岩木一麻『がん消滅の罠 完全寛解の謎』☆読みやすいが驚くべき医療ミステリでもなく疑問も残る作品 | 書物と音盤 批評耽奇漫録

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岩木一麻『がん消滅の罠  完全寛解の謎』☆

 

日本がんセンター呼吸器内科の医師である夏目は、生命保険会社にいる旧友の森川から、不正受給の疑惑話を聞かされる☆

 

まさかとは思うが、夏目が関与してないよなという小さな疑惑混じりで☆

 

それは、夏目から余命宣告を受けた肺腺がん患者が、リビングニーズ特約で生前給付金3千万円を受け取った後も生きていて、 その上、その後がんの病巣が消滅しており、それと同じ事案の保険金の支払いが4例も続けて発生したからだった☆

 

森川は不正はないと判断するも、あり得ない事例を疑った夏目は、友人で、同じがんセンターで働く変人っぽい羽島と一緒に、調査する☆

 

同じ頃、夏目の恩師で、数年前に姿を眩ましていた西條は、湾岸医療センターの理事長になり、がんになった政財界の有力者や有名人たちから支持されていた☆

 

湾岸医療センターは、がんの早期発見・治療に優れ、がんが再発しても完全寛解に導ける、知る人ぞ知る病院だった☆

 

夏目と羽島は、がんが完全消失する謎を探るうち、湾岸医療センターや西條の現在について知ることになるが☆

 

 

 

 

第15回『このミステリーがすごい!大賞』大賞受賞作☆

 

さすがに新人コンクール大賞受賞作だけあって、かなりリーダビリティが高い小説です☆

 

それも医療ミステリとして、相当な数の医学的な専門用語が出てくるにも関わらず、実にわかりやすく書かれているという点だけ取っても、よく出来た小説というか、著者の作家としての能力の高さが窺えますな☆

 

著者は医療系出版社の人だそうで、ついつい中町信氏を想起しますが、しかしこちらは元々ガチのがんの研究者だった方みたいですから、全編専門知識に裏打ちされた医療ミステリになってます☆

 

しかし、だからこそ、というか、こちらはその道のプロではないからか、冒頭のがん患者がいきなり完治していたトリックなんかも、ハナから医学的には考えず、ミステリ的に推理してしまうので、すぐにわかってしまいましたな☆

 

末期がんの患者が保険金を受け取った後完治してしまう”活人事件”のトリックも、こちらもハナからがんの治し方から考察することがないので、そうなると、二つのトリックしか選択肢がなく、その片方が当たりでしたので(まあ専門的な詳細プロセスは当てようもないですが☆)あんまり驚天動地のミステリという感じではなかったですな☆

 

それにトリックのその専門的な医学的裏付け自体、そもそもトリックとして確実な方法ではなく、実現可能性があるというものでしかないみたいですしね☆  

 

その他、西條が娘の仇と思っている相手が誰かも、前半の伏線でハナからわかってしまったし、ラストのひっくり返し展開には疑問も感じましたな☆

 

<以下ネタバレ注意>

だって西條は、娘の仇の復讐心のために医者として道を踏み外したみたいだけど、その娘は実の娘じゃなくて、妻の復讐的な浮気から生まれた産物としての娘なんですよ☆

 

まあ妻の浮気相手である、娘の実の父親に対して酷い仕打ちをしたのは復讐心としてあり得るにしても、結局自分の実の子でもない娘のための復讐心が引き金になって、無茶苦茶な犯罪結社みたいなことやりますかね?

 

娘が死んだ後、自分の実の子じゃないとわかったら復讐心も多少萎むと思うんですけどね☆

 

しかも西條は、この無茶苦茶な医療犯罪結社の片棒を実の娘には担がせてるわけですよ☆

 

普通、実の娘に悪事を手伝わせて、妻の浮気から生まれてきた自分の実の子供ではない娘のために全てを捨てて復讐しますかね?(まあ娘の復讐目的だけではないにしても☆)

 

逆じゃないの?と思うんですけどねw

 

なんかその辺りがちょっと腑に落ちない作品でしたな☆