わしの、左腕の二の腕の内側には
マーメイドのタトゥーが入っている。
彫ったのは、たぶん25歳くらいの時なので
今から20年ほど前になる。
当時はわりかし、タトゥーが市民権を得始めた時だった。
そのきっかけは、個人的にはCharaだったと思う。
チャラの主演する「スワロウテイルバタフライ」という映画で
主人公のグリコの胸元には、アゲハチョウのタトゥーが入っており
映画がオシャレなのも相まって、そのタトゥーはやくざ者がする「入れ墨」ではなく
海外から輸入されてきた「タトゥー」の印象そのものだった。
しかも、ロケンローラーやバイク乗りが、ドクロや炎のタトゥーを入れるのともわけが違ってて
ちょっとオシャレな女の子が、ちょっと胸の開いた服を着ると、ちょっと見え隠れする羽ばたきそうな蝶々
というのが、これまた当時の20代女子のハートをつかんだと思われる。
もっとメジャーなところでは、安室奈美恵がタトゥーを堂々と入れていたのも印象的だった。
(とはいえ、ハートをつかまれたのは一部マイノリティだけだと思うが)
そして、チャラの蝶々はフェイクではあったが
彼女は肩とうなじに、青い鳥とスミレのタトゥーを、それぞれ本当に入れており
当時わりとチャラのファッションや雰囲気にハマっていたわしは
「憧れの人が持ってるブランドバッグを自分も買いたい」
くらいのハードルで、タトゥーに心が傾き始めた。
そもそも、ピアスにはまったく興味がなくて
タトゥー一点買いだった。
「つけないでいると、穴がふさがってしまうピアス」には、一切心ときめかず
「一度彫ると一生消えないタトゥー」という在り方に、とても惹かれていた。
(ヅラやエクステには興味ないけど、増毛ならやりたいという感じです。違うか)
そうこうしてるうちに、一緒に組んでたバンドのメンバーがタトゥーを入れた。
最初は黒い熊を肩に入れていたが、彼はその後ドはまりして、鎖骨のあたり一面にクモの巣を彫ったり、両腕にドクロを彫ったりで
決して堅気の仕事には就けないルックスに変貌していった。
彼が働いてるライブハウスのオーナーも、肩にギターのタトゥーを入れた。
とてもいかつい人々を想像するかもしれないが
バンドメンバーはぱっと見女の子に見えるかもしれないくらいの、線の細いジェンダーレスな感じだったし
ライブハウスのオーナーは、両眉がちょっと下がっててくりっとした目の、お笑いのボケ役にいそうなひょうきんなルックスだったので
どちらかというと、タトゥーを入れたところで「むっちゃそれっぽい人」にはなりきってなかった。
そんな2人が、タトゥーに興味津々なわしに言う。
「桃ちゃんも入れなよ!」と。
信頼してる2人がおススメするし、自分も興味あるしで
「反社会的」とか「人様の目が」とか言う単語が辞書にないわしは
さして躊躇もせず、お店を紹介してもらった。
バンドメンバーを伴って、お店に行くと
割とそれっぽい、全身タトゥーの人が出てきた。
そしてデザインの相談をした。
わしは「タトゥーを入れてみたい」というだけで
候補のモチーフはまったくなかった。
そして、人に見せびらかす目的ではなく
自分でちゃんと見てニヤニヤしたかったので
二の腕の内側に入れる、ということだけは決めていた。
普通は「大好きなモチーフがあって、それをどこに入れるか」
という順番で決めそうな気もするのだが
わしの入れたい理由は羽毛のように軽く、そしてナンパなものだったからしょうがない。
なので「ちょろっと、英語の文字が入ってるくらいでいいんだけど。5センチ四方くらいで、気を付けしたら隠れるくらいのサイズで」
と言ってみたら
「文字はダサい!やめといたほうがいい!」
と、彫り師に一喝されたw
「でもモチーフ案特にないんすよ。ドクロとか炎とか薔薇とか、ベタなのは嫌なんで・・・。でもしいて言うならドラムやってるから、音符とか入ってたらいいのかな?」
みたいな、「やりたい髪型決まってないけど、文句だけは言う美容院の客」状態になってきた。
すると、「音符」というキーワードで、彫り師に火が付いたのか
なんか知らんけど、「音符の階段を上っているペンギン」というデザインを、やたらと語られ、それを背中前面にバーッと!!みたいな話になってきて
付き添ってくれたバンドメンバーも「うんうんそれいい!」と目を輝かせているww いやヤメロww
入れたい場所だけは二の腕から譲られへんねんww
大体ペンギンなんか全然好きちゃうしwww
会話するうちに分かってきたのだが
彫り師とは、こちらの言う通りのデザインをそのまま彫ってくれる人ではなく
この人の場合はアーティスト色が強くて
こちらの提示したモチーフから、インスピレーションを働かせてデザインするものらしい。
なので「モチーフくらいはわしが決めてやらんとなぁ。でも文字がダメとなるとなんだろう、楽器とか嫌だし」と考えて
最終的に「魚座だから人魚にします」と、かなり適当な感じで決まった。
「丑年だから牛にします」でも良かったかもしれない、くらいの。
取りあえずそんな感じでその場は終わり
次回は彫り師が下書きしたものを腕に貼り付けて、線だけを彫り
そのまた次回に、色を入れて終了という
まさかの3回連続講座になった。
長くなったので続く。