密室リンク 02-3 | errorsのブログ

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-3-


生々しい肉を打つ音が途切れ、再び冷たい空気に包まれる女子トイレ。
耳を澄ませば、微かに水の滴る音だけが聞こえた。


 ・・・ぽた。


 ・・・ぽたた。


 「う・・・ぇえ・・・」


 みちぃッ


 「ぜーっ、ぜーっ・・・やっと、入ったっ♪」


1m四方もない狭い個室に、陸上部のユニフォームをまとった3人の女子高生。
内1人が羽交い絞めにされ自由を奪われている。
その少女の腹部に、細い腕がまっすぐ突き立っていた。


 (・・・ど、どうしてわたしが・・・)


儚げな腹筋と拳がせめぎ合うも・・・度重なる打撃で拳にその軍配は上がっている。
・・・結果、沙那の口から突き出された舌を伝い、涎が糸を引いて床を濡らしていた。


 「あーあ、残念・・・こんなお腹じゃぁ、明日はキツいわねw」


 (どうし・・・て、わたしが・・・こんな目にッッ)


理不尽な暴力。呼吸するたびに痛みを発する腹。
明日のために必死に練習したというのに、これでは満足に足を上げるのも辛いだろう。
げほげほと悶絶する沙那に、ふつふつと黒い感情が湧き上がる。
生まれてこの方、こんな色は・・・初めてだった。


ガクッと、うな垂れる沙那。
脇を固めていたポニテの手が、一瞬緩んだ。
その一瞬で、十分だった。


―――ごぎんっ


 「ギッッッッ――――――!!??」


鈍い音と共に、潰れた虫のような悲鳴を上げたのは金髪だった。
呼吸を整え油断していた金髪の股間に、沙那の脛が直撃している。
ぐるんと白目をむいた金髪は、便所の床を気にする事もままならず
泡を吹いて倒れこんだ。


 「マユミッ!?」


 ガツンッ!


 「んガッ!?」


突然の事に動揺するポニテ。事態を呑みこもうとした矢先、
うな垂れていた沙那の頭が急に起こされる。
否、そのまま反り返る位置までオーバーランした頭突きは
ポニテの鼻頭を見事に潰していた。
白いタイルに、赤い花が点々と咲く。


解放された沙那は、自由になった片手で痛む腹部を押さえ、口を拭った。
足元に転がっている金髪と便器のせいで、ポニテとは上手く距離が取れない。
しかも彼女の背中側に扉があるため、脱出するには彼女を倒さなくてはならない。


―――やるしか、ない。


片腕だけ見様見真似で顔のまえに掲げるも、その姿はぎこちない。
それもそのはず、生まれてこの方、殴り合いの喧嘩なんて未経験だ。


 「ハァ、ハァ、おかえし、よ・・・」


 (1対1なら・・・きっと大丈夫っ!)


 「~~てんめェッ!! ブチ殺すッッ!!」


最早先程までの冷静な様は微塵も残っておらず
声を荒げて掴みかかるポニテ。
わし掴みにされた髪を引き剥がそうと、沙那も負けじとその手とポニテの尻尾を掴む。
狭い空間でしばし罵倒と揉み合いが続いた。
・・・膠着を破ったのは、ポニテだった。


 「こんのアマッ!」


 バクンッ!


 「ブッ・・・!!」


頬を殴られた沙那の口から、唾液が飛び散る。
至近距離でのフックなのでそれ程のダメージはない。
そもそもこの密着状態では、顔を狙っての攻撃は難しい。
が、腹も顔も殴られた事は初めてな為、如何せん沙那には耐性が無かった。
眼を瞑ってしまった所に、2発、3発と追撃のフックが入る。


 ガッ、ゴッ・・・


 「ブッッ、あぐっ!」


・・・やり返さないと。熱くなる心の中に沸き上がる感情。
しかし、いざ『他人を殴る』という行為において、まだブレーキがかかってしまう。
悩み抜いた末、沙那の拳はポニテの腹を打った。


 バスッ・・・!


 「グッ!?」


 (なにこれ・・・タイヤみたい・・・これが、お腹・・・?)


初めて感じる、他人の腹の硬さ。
沙那ほどの割れ方ではないが、程良く脂肪の乗ったポニテの腹は
表面は女性らしく、反面その内側にはしっかりとした陸上部の腹筋があった。
腹を殴られた衝撃と驚きで、一瞬目を丸くしたポニテの形相がみるみる内に暗さを増していく。


 「そんなへっぽこパンチ、効くかよッ!」


 ドスッッ!!


 「んっう!?」


実際、沙那のパンチはダメージを与えるには至っていない。
着弾点も急所とはズレ、なにより心理的ブレーキが威力を半減させていた。
それに比べて、ポニテのパンチはしっかりと沙那の腹筋に食い込む。
彼女とて決して喧嘩慣れしているわけではないが、
感情が高ぶって手加減を忘れたポニテのボディブローだ。
散々責められた後の腹筋では、防ぐ事は叶わなかった。


しかし、沙那の心は―――折れなかった。


 ドシッ!


 「ふッッッ! だから、効かねーって!」


 ドスゥッ!!


 「うっぷ・・・・このッ!」


お互い髪を掴み合ったまま、空いた片手でお腹を殴り合う。
我慢比べが、始まった。