密室リンク 02-6 | errorsのブログ

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 肩で息をする沙那には、理解できなかった。
ひょっとすると腹部の鈍痛が、邪魔をしてるのかもしれない。
それとも全快の状態でいれば『この状況』を打破できただろうか?
否。そうであったとしても、やはり理不尽で無理矢理で意味不明な目の前の状況・・・
いや、目の前の人物を、どうしても沙那には理解できなかった。


加賀美 沙那(かがみ さな)が生粋の陸上家であるのに対し
伊吹 神無(いぶき かんな)は、同じく生粋の空手家だ。


スポーツに対して肉体を適合させるのではなく
生まれ持った肉体が、そのスポーツに適合しているタイプ。
いわゆる天才であるという点で、二人は共通している。
しかし共通だからといって、共有しているわけではない。
ましてや、相手は武道、こっちはスポーツだ。
理解なんてできるワケがない。
その武道の天才は、今――なぜか上半身が裸だった。


 「んー。惜しい。実に惜しい。」


丸出しの小振りなおっぱいを恥じらう事もない。
目を瞑って腰溜めに構える彼女の腹は、ところどころ赤くなっていた。
その一つ一つを良く見れば、丁度沙那の握りこぶしの跡がついているのがわかる。
あれから数分、いや数十分だろうか。
何十発ものパンチが神無の腹に叩きこまれていた。
しかしながら彼女の道着ははだけたり、
ましてやアニメの様に衝撃で霧散したわけでもない。
その場を切り抜けようと無我夢中でだった沙那が、気がついた頃にはこうだった。


 「いい筋してるんだけどなぁ。ねぇ、キミ・・・陸上部なんて辞めて、ウチに来ないかい?」


 「ゼェ・・・ゼェ・・・お断り、します・・・」


理解出来ないことなら、一つではない。
最初の一撃を除いて、全てのパンチにおいて手応えが妙だった・・・。


露出狂よろしく神無のさらけ出された上半身は、一言でいうならば無駄が無い。
首から下、肩から腕にかけての肉付きは、他の女子生徒にはみられない陰影。
しかし筋骨隆々というワケでもなく、あくまであらゆる動作を阻害しない、絶妙のバランス。


腹筋の割れ方も、沙那たち陸上部のソレとは根本的に異なる。
体脂肪率が低い割れ方でもなく、ましてやポニテのような脂肪の乗った割れ方でもない。
打撃に対する盾と同時に、回転や体捌きを可能にする、筋肉。
堅さとしなやかさを同時に実現する、理想的な腹だった。

しかし、いざ殴ってみると・・・



 「・・・でぇええええッ!」


 ――ヅブゥ。


 「フッ!・・・・・・うん、ほんと惜しいなぁ。」



短く息を吐いて、終わる。それだけだ。
見た目ほどの硬さは決してなく、湿った鈍い音を立てて拳がめり込むのだ。
だというのに。彼女は先から汗一つかいていない。
それどころか、呼吸一つ乱さず平然とその場から動かないでいる。
むしろ呼吸を乱しているのは、殴りつかれた沙那の方だった。


 (ハァ・・・ハァ・・・いったい、なんなのこの人ッ・・・)


奇妙といえば、この状況において未だに沙那と神無が1対1で対峙している事もそうだ。
出口を固めている数人(恐らく、同じ空手部員だろう)に取り囲まれてもおかしくはない。
むしろ、大人数で囲い込むのがこの場合、定石だろう。
しかし当の女生徒達は皆、動かない。
それどころか「ああ、またか」「またこの人の悪い癖が始まった」と言わんがばかりの
呆れた顔で静観している。



 「ほらほら、どうした? もうおしまいかい? 少なくともボクを倒さないと、
  ここからは出られないんだぜ? ・・・ああ、じゃぁこうしよう。」



しだいに苦しさが大きくなってくる腹に、さらに呼吸を乱される沙那。
そんな彼女に向って、空手少女が告げる。



 「ボクを一歩でもこの場から動かす事ができたなら、キミを見逃してあげるよっ♪」



その笑顔には、邪気というものは一切合切感じられなかった。
そして沙那は、考える事を放棄した。
理解出来ない事に対して、この判断は正しい。
しかし、行動が間違っていた。
沙那はこの時、必死に背後の窓に飛びこむべきだったのだ。
しかし実際は・・・獣の様な雄たけびと共に、神無に飛びかかった。



 「わぁあああああッッッッ!!!!」

 ―――ぱしぃん。



乾いた音と共に、飛び込みざまのストレートは
今までの言葉とは裏腹に神無に掴まれて静止した。