重症敗血症におけるHES130/0.4と乳酸リンゲルの比較
A. Perner et al. June 27, 2012 (10.1056/NEJMoa1204242)
昨日は耳鼻咽喉科の卒業試験でした。図書館で息抜きに論文検索をしていると、面白い論文が掲載されていたのを発見したので、ご紹介いたします。循環血漿量を増加させたい場合の輸液について、敗血症で検討した論文です。日本でHESは普及していませんが、興味深い論文だと思います。
Background Hydroxyethyl starch (HES) 130/0.4 is widely used for fluid resuscitation in intensive care units (ICUs), but its safety and efficacy have not been established in patients with severe sepsis.
背景: ヒドロキシエチルデンプン(HES)130/0.4は、集中治療室(ICU)において輸液蘇生のために広く使用されている。しかし、重症敗血症患者においてHESの安全性と有効性は確立されていない。
【膠質浸透圧補正剤いろいろ】
ネフローゼ症候群・肝硬変・低栄養などの低蛋白血症により、膠質浸透圧が低下すると(=低アルブミン血症)、水分が血管から組織へ漏出し、浮腫をきたす。膠質浸透圧補正剤は血中膠質浸透圧を高め、組織中の浮腫液を血管内に引き戻して循環血漿量を増加させ、腎血流量と糸球体濾過量を高めて尿量を増加させる。補正剤には、①アルブミン②4.4%加熱ヒト血漿蛋白③低分子デキストラン④ヒドロキシエチルデンプン(HES)がある。③と④を併せて、代替血漿剤と呼ぶ。
【HES130/0.4】
置換度が0.4で重量平均分子量が130kDa(※)のヒドロキシエチルデンプン。置換度が0.4とは、デンプンが有するOH基の40%がヒドロキシエチル基に置換されていることを意味する。置換度が高いと、1-4-α結合を不規則に切断する酵素であるαアミラーゼで分解されにく、効果が長く持続する。置換度が低いと分解されやすく、代謝産物が血管外に漏出しやすくなる。また、分子の数自体は増えるため、膠質浸透圧は上昇する。HESはアルブミンなどの血液製剤よりも安価で感染の危険が少ないが、出血傾向や腎機能障害が懸念される。アルブミン投与しか見たことがないので、日本ではあまり普及していない(と思います)。※アルブミンは69kDa。

Methods In this multicenter, parallel-group, blinded trial, we randomly assigned patients with severe sepsis to fluid resuscitation in the ICU with either 6% HES 130/0.4 or Ringer's acetate at a dose of up to 33 ml per kilogram of ideal body weight per day. The primary outcome measure was either death or end-stage kidney failure (dependence on dialysis) at 90 days after randomization.
方法: 多施設並行群盲検法において、重症敗血症患者をICUにおいて6%HES 130/0.4および乳酸リンゲルによる輸液蘇生に無作為に割り付け、最大投与量は33ml/kg体重/日とした。主要転帰基準は、割り付け後90日時点における死亡もしくは末期腎不全(透析依存)とした。
研究で使用された輸液の組成は以下の通り。単位がmEqではなくmolであることに注意してください。ラクテック®に代表される乳酸リンゲルというのは通常、等張液であり、ECF(細胞外液)の補給を目的とするものです。が、研究で使用した乳酸リンゲルは、HES 60gの浸透圧を晶質で補うために、組成はNaとClが多く含まれているようです。

Results Of the 804 patients who underwent randomization, 798 were included in the modified intention-to-treat population. The two intervention groups had similar baseline characteristics. At 90 days after randomization, 201 of 398 patients (51%) assigned to HES 130/0.4 had died, as compared with 172 of 400 patients (43%) assigned to Ringer's acetate (relative risk, 1.17; 95% confidence interval [CI], 1.01 to 1.36; P=0.03); 1 patient in each group had end-stage kidney failure. In the 90-day period, 87 patients (22%) assigned to HES 130/0.4 were treated with renal-replacement therapy versus 65 patients (16%) assigned to Ringer's acetate (relative risk, 1.35; 95% CI, 1.01 to 1.80; P=0.04), and 38 patients (10%) and 25 patients (6%), respectively, had severe bleeding (relative risk, 1.52; 95% CI, 0.94 to 2.48; P=0.09). The results were supported by multivariate analyses, with adjustment for known risk factors for death or acute kidney injury at baseline.
結果: 無作為化割り付けを行った患者804例のうち798例が、修正した治療意図集団に含まれていた。2つの介入群のベースライン特徴は、同様であった。割り付け後90日においてHES群患者398人中201人(51%)が死亡し、対するリンゲル群は400人中172人(43%)が死亡した(相対リスク1.17、95%信頼区間1.01~1.36、P値=0.03)。各群ごとに1例が末期腎不全となった。90日間で、HES群の87例(22%)とリンゲル群の65例(16%)で、腎置換療法を行った(相対リスク1.35、95%信頼区間1.01~1.80、P値=0.04)。また、HES群の38例(10%)とリンゲル群の25例(6%)が重症出血を起こした(相対リスク1.52、95%信頼区間0.94~2.48、P値=0.09)。多変量解析を行い、死亡と急性腎障害(AKI)の既知のリスクファクターでベースラインを補正しても、これらの結果は保持された。
Conclusions Patients with severe sepsis assigned to fluid resuscitation with HES 130/0.4 had an increased risk of death at day 90 and were more likely to require renal-replacement therapy, as compared with those receiving Ringer's acetate. (Funded by the Danish Research Council and others; 6S ClinicalTrials.gov number, NCT00962156.)
結論: HES 130/0.4による輸液蘇生を行った重症敗血症患者は、乳酸リンゲルによる輸液蘇生を行った患者と比較して、90日死亡リスクが上昇し、腎置換療法が必要な傾向が高かった。(デンマーク研究評議会とその他が出資、臨床試験機構登録番号NCT00962156)
輸液っちゅーのは、なんだか分かりにくいですな。輸液の基本は、①0.9%生理食塩水orリンゲル液(0号液)、②5%ブドウ糖③アルブミン液、というのを思い出しました。1号~4号液は、1号液と3号液はリンゲルと5%ブドウ糖液の混合液で、2号と4号はさらにKの修飾を加えた輸液、というのを思い出しました。忘れとったんかいっ!て話だけど、良い復習になりました。復習メモでも貼り付けて、自己満足しておきます。参考文献2は、実践的で分かりやすかったです。

参考文献:
1. Hydroxyethyl starch(HES)製剤の現状と今後の展望 山蔭道明
2. 輸液・栄養リファレンスブック|決定版 福島亮治編 2011年4月
3. 水・電解質と酸塩基平衡 黒川清 著