前のブログで紹介したAllen Sayさんの作品からもうひとつだけ。
ご自分のお母さんのことをお描きになった
TEA with MILK
By Allen Say
ISBN 978-0-547-23747-3
生まれてこのかた日本に住んだことがなかったのに、高校を卒業する年齢になってはじめて両親に連れられて日本に住むことになったアメリカ育ちの日本人女性のお話しです。
日本人女性の外国との関わりは、明治渡欧使節団に始まり、津田塾を創設した津田梅子、鹿鳴館の華とうたわれた山川捨松というめざましい人材を輩出したことはよく知られています。ただし帰国した彼女たちを待ち受けていたのは、「新しい知識を身に着けた最先端のエリート」としての処遇ではありませんでした。好奇の目や偏見に打ち勝ち、自分のあるべき姿を獲得していったのです。もちろんすべての人がそれが出来たわけではありません。
それから幾星霜。日本人同士の家庭でカリフォルニアで子育てを終えつつあったという筆者の祖父母が日本への帰国を決意したのは、望郷の思いのためばかりではなく、その後悪夢の第二次世界大戦を迎える予兆もあったのかもしれません。とにかく決断は下され、筆者の母マサコさんは日本で生活することに。その「親ですら理解できない」深い孤独は、シンプルな語り口の中からでもいやおうなくあぶりだされてきます。
戻ってきた日本の家の「格」に合わせて生け花や茶の湯を叩き込まれる姿は、胸を打ちます。考えてもみてください。あなたが明日から自分が良く知らない国に連れて行かれて「民族衣装」を着てその所作を学び、その国の教養人なら知っているに違いないことを一から叩き込まれるとしたら。周囲の目は、あなたが「外国人」であれば暖かく見守るものでもありえましょうが、「同国人」であればこそ、その「至らなさ」をあげつらわれるのです。
「ガイジン」と呼ばれ、頼みの英語教師からも疎まれる彼女の姿は心を刺すものです。
彼女がその後、自分で自分の人生を切り開いていく姿もこの本の感動することろ。自分がどうありたいか。そのために、たとえ一センチでもゲインがあるのなら、あるいはあるかどうかは分からなくてもとにかく今の状況を変えるために。きっぱりと行動する強さはアメリカ人らしいところです。
こういうと、その後ある大阪のデパートで「着物を着て英語で流暢な説明の出来る、(若く美しい)海外顧客担当アンバサダー」となった彼女のことを
「和魂洋才」
という表現をする方も出てきそうですが、
この方のような場合、それは「和魂」や「洋才」と簡単に片づけられるものではありません。「和魂」でもあり、かつ「洋魂」でもある。そして「洋才」のみならず「和才」の裏打ちがある。それが「バイカルチュラル」であるということなのです。
どちらかを好むあまりに片方を顧みない「国際派」では、人の心を打つことは出来ません。浅薄な「外国好き」でも「外国嫌い」でもない日本人であり続けるためには、このような人の声に傾ける耳は必要です。
とにかく素敵な本。ぜひご覧になってみてください。