　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　hugoさん

　ブエノス・アイレスから西へ70km、カトリックの巡礼地としても有名なLujan（ルハン）。この街に、Camino Abiertoカミーノ・アビエルト（拓かれた道）という名前の活動をしている夫婦のことを聞いて訪ねてみることにした。

雲ひとつない快晴。私はアルゼンチンのだだっ広い田舎道を車やバスで行くのが好きだ。雲や木が青い空と緑の絨毯と重なって、まるで絵画を見ているようである。この景色を見ていると、この国の悪いことがすべて嘘みたいだと思ってしまう。

　Camino Abiertoは、Susanaさんと夫のHugoさんが20年前に始めたプロジェクトである。彼らは、様々な理由で親と一緒に暮らせなくなった子供たちを引き取って育てている。このような種類のプロジェクトはこれまでも聞いたことはあるが、彼らがすごいのは、誰にも頼ることなくこのプロジェクトに関わる人すべてが何かを得ることができるような仕組みを作り上げたところにある。

「このプロジェクトを始めようと思った時、資金を他から調達したくなかったの。私たちはもともと会社を経営していたので、そのスキルをこのプロジェクトにも生かしたの」

　現在ここで生活している子供たちは12人。中にはここで育ち、そのまま働いている子も何人もいるという。ここへ来ているボランティアの人たちもそれぞれに目的を持って、学びたいこと学習したり、試したいことにチャレンジしている。

「親に捨てられた子供たちと接するようになって、人間には物質的な貧しさはないと思ったわ。貧しさは心の中にしかないの」

　広々とした敷地内には、家畜、畑、菜園、コテージ、レストランがある。夫のウーゴさんが、“はじまり”の場所から案内を始めてくれた。そこには、小さな植物や野菜の苗たちがクラッシック音楽を聴きながら、太陽の光に包まれていた。

「この苗からすべてが始まるんだ。ここで育てたものを畑に移し、大きくして採取する。私たちが所有している空間で、ほとんどの食べ物を賄っているんだよ」

　畑には、様々な種類の野菜や花が、それぞれに意味をなしながら植えられていた。害虫を防ぐ草、蜂が蜜を吸うための花、他の草木に栄養を与える草。もちろん、農薬は一切使わない。だからこそ、それぞれの植物が持つ特徴を生かして栽培する。

「僕は今まで植物の勉強なんてしたことがなかったから、すべて本を読みながら独学で学んだいったよ」

　Hugoさんのがっしりと、そして優しい手はここの草や土と一緒に過ごしてきた時間の蓄積だった。

　　　　　　　　　アルゼンチンでは家畜もサッカーが好き？！

　「よかったら、お昼ご飯でもどうですか？」

　心地よい陽の当たるテラスで、彼らのお言葉に甘えて食事をご馳走になった。ここにあるレストランは週末だけ解放され、およそ400人以上の人たちが訪れる。その売り上げをこのプロジェクトに還元しているのだ。私たちが訪ねたのはお休みである平日だというのに、特別に料理をふるまってくれたのだった。サラダ、ラビオリ、パン、アイスクリーム。どれもこの場所から採れたものだ。この食事は、この空間、プロジェクトのすべてが凝縮されたものだ。私は改めて、人は働くために生きるのではなく、生きるために働くのだと思った。

　ここに住む子供が学校から帰ってきた。彼らはすぐに仕事に取り掛かっている。彼らもきっとここでの生活で、食べ物がどこからどうきて自分たちに辿り着くのかを知るだろう。そして、育てる、食べることを通して、彼ら自身が癒され、大きな変化を遂げていくにちがいない。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　家族のマウリシオと

ERIKO