56歳。早すぎる死を悼む声がこの遠い日本でまで満ち溢れていますが、本当に凝縮された一篇の映画のような人生。冗長なエンディングを嫌った天の配分だったのでしょうか。
2007年、私はアップル本社のあるクパティーノにほど近いパロアルトという街に住んでいました。シリコンバレーにおいて、スティーブ・ジョブズは在留日本人同士の間でもなにかと話題にのぼるアイドル。自分のスタイルというものをとことん追求する孤高の人。私はついに漏れ聞く人となりや、彼の商品を深く愛することは出来ませんでしたが、有名になったスタンフォード大学での祝辞や引退のあいさつなど、明晰でくもりのない彼の表現はとても好きでした。
余計なことを言わず、ずばりと核心に踏み込んでいく表現は、アメリカ人だけでなく世界の人の心を動かしましたよね。現代の、少なくともビジネスの社会で英語を使った表現は、こうあるべきだ、ここをめざすべきだと感じさせるものをお持ちだったと思います。
これから寒い季節に向かっていく中で、シリコンバレーはなんとも言えない喪失感を受け止めるのでしょうか。心がしんとするニュースです。