NEJM abstract Lp(a)が大動脈弁石灰化に関与する 追記 | えりっき脳内議事録(えり丸)

えりっき脳内議事録(えり丸)

Diary and memo written by a pathologist.

Genetic Associations with Valvular Calcification and Aortic Stenosis
G. Thanassoulis et al. N Engl J Med 2013; 368:503-512 February 7

循環器科や血管外科をまわっていると、「どうしたらこんなガッチガチに石灰化した血管になるわけ!?暴飲暴食にタバコ三昧だとこうなるの?」という人がけっこういらっしゃいます。CTを撮ると、大動脈に骨と同じ濃度の部分が沢山あるんです。アンギオやっていると、心臓が石灰化していて、透視するだけで心臓の形が分かる人がいるんです。流石に、こういったひどい石灰化は生活習慣だけでは説明がつかないのだろうな、体質なんだろうなと、不思議に思っていたことに対して、1つの答えが提示されました。

ではどうぞ、本文をご覧ください。


Background Limited information is available regarding genetic contributions to valvular calcification, which is an important precursor of clinical valve disease.

Methods We determined genomewide associations with the presence of aortic-valve calcification (among 6942 participants) and mitral annular calcification (among 3795 participants), as detected by computed tomographic (CT) scanning; the study population for this analysis included persons of white European ancestry from three cohorts participating in the Cohorts for Heart and Aging Research in Genomic Epidemiology consortium (discovery population). Findings were replicated in independent cohorts of persons with either CT-detected valvular calcification or clinical aortic stenosis.

Results One SNP in the lipoprotein(a) (LPA) locus (rs10455872) reached genomewide significance for the presence of aortic-valve calcification (odds ratio per allele, 2.05; P=9.0×10-10), a finding that was replicated in additional white European, African-American, and Hispanic-American cohorts (P<0.05 for all comparisons). Genetically determined Lp(a) levels, as predicted by LPA genotype, were also associated with aortic-valve calcification, supporting a causal role for Lp(a). In prospective analyses, LPA genotype was associated with incident aortic stenosis (hazard ratio per allele, 1.68; 95% confidence interval [CI], 1.32 to 2.15) and aortic-valve replacement (hazard ratio, 1.54; 95% CI, 1.05 to 2.27) in a large Swedish cohort; the association with incident aortic stenosis was also replicated in an independent Danish cohort. Two SNPs (rs17659543 and rs13415097) near the proinflammatory gene IL1F9 achieved genomewide significance for mitral annular calcification (P=1.5×10-8 and P=1.8×10-8, respectively), but the findings were not replicated consistently.

Conclusions Genetic variation in the LPA locus, mediated by Lp(a) levels, is associated with aortic-valve calcification across multiple ethnic groups and with incident clinical aortic stenosis. (Funded by the National Heart, Lung, and Blood Institute and others.)

やはり、Lp(a)が原因でしたか。

【LDL/HDLと粥状硬化】

LDLは、肝臓で合成されたコレステロールを、末梢組織に供給する。LDLの2/3は、LDLのapoB-100を認識するLDL受容体に結合して、末梢組織の細胞内に取り込まれる。LDLの1/3は、酸化されたりアセチル化されたりして変性LDLとなり、これをマクロファージがスカベンジャー受容体により認識して細胞内に取り込む。マクロファージが変性LDLを取り込む現象は、後述する粥状硬化の原因となる。一方、HDLは末梢組織に余剰なコレステロールを肝臓へ運搬する。

動脈硬化の危険因子は、加齢・男性・閉経(エストロゲンは動脈硬化に対して予防的に働く)・家族歴・喫煙・運動不足・肥満・高血圧・糖尿病・脂質異常症などが知られている。脂質異常症の中ではLDL↑、HDL↓、TG↑が危険因子として知られている。


粥状硬化の発生機序は以下のとおりである。①血管内皮細胞が障害されると、血管内皮細胞が接着分子を発現し、血小板や単球が接着する。②単球は血管内皮化でマクロファージに分化成熟し、マクロファージはスカベンジャー受容体を介して変性LDLを取り込み、コレステロールを蓄積して泡沫細胞になる。③泡沫細胞が集簇し、プラークを形成する。④血小板からPDGF(platelet-derived growth factor)が分泌され、血管平滑筋細胞が内膜へ遊走する。⑤プラークが破綻すると、その部位で血栓が形成され、脳梗塞や心筋梗塞を発症する。

【Lp(a)と動脈硬化】
 LDL + apo(a) = Lp(a)


えりっき脳内議事録(えり丸)-Lp(a)

apo(a)は、プラスミノーゲンと相同性が高い蛋白質です。LDLのapoB-100にapo(a)が結合したものを、Lp(a)と呼びます。Lp(a)↑(≧30mg/dl)は、LDL・HDL・TG等の他の脂質異常症とは独立した危険因子であることが分かっています。また、Lp(a)濃度は年齢・食事・運動に影響されず、遺伝により90~95%決定されると言われています。動脈硬化の原因となるLp(a)の機能については、現在のところ以下の3つが分かっています。

・ Lp(a)は血小板のPAI-1(plasminogen activator inhibitor-1)産生を亢進し、
  また、プラスミノーゲンを競合阻害し、線溶系を抑制する。
  すると、血小板と血管内皮細胞でのaTGF-β(activated transforming growth factor-β)
  産生が低下し、平滑筋細胞を脱分化させ、動脈硬化病変部に遊走させ、
  これらの細胞の増殖を促進
する。
・ ALP(alkaline phosphatase)の活性を亢進させ、Ca沈着を引き起こす。
・ マクロファージを遊走させる作用はない。

apo(a)は、マウスやウサギには存在せず、ヒトやチンパンジーなどのアスコルビン酸(Vitamine C)合成能を失った動物にのみ存在する蛋白質だそうです。これは私的な意見ですが、このたんぱく質は霊長類で失われたビタミンCの抗酸化作用をカバーするために生まれた遺伝子なのかも。また、Lp(a)はマクロファージ遊走能を持たないとのことですから、粥状硬化ではさほど重要な役目を果たしておらず、中膜石灰化硬化に大きく関与しているのかな?こう考えると、Lp(a)が他の脂質異常症と独立した危険因子であることも頷けると思います。

【Lp(a)は腎臓で能動排泄される?】 臨床の現場において、腎臓においてLp(a)を能動的に排泄しているのではないかという状況証拠が多数報告されています。
・ CKD患者で、GFR(糸球体濾過量)と逆相関して血漿Lp(a)濃度が上昇している。
・ CKDのため腎移植を施行した患者さんでは、一般にLp(a)濃度は低下する。
・ 腎静脈でのLp(a)濃度は大動脈より低く、Lp(a)が腎循環で除去されている可能性がある。
・ ラットモデルでは、Lp(a)を注射すると腎尿細管に集積し、apo(a)のみが尿中に排泄される。
・ CKD患者では、apo(a)の尿中への排泄が低下していた。

腎と心血管系が連動していることは揺ぎ無い事実ですね。
動脈硬化予防のために、腎臓を大切にしないとね!
今後もこのテーマはフォローしていきたいところ。

reference
1. J J Albers et al. Kidney International (2007) 71, 961?962
Evidence mounts for a role of the kidney in lipoprotein(a) catabolism
2. http://www.med.yamanashi.ac.jp/clinical_basic/pathol01/naiyo_apo_a.html
3. http://homepage2.nifty.com/abe-akira/lpanimanabu1.pdf
4.
NEJM abstract 冠動脈疾患とリポ蛋白Lp(a)