密室リンク 02-8 | errorsのブログ

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 庇った腕は痺れてしまい、最早力が入らない。ダランと重力に任せて垂れる。
立っているだけで精一杯の沙那は、壁にもたれかかった。
再び沙那の背中に、ひやりとした感触が蘇る。
まさか一日に2度も壁とサンドイッチになろうとは・・・。
サンドイッチ? 一体何とサンドイッチされるというのだろう。
この時彼女の脳は考えるより先に、潰される部位を理解していた。
ズクズクと痛む内臓が、きゅぅっと締まる。
しかし、彼女の腹筋にそれを防ぐほどの防御力は残されていない。

――万事、休す。万が一にも、勝ち目は・・・無い。




 「?? キミ・・・何をニヤけてるのかな?」


 「え、へへ・・・ゲホッ・・・にやけてますか、わたし?」




鏡に映った自分を横目で見ると、涙で滲んでよくわからなかった。
きっと酷い顔をしてるんだろうな、とトイレに突っ伏している先輩方を思い出す。



 「いいですよ、もう。わかりました・・・好きにして下さいよ。抵抗なんてしませんからw
  ・・・うぇ。えへへ、ほら、顔でも腹でも・・・お好きにどうぞ?」


 「・・・・・・。」



神無は、ぽかんとした表情を初めてみせた。
しかし一拍置いて、口元が今までに無く吊り上る。



 「これはこれは・・・ははは・・・ふぅん・・・。こいつは、驚いたや。」



そのまま少年の様な好奇の目を沙那に向け・・・構えなおす。
丁寧に、ゆっくりと拳を作っていく神無。
小指、薬指・・・と順に、ゆっくりと。ゆっくりと。
最後にギチッと握りこむと、立派な凶器が完成した。



 「とんだホンモノじゃぁないか、キミ。・・・まったく、騙されてたよ。
  どうりで筋がいいハズだ。はははッ! でもね、顔か腹かだなんて、ボクが―――」


 「―――そうですよね。野暮なことなんて、しないですよ・・・ね?」



返事は無い。
その代わり、神無は無邪気に歯を見せて笑った。


 「おざなりだけど、教えておいてくれないかい。キミ・・・名前は?」


 「・・・加賀美、沙那です。」



沙那は力の入らない腹を支点に、前傾姿勢を取った。
少しでも筋肉を分厚くして、ダメージを減らす作戦だ。
いや、もはやこんなものは作戦とは言えない。
目の前の怪物は、例え万全の状態であったとしても、自分の腹筋など易々と突き破るだろう。



 「そうか・・・いいことを教えてあげよう、加賀美さん。

  なるべく息を吸って、止めておくといい――」




言われるがまま、むっと小さな頬を膨らました沙那は、まるで小動物のようだった。
腰溜めにした手とは逆の左拳で、とぷとぷと軽く沙那の腹を確かめる。
今の沙那にはそれだけでも痛みが走るが、神無的にはOKらしかった。
よし、と頷く――。



 「いいね。それじゃ・・・・・腹いくよ、腹・・・ッ!」


―――下腹へ突き降ろす様な正拳。


 ドッヴォォォ・・・


 「んッぷ!!?~~~~~~おぅぅぇええッッッ!!」

 

言われたとおりに真一文字につぐんだ口は、早くも一撃めで決壊した。
それもそのはず、衝撃で後ろの壁のタイルはミシリと音を立て、
窓がビリビリと震える程の威力だ。



――――続いて臍・臍上・肝臓・胃。


 ドム・ドム・ドム・ドムッ・・・


 「ウッ、ぐっ、げッ、ぶぅッッ!?」 


 (き・・・・効く・・・・ぅ・・・・)


的確に急所を打ち抜く拳は重く、

また拳は絶妙に捻り込むように打ち込まれた。

腹部には4つの渦状のクレーターが、元の形を忘れたように刻まれる。

その口からはどばどばと少し赤みの掛かった液体が滝のように流れ

カモシカの如く引き締まった脚が、内股に揃い、ガクガクと震える。



――――トドメに、掬い上げる様なアッパーを鳩尾に。


 ・・・ドボゥァ!!


 「ごふぅッ!? ・・・・・ゲッ・・・ぼぉッ!!」



吐き出すものは当に無く、舌を限界まで突き出し、えづく。
バシャバシャと胃液と涎だけが大量に神無の腕を濡らした。


 (い・・・息・・・が・・・・・・ッッ)



 ――ガクリ。



うなだれた沙那を、腕一本で壁と挟み込む神無。
気絶したのは明白だが、それでも彼女は拳を抜かないでいた。
それどころか、ぐりぐりと沙那の破壊された腹筋を掻き混ぜるように、捻る。



 「ほーんと、いい素材だったのにな・・・。ごめんね。・・・暫くはご飯食べれないだろうけど。
 でも彼女達はあれでも、ボクの大事な幼馴染みなんだよ。そこは痛み分けって事で。」



しばらく女子陸上部一年の腹を愉しむと、満足したのか
そっと抱きかかえて壁から引き剥がす。
そのまま大袈裟に親父台詞と一緒にそのまま小さな体を肩に担ぐ。
次に個室で寝ている二人を器用に軽々と逆の肩で担いで、回収する。


 ・・・・・・キィィ。バタン。


暗くなった校舎へゾロゾロと帰っていく彼女達の後に
トイレの中には冷たい空気と、独特の吐瀉物のような異臭だけが
いつも通りに残された。




―第2話 了―