元祖バイリンガル?の片岡義男さんと、人気のある翻訳家の鴻巣友季子さんが有名な「英語で書かれた作品」の一部を翻訳してお互いに意見を述べ合い、「翻訳」の真髄をさぐっていくというなんとも贅沢な本です。
日本人の英語力の使い方はざっくり分けると「通訳」と「翻訳」に分かれるわけですが、私は自分の英語力はもちろん日本語力や教養までがあからさまになる「翻訳」ってつい力みかえってしまい、ニガテ。
ですがそのような「落ちこぼれ」にも楽しい英語にまつわる話題がたくさん載っています。読了するまで本当にワクワクが止まりませんでした。
彼らが翻訳した部分ではなく、その後に続くエピソードについてのお話なのですが、サリンジャー「A Perfect Day For Bananafish」に出てきた新婦さんのお話も印象的。
作品の中で彼女が自分でしているのは、フレンチネイルだと思います。ベースのラッカー(マニキュア)を全体に塗ったあと、指先から伸びている爪の部分を色の違うラッカーできれいに塗り分ける、あのフレンチネイルです。
原文では爪の付け根の半月だけを目立たせるという風に読めるようですし、実際にこの作品のころのオシャレにはそういうネイルがあったのかもしれないけど、それは無いよなあ、と思うところです。
女性の作家が書いたのではなく、自分はネイルアートに縁のない男性が書いたからこその可愛らしい間違い?のように私には読めました。
翻訳というと「正しい」か「正しくない」かという話になりがちなのですが、数学や物理じゃあるまいし、「絶対の正解」などないからこそ面白いのが言語の世界なのですよね。
そしてその人の「全人格」が否応なく表れるのが「言葉」の面白みだと思います。
とにかく、私にとっては今年一番のおススメ本。「英語と日本語行ったり来たり」する方なら必読です!
翻訳問答~英語と日本語行ったり来たり
左右社
ISBN 978-4-86528-100-2
鴻巣友季子・片岡義男