長田千鶴子、松本健男(編)『映画編集者・長田千鶴子が語る 市川崑×金田一映画の思い出 増補版』 | 書物と音盤 批評耽奇漫録

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長田千鶴子、松本健男()『映画編集者・長田千鶴子が語る 市川崑×金田一映画の思い出 増補版』を読みました。


昨年出た初版がネット上ですぐに売り切れてしまったので、中々読めなかったんですが、増補版の第2版が1月末に出たので、購入してやっと読めました。


これは20234月開催の横溝文化祭プレイベント第一弾「長田千鶴子さんトークショー」の模様を書籍化した本。


東宝・石坂金田一シリーズ、豊川悦司=金田一版「八つ墓村」などの市川崑監督の横溝正史映画化作品やほとんどの市川作品に携わってきた名編集者・長田千鶴子さんの歩み、市川崑監督と長田さんの逸話などが多く語られ、他にはイベントで聞き手を務めた市川崑研究家・松本健男氏による関連コラムや長田千鶴子さんの作品リストが収録されています。


長田さんは石坂浩二さんとは今でもかなり交流があるようで、経営されている山梨のガーデンツール&雑貨販売の喫茶店では石坂さんが描かれた絵が売っていたりするそうです。


すでに80代の方ですが、未だ現役の映画編集者として活躍されています。


市川崑監督の横溝正史原作、金田一映画のDVDとかブルーレイの特典映像によく出演されたり、コメンタリーで参加されたりしてる方で、そちらで長田さんが市川崑監督や携わった市川映画についてお話しされてるのを見たことあります。


トークショーの中で何度か取り上げられているDVDBOX「犬神家の一族 完全版 1976&2006 (初回限定版)」の映像特典でも長田さんのお話が聞けます。



他に「KON市川崑」という市川崑映画の写真集所収の和田誠氏と市川崑監督の対談での発言もトークショーの中ではよく取り上げられています。




まぁ読みながらなんとなく、長田さんと市川崑監督はとても息が合って、楽しくお仕事されてたんだなぁっていうのを強く思いましたね。


元々この本に興味があったのは、市川崑監督の映画はカット割りや編集に独特のものがある感じがしていたので、それがどのようになっているか詳細が知りたかったのです。


市川崑映画はカットが細かくて、例えば、まだ画面に映っている人物が話し終わる前に画面が切り替わり、その話し声が、話を聞いている相手方の顔にかぶったかと思うと、次に話者のドアップにその相手方の反応の声がダブり、さらに奇妙な細かいインサートショットが入ったり、すぐに別のショットに切り替わったりと、この細かいカットの積み重ねとそのテンポのいいリズム感が随分特異かつ独特で、まさに市川崑マジックという感じなんですな。


でもそれにはやはり編集者の協力が相当いるような気がしてたんですよね。


これを読む限り、あのカットの細かさは市川崑の完全なセンスに拠るもので、それをちゃんとリズム感あるものに生成し、現実化に尽力したのが長田さんだったのかなあという気がしますね。


この細かいカットというのは『新世紀エヴァンゲリオン』の時の庵野秀明監督に影響与えてる気もするんですけど(この人はタイトルバックの市川崑独特のタイポグラフィも真似してますが)


市川崑さんも元はアニメーターだったので通ずるところがあるのかもしれませんね。


ただ、せっかく映画編集者という専門技術者に話を聞いてるわけだから、もうちょっと具体的な市川崑映画編集の技術論なり技術解説みたいなものが書かれてあると、市川崑研究書として、もう1ランクレベルの上がったものになった気がしますけどね。


岩井俊二監督と市川崑監督が撮る予定だった「本陣殺人事件」の企画は頓挫してしまいましたが、どうもこれ、岩井監督が犯人を変えようとしていて、それに市川監督が難色を示したために流れたらしいんですけど、やはり犯人変える必要はないと思うんですけどね。


すでに東映の片岡千恵蔵=金田一耕助主演の「三本指の男」(「本陣殺人事件」の映画版)が犯人を変えたためにすごくつまんなくなっちゃってますからね。


あれは、そんな犯人像ならこの小説を映画化する意味ねーだろっていうくらい残念でしたので、まぁ市川崑&岩井俊二作品が作られなかったことを多少残念には思うけど、でも犯人変えるバージョンの映画化が頓挫した事は個人的には良かったと思っています。


その他、松本氏のコラムに出てくる、市川崑監督がドイツから取り寄せた操作説明書無しのスタインベックの編集機を、長田さんが使いこなすようになる話とか面白かったですね。


中々に読み応えのある、興味深い一冊でした☆