奥様が生きていらっしゃった時の永井博士は、今でいえばイクメン度0(ゼロ)な父親、でしょうか。仕事人間そのもの。もちろん緊急事態がいつ起きるか分からない医療の現場はオーバーワークと隣り合わせな部分がありますが、それにしても今どきの、人によっては家族のお弁当作りまでこなすというような多才なイクメンからみたら、恐竜とは言わないまでも原始人レベルでしょうか。典型的な、お父さんはおしごと、お母さんが子育て、という家庭だったもよう。
また本を読めばこの方の情感の細やかさは痛いほど伝わってきますが、家庭で朗らかに、ひとつ子どもにウケるサービスを、などというタイプの父親ではなかっただろうな、と思います。
そして家事は同居のお母さんでしょうか、奥様が亡くなったあともその方がこなしておられた模様。クレイマー・クレイマーな展開ではなく、体が動く限り医療の仕事を頑張り続けられたようです。
では、父親としてダメなのか。いいえ、ちっともそうは感じられませんね。むしろご自分の出来ることを全力でやり、時代を生ききった崇高な姿が浮かび上がってきます。だからこそ、このように時代を超えてまで多くの人の胸を動かすのでしょうけど。
家事もこなせる男性は素敵ですし、私もそれを出来る限り勧めています。それに育児をママひとりに押し付けられたら、それはいけないことですよ、とレッドカードを出しましょう、という意見にも大賛成。自分の父親は多忙ではあっても家庭的な人間であったため、イクメンは好きですし、イクメンになりたいけど方法が分からない、という迷える男性には、そのためにファザーリングジャパンやいろんな団体がお手伝いしてくれますよ、と、微力ながら折に触れご紹介しています。
ですが、究極の親の役割とは、恥ずかしくない生き様をすること。この本を読むと、そのような思いが胸に湧き上がってきます。
我こそはイクメン、という男性にこそ、読んでいただきたい気持ちがします。
まもなく夏休み。子どもたちは夏の宿題のために本を読む時期です。パパもこの機会に読書はいかが、と、強くおすすめしておきます。もちろん、我らがなでしこジャパンのようにかっこいいママにも、ね。
この子を残して
永井 隆
アルバ文庫
ISBN978-4-8056-3239-0