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涙ぐんでむせ返る沙那に、今にも殴りかかりそうになる金髪を制した。
すると、壁にもたれかかっている彼女を引き剥がし、後ろから支えた。
脇から手をいれてガッチリと固められ、身動きが取れない・・・。
痛む腹部を無理やり伸ばされ、金髪を見る沙那の顔が苦痛に歪む。
「カワイイ後輩が『ちょっとでも足が軽くなるように』鍛えてあげないと、ね」
「・・・・・・あ~~、そーゆー事か♪ へへ、悪く思わないでね加賀美ぃww」
吊り上った邪悪な笑みの金髪に、沙那は心底、ゾッとした。
身動きが取れない沙那には、この後行われるであろう『特訓』とやらが
容易に想像がついた。
惜しげもなく晒された腹は伸び切っていても、うっすらと割れている。
その腹筋がきゅっと締まったのは、トイレ内の冷気が原因ではない。
金髪の振りかぶった拳が、無防備な腹にめがけて放たれ―――
バヅンッ!
「くッッ!」
(・・・やっぱり、また・・・お腹・・・ッ)
爆ぜた。
汗で湿った肉と、硬い骨がぶつかる乾いた音が反響する。
「い・・・つ・・・ッ・・・・や、やめて下さい、大声出しますよッ!?」
「無駄よ。もう学校には誰も残ってないのは、確認済み・・・。」
無情な言葉が背中から浴びせられる。
遅くまで練習していた事が仇となってしまった・・・正直、手詰まりだ。
(こ、こうなったら・・・必死で耐えて、隙を見て逃げ出すしか・・・)
お腹だったらなんとか大丈夫だろう、とたかを括ろうとした矢先、2発目が打ち込まれた。
バヂィッ!!
「ぃぐッ・・・!」
「ちょっ・・・なによ、コイツ。めっちゃ腹硬いんだけど・・・」
手をヒラヒラして、握り直す。その拳は先よりも固く握りこまれていた。
既に身動きが取れないというのに、片手で沙那の肩を固定すると、大きく右腕を引く。
ズッチ! ドチッ! ドチィッ!!
「んッ! ん”ッ! んん”ッッ!!」
大降りで雑なボディブローが、沙那の腹・・・ちょうど臍の辺りに叩き込まれ
その衝撃で周辺の汗が玉となって飛散した。
沙那は口を一文字につぐみ、必死に耐え切る。
「もぉ、なんでアキラの時みたいに、めり込まないのよォ!! 手ぇ痛いんだってばッ!!」
「・・・ハァ、ハァ、もう、諦めたらどうですか? 効きませんよ、お腹なんてっ・・・」
「あ”? ・・・・・・ぜってー、めりこます。」
(うまくいけば、殴り疲れて帰ってくれるかもしれない。そうでなくとも、隙さえ出来ればなんとか・・・。)
敢えて挑発して、消耗を誘うという作戦だ。
しかしその考えはいささか幼すぎた。
その作戦には、前提となるべき絶対条件がある。
それを欠いている事に、沙那はまだこの段階では気付くことは出来なかった。
「オラオラオラオラァあああ!!」
ドシドシドシドシドチドチドチドチ―――――
がむしゃらに左右交互に、殴られる。というより、拳を叩きつける感じだ。
「んんん”ーーー、むッ・・・んぅ・・・ヅ・・ゥ」
辛そうに歯を食いしばって連打に耐える沙那。
小刻みに打たれ続けるパンチに、みるみると腹の皮が赤くなり、熱を持つ。
表面の痛みもさることながら、無呼吸で耐える事が辛いのだろう。
だが、呼吸をすればその瞬間に腹筋は緩み、
その薄っぺらい腹はいとも容易く蹂躙されてしまう。
それだけは、なんとしても避けなければならなかった。
だがしかし。無情にも、その時は訪れる。
(も・・・ダメ・・・息がッ・・・!)
「ぶはっ・・・」
ヅムゥーーーッ!!
「ヴっっっぁ”は!?」
とうとう金髪の渾身のストレートが、拳半分程めり込んだ。