『密室リンク』
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「・・・ただいま」
薄暗い玄関に問いかけるも、返事は来ない。
冷たい空気の廊下をぬけ、リビングへ。テーブルに佇む夕食には、添え書きすらない。
冷蔵庫をあけて喉を潤すと私はすぐに自分の部屋へ向かい
その扉に鍵をした。
カバンを無造作に放り、冬服のコートと制服のジャケットを脱ぎ
ブラウス一枚となった私は、おもむろにベッドへ横たわる。
ふと、ブラウスをめくる。
ひたっ。
「・・・っ。」
雪のようにまっ白な・・・腹筋なんて皆無な薄っぺらいお腹を撫でると、一瞬、反応してしまった。
手の冷たさもあるかもだけど、今の一瞬で様々な妄想が頭をよぎったのだ。
妄想・・・願望・・・期待・・・憧れ。
私は、枕元にある冷たい機会を一瞥する。
『NEXPEDIA』とロゴの入った、無機質なそれはヘッドギアの形をしている。
「・・・ほんとは、こんなのに頼りたくないんだけどなぁ」
言葉とは裏腹に、私はその有線式のウェアラブル端末を頭から被り
横たわったまま耳元の電源を入れる。
周波数の低い唸るような起動音の後、目の前が少し明るくなる。
しばらく待つと、不意に視野はホワイトアウト・・・もう少し早く起動できれば、言うことないのに。
そんな不満は目の前に広がるであろう見慣れた景色に直ぐにかき消された。
――2045年、私、古賀 紗央莉(こが さおり)は仮想世界へと、ダイブした。