂が多い時期なので、それには十分に気をつけていただきたいと思います。せっかく買ったのに、近いうちに改訂では、もったいないので(丁寧な書店では、「改訂予定」との情報が付されていることも多いです)。まあ、私は、少なくとも既修者コースで入学予定の方は、基本書の一読や、市販の演習書を解くよりも、新司法試験(司法研修所入所試験)の過去問を一通り解くことの方をすすめるのでありますが。



菊間千乃『私が弁護士になるまで』(文藝春秋社、2011年)96頁以下

暗記でなく条文から自分の頭で考える

 (前略)

 司法試験レベルでは、予備校の問題や教科書記載レベルのことがそのまま聞かれるということはありえない。それをベースとして応用力が試される。よって、模試の直前にインプットして、たまたまその箇所が出題されたから高得点を取れたとしても、そのまま本番でも同じ結果が出るとは限らない。それよりも、究極に追い込まれる本番を想定して、普段から直前インプットに頼らず、条文から考える癖をつけるということが何より大事であると、一回目の反省から学んだ故の取り組み方であった。

 (後略)」


※アンダーラインはESP


私が弁護士になるまで/菊間 千乃
¥1,260
Amazon.co.jp


平成24年司法試験の試験場(法務省ホームページ)
http://www.moj.go.jp/content/000083784.pdf
 
札幌市
北海道経済センター(札幌市中央区北1条西2)
 
仙台市
東北学院大学土樋キャンパス(仙台市青葉区土樋1-3-1)
 
東京都
サンシャインシティコンベンションセンターTOKYO(東京都豊島区東池袋3-1 文化会館)
TOC(東京都品川区西五反田7-22-17 TOCビル13階)
東京都立産業貿易センター浜松町館(東京都港区海岸1-7-8)
東京流通センター(東京都大田区平和島6-1-1)
 
名古屋市
愛知大学車道キャンパス(名古屋市東区筒井2-10-31)
名城大学天白キャンパス(名古屋市天白区塩釜口1-501)
 
大阪市
大阪商工会議所(大阪市中央区本町橋2-8)
マイドームおおさか(大阪市中央区本町橋2-5)
 
広島市
広島県立広島産業会館(広島市南区比治山本町16-31 西展示館)
 
福岡市
南近代ビル(福岡市博多区博多駅南4-2-10)