密室リンク 01-2 | errorsのブログ

errorsのブログ

ブログの説明を入力します。

―2―


 「あの・・・すみません、ちょっといいですか?」

 「?」


 露店を物色している褐色の女性に、おそるおそる声を掛ける。
すると女アバターの上に、ユーザー名と体力・精神力といった最小限のインジゲーターが表示された。
そこには英文字で【aruka】とあった。
恐らく、振りかえった相手にも同じように私の情報が開示されているハズだ。



 「初めまして、私、サオっていいます。」

 「あ、どうも、初めまして。何か?」



少し不審気な表情だが、同じ女アバターだからだろうか、そこまでの警戒心は伝わってはこない。
いつも通り、私は誘い出す為の常套句を口にした。



 「その、実は私、スキル上げに行き詰ってて・・・よろしければPKで手伝って貰えませんか? 報酬はお出しますからっ」


 「・・・・・・。」



急な勧誘に戸惑ったのも束の間、今度は彼女が私を上から下まで物色し
ふむ、と手を口に当てる。
【PK】っていうのはゲームの用語で、サッカーのPKとほぼ同義だ。
普段、ユーザーの放つ攻撃は、同じユーザー同士でダメージ判定とならない。
ただし、1対1のPKモードをお互い承認する事で、互いの攻撃が「当たる」ようになるのだ。
レアアイテムを賭けたり、レベルアップの救済措置として実装されているこのモードを
私は全く別の目的で行っている。



 「あなた・・・サオさん、だっけ。見た所、STR-AGI二極の・・・武闘家タイプ?」


 「あ、はい! 実はVITも振ってるので三極ですけど・・・。」


 「へ~、珍しいね。っていうより、かなりマニアックだねw」


 「そうなんです。だからなかなか狩り場で育成できなくて・・・」



因みに、武器を持たないのは、そっちに回す予算を防具や消耗品に回している・・・という体にしている。
それを説明すると、褐色の彼女は目を丸くしていたが、どうにもツボに入ったようで
ケラケラと笑った。そこに侮蔑といった悪意は感じられない。
好感触だ、いける。



 「奇特なヒトもいたもんだ・・・いいよ、アタシも丁度、上げたいスキルあったし、付きあったげるッ!」



そう言うと、彼女は転送アイテムを呼び出し、行き先を設定し始めた。




 転送アイテムに記録されていた場所は、彼女のギルドで使っている練習場という話だった。
マップで確認してみると街の外のフィールドで、随分離れた場所の、森の深部。
光量は少なく、樹木と椅子代わりになる丸太以外は、モンスターどころかユーザーの気配もない。



 「こんな場所があったなんて・・・いいんですか、溜まり場使わせて頂いて?」


 「ここはモブが滅多に沸かない安全地帯なんだよ。最近みんなイン率悪いし、今日はきっと二人っきりだから遠慮しないでねw」



それは好都合だ・・・心臓がしだいに高鳴ってくる。
早速、私はメニューを呼び出してPK申請を彼女――アルカに投げる。
直ぐに承認されると、お互いの体力インジゲーターの色が変わった。
良くみると、その数字は私の倍程ある。



 「それじゃ、お願いしますっ!」


 「こちらこそッ」



お互い構えて向き合う二人・・・ふと、彼女の装備に変化が無い事に気付く。



 「え? あの、装備は・・・」


 「あー・・・えっと、僕も体術スキルで上げたいヤツあるからね。素手でいくよ。」


 (・・・これは・・・・・大当たり引いた、かな♪)



―――賭けはどうやら、勝ったらしい。ドキドキが、バクバクへと変わった。