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---Wellcome,sao !!---
目の前に浮かび上がる透けた文字が、無事ログインが終了した事を告げた。
周りを見渡すと、そこは中世の様な大きな街の広場だった。
植木にはおよそ現実世界では学術書にも載ってないだろう植物や花。
白を基調とした、ヨーロッパ調の建物。
行きかう人々はみな甲冑やら剣やら、様々な装飾の装備を纏っていた。
昨日ログアウトした場所から、私はあても無くファンタジーの世界を歩き出した。
ふと、街のショーウィンドウに自分の姿が映る。
その姿は、おおよそ先程までベッドに横たわっていた私とは大きく異なっていた。
現実世界では黒く短かった髪は、憧れのロングヘアだ。
白色なのは、一度染めてみたかったから。
胸当てと腰当て以外は、ほんの少しの布で覆われた体。
その体格は小柄な女性にしてはやけに筋肉質だ。
それもそのはず、この世界では比較的珍しい格闘家のスタイルで
ステータスもSTRとVIT-AGIの3極バランス型だから。
惜しげもなく晒された腹部は、綺麗に6つに割れている。
(・・・リアルでも、このくらい引き締まってたらいいのに)
ぐにぐにと指で押すと、まるで現実の様な「肉」の感触で触覚までリアルだ。
アバターと云われる仮想世界での「イレモノ」の自由度は高い。
性別や姿形は、このゲームの最初に自由に選択できる。
獣人やエルフまで実装されているが、実のところその操作性の問題もあって
あまり目にする事はない。
というのも、このゲームでのアバターは、その動作一つ一つを指先からつま先
果ては瞬きに至るまで、文字通り思い通りに動かすことができる。
なんでも、つい数年前に世の中を沸かせたこのNEXPEDIAと呼ばれる機器は
脳神経と相互通信でき、その情報をネットワークに反映できるとかできないとか。
そこには私の想像を絶する科学や特許が五万とあるんだろうけど
いまだ高校2年生の私にその原理を理解することはできない。
だけど、その恩恵を存分に受ける事はできる。
私は目下、その恩恵を片手に「狩り」の準備というわけだ。
「といっても、別の意味で、だけどね・・・っととと」
(・・・危ない危ない、いまだに思った事がつい口に出ちゃうんだよね。
ほんと、慣れないなぁこのインターフェイス・・・)
さて。
大通りを抜けてユーザーの集まる噴水広場まできたけど。
今日もいろんなアバターやら露店やらでごった返している。
(んー・・・あのウォーウルフはゴツくて好みだけど、両手剣型かぁ・・・)
(あのエルフは遠距離だから論外、と。服装は好みなんだけど、惜しいなぁ・・・)
(・・・・・・お?)
物色するようにウロウロしていると、ふとヒューマンの女アバターが目に止まり、
私は釘付けになった。
背丈は同じぐらいだが、体格は私よりも線が太い。
一見、典型的な前衛型だろうけどそれにしてはDEFが低そう。
街中では本装備を外しているアバターも多いから、実の所はわからないんだけど
装備している靴と腰に下げた短剣からするに、おそらくはアサシンタイプではないだろうか。
私みたいに純体術系なのは極少数だが、サブウェポンとして短剣を選ぶ事が多いからだ。
そんな事よりも、私が気になって仕方がないのは、
彼女の惜しげもなく晒されているその腹筋だ。
褐色の肌に、隆起した見事な6つのコブ・・・
――ごくり。
私は、イチかバチか、賭けに出る事にした。