GCOEシンポジウム | えりっき脳内議事録(えり丸)

えりっき脳内議事録(えり丸)

Diary and memo written by a pathologist.

研究から退いて、実際に自分で実験をしなくなって久しいので、最近の医学的知見を入手すべく、久々にシンポに参加しました。GCOEシンポジウムって、いつもこんなに豪華なの?と、驚きました。ネームプレートも作っちゃって、学会の如き手の入れよう。そして、懇親会はソレイユで行われたというw 鶴友会館ではないあたり、良いっすねー。


本日のシンポジウムの副題は、「精神・神経疾患研究の未来を切り開く新規軸」とあります。演目の殆どが神経疾患研究についてのものですが、最後の特別講演だけ、免疫の話。名大では殆ど免疫研究が行われていないのですが、誰がキシチュウ氏をお呼び申し上げたのですか?と凄く謎なのです。とにもかくにも、大阪大学免疫学教授のキシチュウ氏が来てるっていうのは、凄いことです。


私は、時間の関係上、以下の3つの演題を聴いてきました。

① 柳澤 勝彦 (国立長寿医療研究センター研究所)
  「脳内におけるアミロイドβ蛋白質の重合開始機構」

② 長谷川 成人 (東京都医学総合研究所、認知症・高次脳機能分野)
  「神経変性疾患は"蛋白癌"か?」

③ 岸本 忠三 (大阪大学免疫学フロンティア研究センター免疫機能統御学)
  「IL-6:自己免疫疾患の発症機構と治療法の開発」


柳澤先生の研究と、長谷川先生の研究は、アルツハイマー病についてのお話。お二方の公演内容を組み合わせると、アルツハイマー病の神経変性では、以下のプロセスが起こっているのではないかと想像されます。

 1、加齢などによって小胞体輸送経路に異常をきたし、

 2、神経細胞軸索末端にガングリオシドが高密度に蓄積し、

 3、ガングリオシドが種となってアミロイドβの重合を促進させ(変性アミロイドβ)、

 4、シナプスを介して周囲の正常神経細胞に変性アミロイドβが取り込まれ、

 5、病変は神経線維の走行に沿って進行する。

変性アミロイドβが正常神経組織に伝播するさまを、「プリオンの如く」と表現されていたのが印象的。しかし、プリオンのように感染性はないので、「蛋白癌」という概念を提唱されていました。興味深いのは、アルツハイマー病もDLBもパーキンソン病も、最初にアミロイドの変性・沈着が起きた場所によって疾患名がちがうだけで、病理学的には類似している、というような話でした。公演を聴いて、「アルツハイマー病も、DLBも、パーキンソン病も、同じ系統の疾患であろう」という私の信念がゆるぎないものとなりました。かくも臨床に即した研究が行われいるとは、凄いとしか言いようがない。しかも、手技的にかなり難度の高い実験をされていたので、かなりの苦労があったと思われます。


最後の特別講演は、かの有名な、IL-6とトシリズマブ(アクテムラ®)の話。岸本先生は、神経変性疾患のシンポジウムでの発表で、どうも肩身が狭い御様子でした(笑) 内容ですが、前半は総論的なことだったので面白くなかったのですが、後半の話が興味深かった。アクテムラ®は、非常に効果の高い薬ですが、静脈内投与を行わなければならないというデメリットがあります。抗体薬である限り、この障壁を超えることは叶いません。そこで、なんとか経口投与できる小分子薬はないか?と考えるのです。IL-6自体を標的とする限り、抗体が最も特異性が高く効果が高いと考えられるわけですが、岸本先生は、IL-6の分泌調節機構という点に着目されました。統合失調症の経口治療薬であるクロルプロマジンを投与すると、血中IL-6濃度が下がるというのです。現在、IL-6の調節機構をもっと特異的に抑制できるような小分子(クロルプロマジンアナログ)がないか探索中とのこと。特定の分子の発現調節機構についての研究という点では、あまり面白くはないですが、現行の薬の改良と新薬開発という視点は、医師ならではのものだなと感動しました。


統合失調症の人は免疫病を発症しにくい、免疫病の人の統合失調症有病率は低い、といった相関はあるのだろうか?たしか、免疫抑制剤タクロリムスの副作用に、統合失調症様症状というのがあったので、もしかしたら相関があるのかもねぇ。


まー皆さん、凄い研究をされていますね。

すばらしい研究・すばらしい公演に触れ、研究者としての感性を磨く絶好の機会でした。

願わくば、我がこの手で、すんごい研究を手がけてみたい。野心は大きくwww

p.s. チュウゾウではなく、タダミツと読むことを、今更知って、衝撃である。