密室リンク 01-5 | errorsのブログ

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-5-


 ログアウトした私は、ヘッドギアを外すとふぅ、と息をついた。
ふと、服を捲くりっぱなしだった腹をさする。


 「すごかったな・・・アルカの、パンチ・・・」


あれだけしこたま殴られたというのに、痛みは全く無い。
ただ、脳だけが覚えている。


――相手の腹にめり込む、拳の感触。


――――自分の腹に侵入してくる、拳の感覚。


 「げ。」


しかと焼き付けた先ほどのPKプレイをネタに、お楽しみタイムに入ろうと
息を荒げてスカートの中に手を入れた時だった・・・。

自分で言うのもなんだけど・・・尋常じゃない事に、なっていた。


―――数分前。


対戦が終われば、体力ゲージは元通りになる仕様だ。
だから私たちは先までの激戦が嘘のように、倒れた木に腰掛けてダベっている。
じとっとコチラを恨めしそうに伺うのは、アルカだ。


 「ニーベルングの髪飾り・・・。」


 「ご明察。」


 「ずるいなぁ・・・チート級のレアアイテムじゃん・・・」


頬を膨らませるアルカの表情は、先程の戦闘で見せた表情とはうってかわって
女性の目からみてもカワイイと思えるものだった。
種を明かせば、私はあるモノを装備していたから、彼女に勝てたに過ぎない。


 「残り体力ゲージに応じてSTRに倍率が乗る・・・どうりで、VIT99でもやられるワケだよ」


 「99!? そんなに振ってるの!?」


 「うん。補正込みだと、128かな。だから耐久力には自信あったのになぁ・・・」


逆にこっちがビックリだ。
そこまでのツワモノに挑んでいたのかと思うと、ぞっとする。
確かに、チートアイテムかもしれない。


 「・・・あの、さ。なんでサオは、お腹ばっかし狙ったの?」


 「え!? えーと、それは・・・」


急な質問に、思わず声が上ずってしまった。マズイ・・・油断してた。
一瞬頭が、真っ白になってしまう。
目的も果たしたし、このままログアウトしてしまおうか・・・
でも、こんなに好みのユーザー滅多に居ないし、せめて友達登録だけでも・・・


 「ほ、ほら。女の子の顔を殴るなんて、ね?」


 「ウソ。」


彼女の言葉でごまかそうとしたが、すぐさまそれは両断されてしまった。


 「う、ウソじゃないってばw」


 「・・・いや、違うの。ウソ付いたの、アタシ。」


 「・・・え?」


どういう事だろう。理解に頭が追いつかない。
でも、得も知れぬ期待をしてしまう自分は確かにいた。


 「だから、顔を殴らない主義なんじゃなくて、お腹を殴りたい主義なんだよ。」


唐突の告白に、息が詰まった。
アルカの独白は続く。私は呆気にとられて無言で聞き込んだ。


 「初めて声を掛けられたときね、あぁ・・このヒトいいお腹してるなーって。」


 「・・・・・・。」


 「でね、ほんとに悪いと思ったんだけど、利用させて貰おうかな・・・なんて思ってたの。そしたらね」


 「・・・・・・。」


 「実際にPKしてみたら、お腹はガードしないし・・・それに、こっちの腹ばっか狙ってくるし。」


 「・・・・・・。」


 「だから、もしかしたらって思ったんだけど・・・サオって・・・」


 「・・・・・・ぅん。」


―――好きだよ、お腹。

  殴るのも、殴られるのも―――


消え入りそうな声で、彼女の告白に応えた。
その時の自分の声は、うわずっていたのか、震えていたのか、それとも歓喜の色に染まっていたのか。
どうしても思い出す事はできなかった。

ただ、彼女の顔が、どんよりとした不安の其れから
まるで陽が差したように明るくなったのだけは、脳裏に焼き付いている。
彼女は、安心したように、こう続けた。


 「だったらさ・・・ウチのギルド、こない?」




―第1話 了―